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企業法務2021年12月08日 中小企業経営と「持続可能な開発目標(SDGs)」(2) 2030年、人権を実現できるビジネスをめざす ~ビジネスと人権に関する国連指導原則 そしてSDGsを追い風に~ 執筆者:池内秀樹

4.ロゴで世界は変わらない

 ロゴが世界を変えることはありません。SDGsが求めるのは「我々の世界」の「変革」―――未来に向けて、企業、そして一人ひとりの「あり方の変革」です。そして、17の目標すべてが人間の生命や暮らしと密接に関わる諸課題に対するゴールであることからも分かるように、その核心はすべての人々の基本的人権の実現にあります。その意味で、中小企業におけるSDGsの実践とは、関わる人々の基本的人権を重んじた経営のあり方、ビジネスのあり方を体現することに他なりません。したがって、そこでは企業個々のたゆまない自己変革がこれまで以上に厳しく求められることになります。

5.中小企業家同友会の掲げる「人間尊重の経営」

 私の勤める中小企業家同友会には、中小企業経営のありようをあらわす「人間尊重の経営」という言葉があります。響きの美しい言葉かもしれませんが、これは決して道徳的な意味のものでなく、厳しい労使紛争の歴史的教訓、膨大な中小企業の実践から導かれ証明されてきた中小企業経営における普遍的原理です。
 社員、従業員、スタッフなど、企業ごとに呼び方は様々ありますが、すべからく企業は使用者と労働者によって構成されています。そうした中で、相互の社会的契約関係はありながらも、人格の対等性、生命の平等性のもとで労働者一人ひとりが潜在能力を存分に発揮し、そして関わるすべての人々の期待、社会からの要請に応え得る経営が「人間尊重の経営」です。

6.真のSDGs推進は、企業への内面化にある

 SDGsに影響を与えた「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」の国際社会での確立に中心的役割を果たしたJohn Gerard Ruggie氏(ハーバード大学・教授)は、その著書『正しいビジネス――世界が取り組む「多国籍企業と人権」の課題』の中で、規範は「誕生・伝播・内面化」のライフサイクルを持つと指摘します。中でも内面化は、その社会が有する価値と規範を自分の価値と規範として受け入れることです。その点で中小企業家同友会の「人間尊重の経営」とは、いわば基本的人権の尊重という人類の普遍的願いの企業経営への内面化を意味すると言えます。
 このことは指導原則はもとより、基本的人権の実現を基底とするSDGsを、企業が本来的意味で推進するということにも通じます。つまり17の各目標とのヒモ付けや、ブランド価値向上に利用することなどでは決してなく、SDGsの根底にある基本的人権の実現という思想を、経営が拠って立つ考え方や目的に据え企業変革に徹すること、そしてそれを当然のものとして組織の日課に組み込み、構成員一人ひとりの日頃の行動に自然とあらわれるまでに到達させるという、企業づくりの一連のストーリーこそが、本来的意味で企業がSDGsを推進することに他ならないのです。

7.中小企業経営者の「英断」を期待します

 SDGsに触れ、企業や個人として関わりを持つことは素晴らしいことです。ただし、より意味あるものとする振る舞いは、ロゴを貼り付けてカラフルに飾ったり、SDGsをビジネスの新しい道具として捉えて利用することではありません。当然、美しいバッジを身につけることでもありません。
 私たちの暮らす環境・社会・経済は、航法用語のPoint of No Return(回帰不能点)と表現されるように、もはや後戻りできない状況にまで立ち至ろうとしています。企業そして個人には、見せかけでなく、「自ら学び、自ら変わる」という社会変革の基本の上に立った実践が決定的に求められています。そして、その真の担い手は、地域に根を張り、圧倒的多数の人々と密接に関わり合う膨大な中小企業に他なりません。世の中小企業経営者の皆さんの、SDGsの商業主義的認識からの決別という「英断」を期待します。

(2021年9月執筆)

執筆者

池内 秀樹いけうち ひでき

愛知中小企業家同友会 事務局次長

略歴・経歴

兵庫県出身。修士(経済学)
大学院修了後、愛知中小企業家同友会事務局へ入局。
2018年より現職。
その他、県内大学の非常勤講師を兼職。

【刊行物】
・「『観光まちづくり』の成果と課題―由布院温泉・黒川温泉を実例として」(2007.03/共同執筆)『地域創成研究年報vol.02』pp.155-174.
・「東アジア視察報告―中小企業憲章の東アジア展開を展望して」(2013.12)『企業環境研究年報 No.18』pp.115-129.
・『岐路に立つ愛知県経済―地域経済の将来をどう展望するか』(2015/分担 担当第17章「中小企業の見地から考える、これからの地域産業政策の方向」)愛知労働問題研究所.

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