労働基準2024年07月29日 定年後の継続雇用について 執筆者:大神令子
最近、定年を70歳まで引き上げる企業についての報道があったり、高年齢者雇用状況等報告書の提出を求められたりして、高齢者雇用について意識する機会が増えてきているように思います。政府としては少子化の結果として現役世代の人数が減ってきたために高齢者にも働いていただく必要が生じているということがあり、各企業でも人材確保のためにも定年後の方々の雇用を続けたいという意識もあるのではないかと思います。
今回は、高齢者雇用を規定する場合の注意点について、考えてみようと思います。
高齢者を雇用するパターンとして、多くの場合は以下の3つの方法になるかと思います。順番に考えてみましょう。
① 定年の引き上げ
現在の労働法では、定年は60歳を下回ってはいけないとなっており、60歳未満の定年を設けている企業は無いと思います。逆に60歳以上であれば何歳に設定しても良いですので、60歳以上の定年を設けている企業もあると思います。
定年は、労使双方に特別な理由がない限りは、その年齢まで雇用を続けることを宣言していることになります。このため、あまりに高齢に設定すると、それまでの間は正当な解雇理由がない限りは企業側から辞めていただくことができなくなります。この「正当な理由」には「高齢であるため」は含まれませんので、年齢を理由とした雇用関係の解消は定年しかないことになります。
定年年齢の設定を考える時には、何歳まで働いていただくことが適切なのか?を考える必要があるのではないかと思います。中には定年があることによって健康状態が好ましくなくても頑張ってしまわれる方もいらっしゃるかもしれません。60歳より高い定年年齢を設定する場合には、業務内容と年齢が適切な関係であるかを考える必要があると思います。
例えば、高齢となると行いにくい業務であるのならあまり高齢での設定は望ましくないことになりますし、長期間の勤務によって業績向上に繋がる業務であれば高齢までの雇用が望ましくなります。そう考えた場合に、同じ企業の中でも業種や部署によって複数の定年年齢の設定が必要と考えられるケースもあるかと思います。複数の定年年齢の設定が可能かといえば、それ自体は可能です。業務等によって何歳の定年にするのかという切り分けを行い、その切り分けが正当であり、従業員の皆様の納得が得られ、就業規則に規定するのであれば、60歳と65歳等の複数の定年年齢を設けることは可能です。とは言っても、同じ社内で定年が違うことになればトラブルとなる可能性も十分にありますので、安易に導入できるものでもないとは思います。もし、複数の定年年齢を導入するのであれば、従業員の皆様との十分な話し合いが必要になると思います。
高齢まで雇用するとなれば、当然に給与の問題も出てくるかと思います。最近は役職定年が行われて、一定以上の年齢の方は役職手当が外されるケースが多いのではないかと思います。それ以外にも、適正な評価を行って適正な給与額の設定をされる必要もあるかもしれません。評価制度は適切な運用が難しい部分もありますが、労使共に有用な制度として活用されることが良いのではないかと思います。
② 継続雇用の延長
定年年齢自体は60歳のままで、65歳まで継続雇用をされている企業が多いのではないかと思います。労働法では、定年時点で労働者(従業員)が望めば65歳までは雇用しなければならないことになっています。この継続雇用を65歳以上の年齢に引き上げ、長期間の継続雇用を行えば、定年年齢そのものは変えなくても高齢者の雇用が可能となります。継続雇用は65歳までとしつつ、雇用する側が必要と認める場合は継続期間を延長すると規定されている企業もあるのではないかと思います。
この場合に問題となるのは、定年以降の継続雇用は1年毎の契約更新、つまり有期雇用となっているケースが多いのではないかという点です。高齢者であっても5年以上契約更新をした場合は無期転換の対象となります。もし65歳を超えて無期転換となれば、結果的に定年年齢を引き上げるのも同然の事態となってしまいます。
この場合に、特例として都道府県労働局長の認定を受ければ、無期転換の申込権を外すことができるという制度があります。この認定を「第二種計画認定」といい、第二種計画認定申請書を都道府県労働局へ提出する必要があります。この特例は、あくまでも自社での定年により継続雇用として有期雇用を行っている場合に限定されます。定年前から有期雇用だった方や定年年齢以降に他社から転職された方は対象外となりますので御注意ください。第二種計画認定申請の詳細は、労働局か社会保険労務士にお尋ねください。
定年後の継続雇用だからという理由で給与額を下げるのは、同一労働同一賃金の原則に反する可能性があります。業務内容が変わらないのに給与額を減額することの無いように御注意ください。
③ 新しく高齢者を雇用する
一般的には自社に長年勤務された方をそのまま雇用されるケースが多いのではないかと思いますが、新しく高齢者を雇用されるケースもあるかと思います。
その場合は、他社で培われた経験を活かしていただくということができる一方、比較的若い世代の中途採用より他の従業員との兼ね合いが難しくなる可能性もあります。対象の方が自社と合う方なのかどうかの見極めが重要になると思います。
(2024年7月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者
大神 令子おおがみ れいこ
社会保険労務士
略歴・経歴
大神令子社会保険労務士事務所代表
2000年(平成12年)12月 社会保険労務士試験 合格
2001年(平成13年) 2月 大阪府社会保険労務士会 登録
2002年(平成14年) 4月 大阪府内社会保険事務所にて 社会保険相談指導員
2006年(平成18年)12月 大神令子社会保険労務士事務所設立
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