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人事労務2020年05月04日 新型コロナウイルスに関連して各企業で行うべきこと(後編) 執筆者:大神令子

前編では、事業縮小・在宅で仕事をするケースについてお話いたしました。
後編では、その続きとして休業と解雇に関してお話いたします。

休業させる場合について

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために行政から直接休業を要請された業種でも、そうではないが新型コロナウイルスの影響で休業せざるを得なくなった企業でも、対応としては同じです。
残念ながら、厚生労働省の判断としては、どちらのケースであっても会社都合の休業という扱いになっています。これは、休業要請によって会社そのものは休業したとしても、個々の従業員についてはテレワーク等の在宅勤務をさせることを考えなければならず、それができないのは事業主の責任になるということだからだそうです。経営者側からすると理不尽に感じますが、そのような指導が行われている以上は対応せざるを得ません。
会社都合の休業ということになると、本来給与の6割以上の給与額の支払い(休業手当)が必要となります。もし、1日のうち一部について労働させ一部を休業させた場合は、その休業させた労働時間の6割となります。例えば所定労働時間が1日8時間で、そのうち4時間だけ休業させた場合は、労働させた4時間については本来の給与額の4時間分全額、休ませた4時間については本来の給与額の6割以上ということになります。これらの休業手当については、通常の給与の支払いと同様の時期に同様の方法で支払うことで全く問題ありません。

雇用調整助成金について

これらの休業手当に対して厚生労働省は雇用調整助成金で対応するとしています。この助成金の支給があることは、すでに多くの経営者の方が認識なさっておられ、その相談を受ける社会保険労務士も多くいます。また助成金を扱うハローワークは連日多くの相談者が訪れ、地域によっては完全予約制になっています。
雇用調整助成金は非常に準備が大変な助成金です。この新型コロナウイルスによる非常事態とも言って良い状況に適切な助成金とは思えませんが、現状ではこれで対応するしかありません。ただ、毎日のように制度が変わっていますので、今後、もっと申請しやすく受給しやすい制度に変わる可能性もあります。このため、慌てて受給しようとせず、暫くは様子を見られた方が良いかもしれません。
元々助成金というものは休業や給与支給が確定した後でなければ申請することができません。給与の支払い前に受給することはできないものです。そしてその申請があって初めて審査が行われ支給決定が行われ振り込まれますので、実際の給与支払いからは早くても3か月ほど経過してからでないと入金されないとお考えいただいた方が良いものです。厚生労働省は1か月で審査すると言っていますが、これだけ集中して申請がある中で、それは期待できないだろうと思います。助成金では目先の資金繰りには利用できませんので、御注意ください。
この助成金について、給与額の9/10の支払いがあるという話だけが広く伝わり、従業員の中には「だから給与を支払え」と迫る方もいると聞いています。しかし、それは誤解です。まず9/10は本来の給与額に対するものではなく支払った給与額に対するものですし、また8,330円という上限額もあります。決して給与額の全額の支給があるものではありませんし、まして助成金で儲けたりすることはできませんので、経営者の皆様も従業員の皆様も誤解のないようにお願いしたいと思います。
雇用調整助成金は過去の経緯もあって非常に受給しづらい助成金です。各企業が自力で手続きすることは困難を伴うだろうと思います。しかし一方で、不正受給があった場合は手続きを代行した社会保険労務士は資格を失うこととなります。そのため、この助成金を扱いたくないと考える社会保険労務士は多く、真面目な社会保険労務士ほど嫌がります。なぜなら、社会保険労務士には企業から提出された書類が事実かどうかの確認まではできないのにも関わらず、その責任を負わされるからです。雇用調整助成金に対する社会保険労務士の関与については、このような事情があることは御理解ください。
雇用調整助成金を受けるためには、①従業員を休ませること、②休ませた従業員に6割以上の給与を支払っていること、③売上高(生産指標)が前年同時期と比べ5%以上減少していることが必要です。売上高が減っていないという点で受給できないケースもありますので御注意ください。また、支給される助成金額は個々の従業員に支払われた給与で算出するのではなく、前年度の労働保険料の算定基礎となった給与総額から算出されます。また、上限額(8,330円)までの支給しかされませんので、思っていらっしゃるより給付額が少なくなるケースも多いですので、併せて御注意ください。
今後、手続きが簡素化される可能性はありますが、とりあえず現時点では、計画届の提出と支給申請書の提出は必須となります。
支給申請のために必要な書式はこちら
 ↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyouchouseijoseikin_20200410_forms.html
この書式も何度も変わっていますので、実際に提出される時には変更がないか御確認ください。
この定型の書式の他に、休業に関する労使協定が必要となります。この労使協定の書き方によっては受給が難しくなる可能性もありますので、よく確認して作成してください。

