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企業法務2023年01月11日 裁量労働制の扱いについて 執筆者:大神令子

裁量労働制について、国の審議会で審議が行われており、早ければ年内にも結論が出る、という報道に接しました。裁量労働制の扱いについて少し懸念もありますので、お話させていただきます。

今回、審議されている「裁量労働制」は、みなし労働時間制の一つとなります。みなし労働時間制は、一定の仕事をするにあたってそれに必要な労働時間を一定の時間であると事前に決めてしまう(みなす)労働時間制となります。このため、本来の週40時間1日8時間という労働時間の枠内で働かせるより厳密な対応が必要となります。

みなし労働時間制には、①事業場外みなし労働時間制、②専門業務型裁量労働制、③企画業務型裁量労働制があります。

① 事業場外みなし労働時間制は、事業場外で労働する方について、会社が労働時間の把握をすることが難しいという場合に、一定時間の労働をしていると決めてしまう労働時間制です。しかし、現在では携帯電話等で業務開始・終了の連絡が容易となっていますので、実質として事業場外みなし労働時間制は利用が難しくなっています。

② 専門業務型裁量労働制は、法律に定められた19業務について、労使協定によって日々の労働が一定時間であると事前に労働時間を決めてしまうものです。今回の審議会では、この19業務を増やそうという議案が出ているようです。

この19業務の業種のうちいくつかの業種では、この専門業務型裁量労働制を利用することが一般化しているようです。しかし、間違えた考え方での利用があるようですので注意が必要です。

③ 企画業務型裁量労働制は、企業の運営上の決定を行う本社等の企画、立案、調査及び分析を行う従業員を対象とした裁量労働制で、労使協定ではなく労使委員会での5分の4以上の多数による決議によって導入することができる裁量労働制です。そのため、専門業務型裁量労働制よりも導入が少ないのではないかと思います。

裁量労働制は、労働時間を法定の時間を超えて定めることも可能となっています。しかし、その予め定めた時間数が法定の週40時間、1日8時間を超える場合は、当然に時間外労働としての割増賃金を支払う必要があります。会社側は、自動的に残業をさせているのだ、という認識が必要です。

例えば、1日の労働時間を10時間と定めた場合、毎日2時間の残業をさせていることになります。当然に、その残業代分を外すと最低賃金の額より低くなるというような賃金額設定はできません。賃金額は、設定した労働時間に見合った額であることが必要です。もし、時間外労働が月60時間を超えるようでしたら25%ではなく50%の割増となります(現時点では企業規模による)ので、より注意が必要です。

もし1日2時間の残業が毎日あるとなれば、1カ月では45時間近い時間外労働となりますので、それ以上働かせることは基本的な労働時間の問題として、当然に好ましくないということになります。設定した時間数に関わりなく月45時間を超える残業が恒常的に生じるのであれば、特定条項付きの36協定の提出が必要となります。特別条項で認められる45時間超えの時間外労働は年6回(6カ月)以内ですので、毎月45時間を超えるような働かせ方は違法状態と言えると思います。

裁量労働制は、その労働時間について労働者に任せるという働かせ方ですので、業務の開始または終了時間を会社が指定することはできません。会社が残業を命じることもできません。もし、そのような働かせ方をしているのであれば、違法状態と言えると思います。

また、労働時間の把握が難しい業務と言っても、従業員の健康等を守るために勤務状況を把握する必要があります。過剰に長時間労働になっていたり休日が全くなかったりするような働かせ方はしてはいけないことになっています。裁量労働制を適用する従業員については、適用しない従業員より健康管理について厳しい対応を求められます。

もし、恒常的に定めた労働時間以上の労働時間が必要な勤務状況であるのであれば、業務内容の見直しの必要が生じます。業務内容の見直しができないのであれば、労使協定等で定める労働時間と賃金額の見直しが必要です。

裁量労働制は、世の中の働き方が変わってきたことによって、仕事の成果を時間で測ることが難しい業種が増えたため、より労働の内容に沿った働かせ方ができるように作られた制度です。その業務が時間を基準として行われるものではなく業務の成果に重心を置いた労働であるため、労働基準法による労働時間の枠に縛られることなく従業員が自由に働くことができるように作られたものであって、決して会社が従業員を働かせ放題にするための制度ではありません。

この裁量労働制度が上手く機能するようになれば、労使共に望ましい働き方・働かせ方ができるようになる可能性も十分にある制度です。労使共に都合の良いように考え違いをしないようにしていただきたいと思います。

(2022年12月執筆)

執筆者

大神 令子おおがみ れいこ

社会保険労務士

略歴・経歴

大神令子社会保険労務士事務所代表

2000年(平成12年)12月 社会保険労務士試験 合格
2001年(平成13年) 2月 大阪府社会保険労務士会 登録
2002年(平成14年) 4月 大阪府内社会保険事務所にて 社会保険相談指導員
2006年(平成18年)12月 大神令子社会保険労務士事務所設立

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