カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

契約2026年08月04日 国際契約アラカルト(英文契約書(10)) 執筆者:矢吹遼子

 今回は、各種の英文契約に共通して登場する条項や、国際取引に特有の制度について、実務上特に注意したいポイントをご紹介します。一般条項は契約書の後半にまとめて置かれることが多く、つい定型文として読み流しがちですが、紛争時の結論を大きく左右することがあります。

1、一般条項は「定型文」ではない

 まず、完全合意条項(Entire Agreement)は、契約書が当事者間の最終かつ完全な合意であり、それ以前の口頭・メール・資料等による説明や合意に優先することを定めます。交渉時に「この条項はデフォルトで入れているのですが、本件には適用しません」と説明を受けていても、契約書に反映されていなければ、その説明を後に主張できない可能性があります。適用しない条項は削除し、必要な合意は必ず契約書に明記することが重要です。
 譲渡制限条項(Assignment)については、権利義務の譲渡だけでなく、再委託、担保設定、関連会社への移転まで対象となっていることがあります。実際の業務で下請業者やグループ会社を利用する予定がある場合には、例外を設ける必要がないかを確認しなければなりません。
 また、権利放棄条項(Waiver)は、一度契約違反を見逃したからといって、将来の違反を追及する権利まで失うものではないことを定めます。
 分離可能性条項(Severability)は、一部の条項が無効となっても、契約全体を当然に無効とはしないための条項です。
 いずれも短い条項ですが、紛争時には重要な役割を果たします。

2、不可抗力条項と責任制限

 不可抗力条項(Force Majeure)は、災害、戦争、政府の措置、禁輸、資材不足等、当事者の合理的な支配を超える事情によって履行が遅延・不能となった場合の免責を定めます。英文契約書の不可抗力条項で通常挙げられている項目は、非日常的かつ予測困難なものが多く、これらに類する事由がなければ免責されないという考え方です。一方、日本法では、債務者は、帰責事由がなければ損害賠償責任を負わないという民法上の原則があります。そのため、準拠法が日本法である契約において、英米法型の不可抗力条項をそのまま置くと、かえって免責事由を限定する解釈につながる可能性もあります。
 どのような事由を挙げておくかについても、きちんと確認が必要です。新興国や発展途上国は法律が頻繁に変わるので、それを踏まえた記載にしておくことが望ましいです。関税の急激な引き上げや輸出入規制もこれに含めるのかも、取引内容に応じて検討すべきです。
 また、不可抗力条項が定める効果は通常「免責」であり、契約解除まで当然に認めるものではありません。不可抗力が長期間継続した場合に契約を終了させたいのであれば、「90日以上継続した場合には解除できる」など、解除権を明示する必要があります。

 責任制限条項(Limitation of Liability)では、間接損害、特別損害、結果的損害、逸失利益等を賠償の対象から除外するとともに、賠償額の上限を契約金額や直近一定期間の支払額に限定する例が多く見られます。
 英文契約書では、責任制限条項(Limitation of Liability)が、全文大文字や太字で記載されていることがよくあります。これは、単に重要な条項であることを強調するためだけではありません。米国統一商事法典(UCC)では、商品性(merchantability)や特定目的適合性に関する黙示の保証を排除する場合、その文言を相手方が容易に認識できるよう、目立つ形で記載することが求められています。この実務慣行が、保証の否認条項だけでなく、責任制限条項にも広がったものです。
 もっとも、責任制限条項は、太字や大文字で書けば常に有効になるわけではありません。適用される法律によっては、故意・重過失による損害、生命・身体に関する損害、消費者契約上の責任などについて、免責や責任制限が認められないことがあります。また、一方当事者に著しく不利な条項は、公序良俗や不公正条項規制等によって効力が否定される可能性もあります。
 条項が太字や大文字になっている場合には、単なる書式上の特徴として読み飛ばすのではなく、どの損害が除外されているのか、責任総額の上限はいくらか、故意・重過失や知的財産権侵害等が例外とされているかを確認する必要があります。

3、準拠法・紛争解決とCISG

 準拠法を日本法と定めても、知的財産権の成立・有効性、輸出管理、競争法、消費者保護法など、相手国の強行法規の適用を排除できるとは限りません。準拠法条項だけで安心せず、取引地、販売地、製品の用途等を踏まえ、現地法による規制を確認する必要があります。
 紛争解決条項は、準拠法とセットで検討します。国際仲裁は、ニューヨーク条約により外国での執行が比較的容易で、手続の非公開性、中立性、専門性といった利点があります。一方、仲裁人報酬等により費用が高額となることがあります。近年は、まず国際調停を試み、一定期間内に解決しなければ仲裁へ移行する「調停・仲裁」の段階的条項も選択肢となります。
 国際物品売買では、ウィーン売買条約(CISG)の適用にも注意が必要です。日本法を準拠法とした場合でも、要件を満たせばCISGが自動的に適用されることがあります。CISGには、契約成立、検査・通知義務、履行停止、知的財産権の非侵害等について日本法と異なる規律があるため、適用を望まない場合は明示的に排除する条項を設ける必要があります。

4、輸出管理・贈収賄規制

 米国企業との契約では、EAR、ITAR、OFAC制裁等の輸出管理規制を遵守する条項が置かれることがあります。これらは米国企業だけの問題ではなく、米国原産品、技術、ソフトウェアを含む製品の再輸出等について、日本企業にも適用され得ます。
 また、米国FCPAや英国Bribery Actは、一定の場合に外国企業にも域外適用されます。契約上、取引先、従業員、代理店、下請業者にまで法令遵守を求め、帳簿・記録の整備や監査への協力を義務付ける例も少なくありません。定型的なコンプライアンス条項であっても、自社が実際に履行できる内容か、関連会社や委託先まで管理できるかを確認することが大切です。

 英文契約書では、条項のタイトルや形式が同じでも、その内容と効果は一様ではありません。「いつもの条項」と読み流さず、取引の実態、準拠法、履行地、相手国の規制を踏まえて、一つひとつの条項が自社にどのような義務とリスクをもたらすかを検討することが、国際契約実務の基本となります。

(2026年7月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ

弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)

略歴・経歴

平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。

執筆者の記事

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索