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労働基準2024年01月10日 年収の壁・支援強化パッケージについて 執筆者:大神令子

最近、パート勤務の方の「年収の壁」に対する国の施策について、お問い合わせいただくことが増えていますので、簡単に説明いたします。
1. 年収の壁とは
 根本的に、扶養される配偶者がいらっしゃる方限定のお話です。配偶者の被扶養配偶者となることによって、税金や社会保険料の支払いが不要又は減額されるという制度がありますが、一定の年収を超えた場合は被扶養配偶者では無くなりますので、優遇が無くなるという制度について「年収の壁」と言います。
 独身の方については、年齢・性別に関わりなく「年収の壁」は関係ありません。一方で、男性であっても配偶者である妻の被扶養配偶者になることは可能ですので、その場合は「年収の壁」が関わることになります。
 パート勤務の方が気にされる「年収の壁」の額には3種類あります。
  ① 103万円…税金に関する額。年間収入が103万円より少なければ所得税が掛かりません。また、配偶者の方の配偶者控除(配偶者特別控除)の対象になりますので、配偶者の方の税金が安くなります。
  ② 106万円…社会保険料に関する額。パートの勤務先が101人以上の従業員がいる会社で、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方が対象です。年間収入が106万円までであれば社会保険に加入する義務はなく、社会保険料が掛かりません。なお、2024年10月からは従業員数が101人以上の会社から51人以上の会社に拡大されます。
  ③ 130万円…社会保険料に関する額。パートの勤務先が②に該当しない小規模な会社で、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方が対象です。年間収入が130万円までであれば社会保険に加入する義務はなく、社会保険料が掛かりません。
 税金に関する扶養の範囲と社会保険に関する扶養の範囲を混同されている方がいらっしゃいますので、その違いを御理解ください。今回の措置は社会保険に関するもののみです。また、企業規模によって社会保険の加入義務が生ずる収入額が変わりますので、その点も御注意ください。
 106万円や130万円を超えると社会保険料の支払いが発生しますので、手取り額が減るということになります。それを避けるために年末近くになると労働時間を調整する方がいらっしゃるのですが、それでは収入が低いままになってしまうという問題があり、106万円や130万円を超えて働く場合に、働き損にならないようにするために「年収の壁・支援強化パッケージ」が作られました。
 なお、厚生年金の「扶養の範囲」は、昭和の頃に年金制度が大きく変わった時に、それまでは厚生年金に加入して働いている人に扶養される主婦の方々には国民年金への加入義務が無かったため、それを「第3号被保険者」として残したことによって生じているもので、恩恵的措置であることは御理解いただきたいです。本来であれば被扶養配偶者であっても国民年金に加入し、その保険料を支払う必要があります。
 また、自分で社会保険に加入して保険料を支払うことによって、老後の生活資金としての年金が確保できるようになることも意識していただきたいと思います。現在、年金額が低すぎて生活に困窮されている高齢女性が増えているという問題も御理解ください。
2. どのような支援があるのか
 支援の内容は、年収が106万円までの区分けの方と130万円までの区分けの方とで全く違うものとなっています。
  ① 106万円までの対象の方
   時給単価が高くなったり労働時間が長くなる等によって年収が106万円を超え、保険料を支払うために手取り額が減ってしまう従業員に対して、会社がその保険料額に該当する金額を補填したり、労働時間を長くして給与額を上げるなどの取り組みをした場合に、国からその会社に対して助成金を支払うことで、会社を支援します。
   この場合には、従業員であるパート労働者の方は特に対応する必要はありません。御自身は、そのまま社会保険に加入していただくことになります。
   上記のような取り組みをされた会社は、「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」の支給申請をなさってください。支給が決定されましたら、労働者1人あたり3年間で最大50万円の助成金が支給されます(大企業はその3/4)。
  ② 130万円までの対象の方
   今までも、たまたま繁忙期に残業が重なった等で一時的に130万円を超えた方については、厳密に被扶養配偶者から外すという対応はしていませんでした。
   その扱いについては今後も当面は同様なのですが、それをより明確にするために、パートの方の勤務先の会社に「被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書」を作成していただき、130万円を超えたことが一時的なものであると証明していただき、扶養している方の勤務先での健康保険の保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に提出していただくこととなります。
   この証明書が必要となるのは、扶養している方が加入している健康保険組合等が証明を求めた場合となります。通常は新しく被扶養者となる時と、健康保険組合等が収入確認をする時となります。協会けんぽの場合は、年1回、11月頃に収入確認が行われています。この証明書が必要かどうかは、扶養している方の勤務先で加入している健康保険に御確認ください。
   令和5年については、この証明の対象となるのは10月20日以降の収入についてです。それ以前について遡っての確認はありません。
   「被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書」は、厚生労働省のWebサイトの「年収の壁・支援強化パッケージ」のページからダウンロードできます。
   なお、「2年間」という期間を仰る方がいらっしゃいますが、この措置が2年間のみということではなく、会社の証明が連続する2年間について行うことができるということです。
 この会社の証明による支援は、あくまでも一時的に年収が130万円を超える状況となった場合のことで、毎年130万円を超えているとか、時給単価を上げたり勤務時間を長くするなどをして年収が130万円を超えるような雇用契約になっている場合は対象とはなりません。その場合は、被扶養者から外れ、御自分で社会保険にご加入ください。
 また、勤務ではないフリーランスや自営業の場合は対象外です。御注意ください。

(2023年12月執筆)

執筆者

大神 令子おおがみ れいこ

社会保険労務士

略歴・経歴

大神令子社会保険労務士事務所代表

2000年(平成12年)12月 社会保険労務士試験 合格
2001年(平成13年) 2月 大阪府社会保険労務士会 登録
2002年(平成14年) 4月 大阪府内社会保険事務所にて 社会保険相談指導員
2006年(平成18年)12月 大神令子社会保険労務士事務所設立

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