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企業法務2023年08月09日 損害賠償義務を負う可能性のある指導・注意方法 執筆者:大西隆司

1、パワハラ防止法では、令和2年6月施行の法改正により、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されるものがパワハラであると定義して(パワハラ防止法30条の2第1項)、事業主に相談窓口の設置、規定の整備、研修等のパワハラに関する雇用管理上の措置を要求しています。
 パワハラを受けた従業員が疾患等になった事案では、企業が使用者責任を負う可能性あるだけでなく、企業自体が雇用上の措置を怠っていたとして損害賠償請求をされる可能性もあり、パワハラを防止する企業の管理対応が求められています。
パワハラ指針では、パワハラの代表的な言動の事例として①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過少な要求、⑥個の侵害を挙げていますが、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しないとし、従業員の問題行動が再三注意しても改善されない場合や重大な問題行動をとった場合に、一定程度強く注意することはパワハラに該当しないとしています。
しかし、指針でも、人格を否定する言動、繰り返し必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責、能力を否定し罵倒するメールを相手を含む複数の労働者に送ることについては、必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導ではなく、精神的な攻撃によるパワハラであるとしています。

2、過去の裁判例を分析すると、「馬鹿野郎」「給料泥棒」(東京地判H22.7.27)、「おまえは馬鹿」「新入社員以下だ」(東京地判H26.7.31)、「生きている価値なんかない」「一回、精神科いったら」(東京地立川支判R2.7.1)などの個人の人格を否定するような叱責について、損害賠償が認められています。
また、「殺すぞ」(大阪高判H25.10.9)、「ぶっ殺すぞ、お前」「辞めろ辞表出せ」(東京高判H25.2.27)、「死んでしまえばいい」「辞めればいい」(福井地判H26.11.28)などという目的・程度が問題となる言動についても損害賠償請求が認められる傾向にあります。
注意・指導の場所の問題として、朝礼後、他の社員の目の前での保険契約の不告知義務違反の教唆の有無に関して確認し、「マネージャーが務まると思っているのか」との発言をした事例(鳥取地米子支判H21.10.21)では、確認したのが職務倫理に反する不名誉な事柄であるから、誰もいない別室に呼び出すなどの配慮があってしかるべき旨を判示して、損害賠償請求を認めています。
また、上司から新入社員への厳しい指導・叱責があり自死した事案(仙台高判H26.6.27)では、日常の上司の指導は、部下が何らかの業務上のミスの都度、叱責する時間が5分から10分程度、自殺の前日の叱責が飲酒をした上で車を運転して出勤した行動に対するもので、第一審では指導として許容される範囲を超えて違法であるとはいえないとしていました。
しかし、同裁判例では、上司の叱責等が恒常的な長時間の時間外労働及び肉体労働により肉体的疲労の蓄積していた部下に対し、相当頻回に他の従業員らのいる前であっても大声で怒鳴って一方的に叱責するものであったこと、大きなミスがあったときには「馬鹿」「帰れ」等の激しい言葉が用いられていたこと、遅くとも平成21年8月ころには、指導が奏功しておらず、期待した成長が見られないと感じていたにもかかわらず、指導体制の見直し等を行うことなく、引き続き一方的に叱責することを漫然と続けていたこと等から、代理監督者としての注意義務違反を認めました。
一定程度強く指導する事情があったとしても、従前の指導の中での問題ある言動の有無、継続的な指導改善状況を踏まえた指導方法の適切性、問題となる言動や部下のおかれた状況への配慮の有無等の総合考慮により、損害賠償が認められる可能性がある点に注意が必要でしょう。

(2023年7月執筆)

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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