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一般2025年07月16日 スポーツ団体の利益相反管理 執筆者:多賀啓

1.  スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>原則81では、スポーツ団体が「利益相反を適切に管理すべきである。」ことが定められており、具体的な内容の一つとして、「役職員、選手、指導者等の関連当事者とNFとの間に生じ得る利益相反を適切に管理すること」が指摘されています(NFとは、中央競技団体(National Federation)を意味します)。
では、実際上、利益相反を適切に管理する方法としてどのような取組みが考えられるでしょうか。

2.  スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>原則8でも言及があるように、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(いわゆる一般法人法)や公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(いわゆる公益法人認定法)において、理事の利益相反取引に関する承認決議が必要であることや、公益法人においては一定の範囲の者に対する特別の利益の供与の禁止等、法律上与えられている利益相反に関するルールがあります。
上記法令上求められる事項に加え、ガバナンスコードの補足説明では、NFの定款や利益相反に関する規程において、理事の利益相反取引を原則として禁止する条項、利益相反取引を実施する場合の議決方法に関する条項、利益相反に該当するおそれがある場合の申告及び承認後の報告に関する条項等の必要な規定を設けること、NFの機関において利益相反取引を承認する場合には、その取引についての重要な事実の開示、取引の公正性を示す証憑の有無、内容、議論の経過、承認の理由・合理性等につき、会議体の議事録に詳細に記載し、意思決定の透明性を確保すること、等が指摘されており、加えて、入札や相見積もりを取った上での随意契約等、契約の公正さを担保する方法にも言及されています。

3.  上記に加えてどのような取組みをするかは、各NFに委ねられているともいえますが、上記1のとおり、利益相反を管理する対象としては、理事だけではなく、役職員、選手、指導者等の関連当事者と広く挙げられています。
NFの中には、法令上求められている事項に加え、疑義が生じた場合に関係者がしかるべき機関に申告するということにとどまらず、役員、評議員、事務局員、委員会委員等に対して、年1回定期的に連盟との取引(自身だけではなく自身と一定の関係がある会社や関係者)の有無等を申告することを義務付け、実践し始めている団体もあります。ここでポイントとなるのは、利益相反=全てやってはいけないものとして禁止するために行う、というのではなく、各取引の内容の公正性や団体にとっての必要性等をチェックすることを目的として行うということです(もちろん、チェックした結果問題がある取引があれば規制する必要が出てきます)。
また、代表選考決定や懲戒処分決定に当たっては対象者と利害関係を有する者を決定プロセスに加えないことや、審判員が大会に参加する際に、参加選手との間で、競技の公正性を害してしまうような関わりがないかをチェックするという仕組みを取っている例もあります。

4.  仕組み作りやスポーツ団体(NFに限られません)の日常的な運営について、独立行政法人日本スポーツ振興センターが公開している「スポーツ団体における利益相反管理 Q&A集 ~誇りある団体運営に向けて~」2は必携といえるでしょう。
そして、NFが様々な場面において公正性・透明性を確保していく上では、利益相反管理に関する取組みを進めていくことは必須であり、併せて、関係者が、自身の利益相反の可能性を敏感に察知し、必要な開示をすることが公正性・透明性確保につながるという意識を醸成していくことも肝要です。そのためには、利益相反に関する研修を定期的に実施することも有益でしょう。

(2025年7月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

多賀 啓たが ひろむ

弁護士(パークス法律事務所)

略歴・経歴

パークス法律事務所・弁護士
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人等候補者
第一東京弁護士会総合法律研究所 スポーツ法研究部会 部会長

学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決

著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)
『スポーツ事故の法的責任と予防 ~競技者間事故の判例分析と補償の在り方~』(編著)道和書院(2022年3月)
『これで防げる!学校体育・スポーツ事故 科学的視点で考える実践へのヒント』(編著)中央法規出版(2023年9月)
『実務対応 株式会社の清算手続における疑問点-解散・通常清算を円滑に進めるために』(共著)新日本法規出版(2024年1月)

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