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企業法務2021年11月29日 不祥事が発覚した従業員に自宅待機させる場合の注意点 執筆者:大西隆司

1 労働者による不正等が発覚した場合、懲戒処分等の処分を決定するまでには、使用者は、調査や種々の手続を踏むことが必要となり、その対応や処分を決めるまでの間、当該労働者を自宅待機させておくという措置が多く取られています。
 しかし、このような自宅待機処分については、私傷病などで労働者が労働提供できない場合に解雇を猶予する休職制度や、それ自体が懲戒処分である出勤停止処分とは異なるもので、就業規則や労働協約に定められていない会社も多く存在するところです。

2 裁判例では、使用者が賃金の支払いをして行う自宅待機処分の場合、業務上の必要性が認められる限り、使用者の労務指揮権の行使として就業規則上の規定や労働協約に定めがない場合でも業務命令として自宅待機を命ずることができると判断されています(大阪地判S52.3.24労判273.24、静岡地判H2.3.23判時1350・147など)。
業務命令に従って自宅待機させているため、原則として、使用者が反対給付としての賃金の支払を行うことが必要となります。
 但し、不正行為の再発の危険性や証拠隠滅のおそれなど緊急で合理的な理由がある場合は、使用者は自宅待機処分が労務提供の受領の拒否の性質を有し、このような労務提供の拒否は、使用者の責めに帰すべき事由による履行不能でないとして賃金支払いを拒むことを主張することも考えられますが(民法536条1項)、このより高度な実質的理由の主張立証責任は、使用者側が負うことになります。
 主張立証に失敗した場合、遡っての賃金及び遅延損害金等の支払いのリスクがあるだけでなく、無給の自宅待機処分はそれ自体が就業規則に定めのない懲戒解雇処分にあたり違法であるとの主張や、後の懲戒処分が二重の処分であって無効である主張を誘発し、紛争を拡大するリスクもあるところです。
 そのため、処分を決定するまでの間、労働者に自宅待機をさせる場合は、賃金の支払いを行った上、懲戒処分ではないことを明示して、説明のための出社を求められた際には出頭することや関係者への接触の禁止など条件を定めた業務命令として行うのが無難な対処法といえるでしょう。

3 業務命令として自宅待機を命ずることができるとしても、合理的な制約に服すると解され、業務上の必要性が希薄であるにもかかわらず、自宅待機を命じる場合や、その期間が不当に長期にわたる等の場合には、権利の濫用や信義則違反にあたり自宅待機命令が違法となることがあります。
 期間の限度については、事案によるところですが、問題となっているのが比較的軽微な非違行為で特段の調査日数を要しない事案であれば、数日間程度が限度と判断されることも考えられますし、懲戒解雇などの重大な懲戒処分の場合や事案が複雑な場合は、時間をかけた慎重な調査や賞罰のための委員会等の設置、取締役会の決議・承認といった手続きが必要となり、自宅待機の期間が長期にわたっても適法な範囲内であると判断されることもあります。
 この点、航空機の上級整備士が、勤務中に旅客機内でシャンパンを飲んだこと等を理由に普通解雇された事案(千葉地判H5.9.24判タ834・98)では、解雇の有効性とともに解雇に先立つ有給での自宅待機処分が違法ではないかが争われました。
 そこでは、自宅待機の間に、シャンパンを炭酸飲料と誤認して、ごく少量を一回すすったとする整備士の具体的な弁解内容が判明したにもかかわらず、十分な事実調査をすることなく、任意退職を求めることを目的に約7か月間命令を継続したことが正当な理由を欠く違法なものであると認定されています。
 自宅待機の命令を出す際には、非違行為の調査や処分の検討手続の時間などの業務上の必要性を踏まえ、合理的に必要とされる期間を意識して設定し、合理的必要性もないのに自宅待機処分を継続することがないよう注意されるべきでしょう。

(2021年11月執筆)

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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