小学校休業等対応助成金について

3月に国の要請により学校等が休校したことにより支給される助成金です。同様に個人事業主への支給として小学校休業等対応支援金があります。4月以降も休校が続いていますので、現時点では6月30日までの休業について対象となっています。
これは雇用調整助成金に比べ手続きがしやすい制度となっています。事業規模として雇用保険に加入していない事業所であっても労災に加入していれば対象となります。また、従業員も雇用保険に加入している従業員でなくても対象となります。
この助成金は、従業員に支払われた給与額の全額が助成されます。ただし、8,330円の上限がありますので、それ以上は支払われません。
対象となる従業員には、本来の給与額の全額を支払っている必要があります。雇用調整助成金は6割以上の給与支給となっていますので、もし全額のお支払いをされない場合は雇用調整助成金での対応となります。一つの事業所の中に小学校休業等対応助成金の対象者と雇用調整助成金の対象者が混在していても問題ありませんが、一人の従業員について支給される助成金はどちらか一方のみです。
必要となる書類に、学校等が休校となったことに関する書面があります。学校等から保護者に渡されているはずですので、そのコピーを提出してください。無ければ確認書に記載する必要があります。その他に必要な添付書類は、出勤簿やタイムカード、賃金台帳、就業規則、労働条件通知書や雇用契約書、通帳またはキャッシュカードの写しなどです。
支給申請のために必要な書式はこちら
 ↓
https://www.mhlw.go.jp/content/000624300.pdf
提出先は雇用調整助成金等一般的な助成金とは違い学校等休業助成金・支援金受付センターになりますので、御注意ください。

従業員が新型コロナウイルスに感染して休業する場合

従業員が新型コロナウイルスに感染したことにより休業する場合は、他の病気やけがでの欠勤と同じ扱いになります。つまり、労災か傷病手当金の扱いとなります。
この原稿を執筆している時点で、労災(通勤災害を含む)については、感染経路が特定できなくても業務上であることが認定できれば対象とする方針との報道がなされています。しかし、当然のことながら私的行為による感染は認められませんし、通勤電車の中での感染として通勤災害を認められる可能性も低いのではないかと思います。業務性が認められやすい医療従事者、介護従事者の方等は当然のこととして、スーパーのレジや宅配運送業等、人と接する業務を行う従業員の感染の場合は労災申請も御検討ください。
感染理由が私的行為による場合は傷病手当金の対象となります。この場合も、通常の傷病手当金と同様の手続きを行っていただくことになります。
労災でも傷病手当金でも、当然に医師の証明が必要となります。感染した従業員には軽症であっても医師の診察を受けていただくように指導してください。いずれの場合も、給与の支払いは控えた方が良いでしょう。給与の支給に関しては新型コロナウイルスの感染によらない休業とは扱いが変わりますので御注意ください。

解雇する場合について

この原稿を執筆している時点で、私が関与している企業様や交流させていただいている人事の皆様の企業様では解雇を検討されていらっしゃる企業はありません。おそらく、世の中の殆どの企業がそうだろうと思います。国の方針としても雇用は維持していただきたいという方向です。しかし、もしも解雇しなければならなくなった場合には当然に行わなければならないことがありますので、御注意ください。なお、決して解雇を勧めているわけではありません。
この新型コロナウイルスに関連する解雇であったとしても、それだけでは解雇は認められない可能性が高いです。解雇を行うには、所謂、整理解雇の原則を守る必要があります。単純に「新型コロナウイルス関連」というだけでは解雇は認められないとお考えください。それは、休業について事業主責任を求めていることと同様です。
整理解雇の4要件と言われるものがあります。①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性です。これは労働契約法が施行された後も同じです。これに合致できる解雇でなければ解雇無効となる可能性が高いです。
日本では一時解雇は認められていません。雇用を続けるより失業手当を受けてもらった方が労働者にとっても良いという理由で再雇用を前提に解雇したタクシー会社の報道がありましたが、このケースでも、もしも従業員側から訴えがあれば会社側が負ける可能性は十分にあります。また、この場合、業務を再開できるとなった時に選択的な呼び戻しは許されない一方、従業員が他の企業に勤務してしまったら、その人を呼び戻すことはできなくなります。リスクの高い方法だと思いますので、お勧めはできません。
日本においては解雇のハードルは非常に高いです。それが良いことかどうかとは別の問題として、可能な限りの雇用維持は続けるよう努力なさってください。

この新型コロナウイルスによる影響がいつまで続くことになるのか全く不明ですが、国の制度も利用しつつ、コロナ後を見据えて事業を維持していただきたいと思います。

(2020年4月執筆)

執筆者

大神 令子おおがみ れいこ

社会保険労務士

略歴・経歴

大神令子社会保険労務士事務所代表

2000年(平成12年)12月 社会保険労務士試験 合格
2001年(平成13年) 2月 大阪府社会保険労務士会 登録
2002年(平成14年) 4月 大阪府内社会保険事務所にて 社会保険相談指導員
2006年(平成18年)12月 大神令子社会保険労務士事務所設立

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