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民事2026年10月02日 工作物責任の「占有者」とマンション管理組合 執筆者:政岡史郎

 令和8年1月22日の最高裁判決(R6(受)385号)で、区分所有マンションの共用部の欠陥に関してマンション管理組合の責任が認められました。
 この最高裁判決の興味深いところは、契約上の債務不履行責任や一般不法行為(民法709条「故意・過失で他人の権利・利益を侵害した者は損害賠償の責任を負う。」)ではなく、特殊な不法行為責任の一つである「工作物責任」(民法717条1項本文「工作物の設置・保存の欠陥で他人に損害が生じたときは、その占有者が損害賠償の責任を負う。」)によって管理組合の責任を認めたことです。
 この「工作物責任」は、土地上の建物の設置や保存に欠陥があった場合には、建物等の「占有者」に第一次的な損害賠償責任が発生するというものです(「占有者」に故意過失が無かった場合、最終的には「所有者」が賠償責任を負います)。
 この裁判は、マンションの住民(被害部屋の区分所有者)が漏水事故で被害を受け、漏水元とされた他の部屋の区分所有者と管理組合を相手取って起こした賠償請求訴訟です。
 一連の審理の過程で、漏水事故の原因がその部屋と隣の部屋を隔てる躯体コンクリート壁の亀裂にあったことが判明していました。同部屋の区分所有者は、室内が原因であれば単独占有者(兼所有者)として責任を負います。しかし、原因となる躯体コンクリート壁はマンションの共用部なので、被害部屋の区分所有者と同様、共同所有者である区分所有者全員のうちの一人にすぎません。したがって、その部分の欠陥を根拠に訴えるのであれば、本来は区分所有者全員を相手にする必要があります(ややこしいですが、被害部屋の区分所有者自身も、賠償義務を負う『区分所有者全員』のうちの一人です)。区分所有者全員を相手にするのは、大規模マンション等になると相当大変です。

 一審の地方裁判所は、マンションの共用部が区分所有者全員の共有であることを踏まえ、「工作物責任」上、共用部の「占有者」はあくまで区分所有者全員であるとし、管理組合は「占有者」ではないと判断していたようです(判決に明示されてはいませんが)。その一方で、管理組合には、被害者が区分所有者全員に共用部の「工作物責任」を追及した場合に「区分所有者全員から賠償義務を全額履行する権限が付与されている」と判示して、被害者からの請求を認めました。『占有者本人としての賠償責任はないが、賠償責任を負う占有者から賠償の履行権限を与えられている』という判断です。被害者を救済する理屈としてはとても面白いです。
 その後、二審の高等裁判所は「占有者」に該当するか否かを明確に示し、管理組合は「工作物責任」上、共用部の「占有者」に当たらないと判示していましたが、最高裁になって、管理組合が共用部の「占有者」であり、民法717条によってダイレクトに責任の主体になると判示しました。

 一般的に、「占有者」「占有」という概念は日常生活であまり意識されていないと思いますが、これは法制度の中で作り上げられた概念なので、物理的な所持や物質的な占拠状態だけで捉えるものではありません。例えば、直接占有する転借人を「直接占有者」、転貸人を「間接占有者」といって両者に「占有」を認めたりしますし、アパートの賃貸借契約をした賃借人自身を「占有者」としつつ、その配偶者や家族は「占有補助者」として扱われ、補助者による「占有」は補助者ではなく補助させている「占有者」自身の責任とされたりします。
 そして、不法行為の分野では、『被害者の救済』・『損害の公平な分担』という観点から様々な論点が判断されるのですが、「工作物責任」では、危険を生む工作物をコントロールできる者に責任を負わせることが妥当と考えられており、ここでいう「占有者」は、一般的に、「工作物を事実上支配するものでその欠陥を修理し、損害の発生を防止できるもの」と考えられています。
 確かに、例えば廊下やエレベーター、エントランス、駐車場など区分所有マンションの共用部は、区分所有者全員が共有し、日々の生活上で物理的に利用しています。
 しかし、区分所有法上、その共用部を区分所有者が独自に維持管理・修繕等することは予定されておらず、管理組合という団体を発足させ、組合に維持管理・修繕業務を行わせることになっています。そのため、管理組合は区分所有者から管理費用や修繕費を徴収しつつ、維持管理・修繕業務の当事者となって各種業者に工事を発注することになります。
 そうすると、区分所有者としては、共用部に問題が生じた場合に、あえて区分所有者全員が責任の当事者となって賠償するのではなく、管理費や損害保険の中から支出されることを期待しているでしょう。また、通常は管理組合が被保険者となって共用部の損害保険にも入っていると思いますので、『被害者の救済』や『損害の公平な分担』という側面からしても、損害保険で賠償の負担にも耐えうる管理組合が「工作物責任」の主体(つまり「占有者」)になって被害者に賠償するという結論は、妥当なものと言えるでしょう。
 一つの妥当な結論を導くために裁判所がそれぞれ別個に様々な論理を展開していく。一審から最高裁まで読んでみると、それが垣間見れてなかなか面白い事案でした。

(2026年9月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

政岡 史郎まさおか しろう

弁護士

略歴・経歴

  H7  早稲田大学卒業、小田急不動産(株)入社
  H13 同社退社
  H17 司法試験合格
  H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
  H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任

著書
「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)

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