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企業法務2022年04月25日 勤務地の変更を伴う配転命令を出す際の注意点 執筆者:大西隆司

1.4月は移動の季節で、多くの企業で転勤の辞令が交付されます。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、事業活動の制約を余儀なくされ、事業不振や事業所の閉鎖などの理由で、例年よりも多くの勤務地への変更を伴う配転命令を出さざるを得なかった企業もあるでしょう。
 多くの企業の就業規則には、「業務の都合により従業員に対して配転、転勤を命じることがある。」といった概括的な規定を設けてこれを根拠に、勤務地の変更を伴う配転命令がだされていますが、そこに限界はないのでしょうか。

2.まず、就業規則上の根拠があるといっても、配転命令が権利濫用となる場合は、配転命令が無効と判断されます。
 配転命令が濫用となるかどうかの判断基準を示した裁判例(最判S61.7.14判タ606・30)は、配転命令につき業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的でなされたとき、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事由が存する場合でない限り権利の濫用となるものでないと判断しています。
 この業務上の必要性については、余人をもっては替え難いという高度の必要性までは要求されず、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与すれば認められるとされています。
 また、同事例では、夫婦や家族の別居を余儀なくされる不利益について、転勤に伴い通常甘受するべき程度として濫用にならないとも判断しています。
 上記裁判例の判断基準は多くの裁判例で踏襲され、通勤時間の増加、単身赴任による負担という程度では足りず、要介護状態にある親や病気をもった家族の介護や世話をしている場合(大阪高判H18.4.14労判915・60)、労働者の持病のため転勤先の勤務に支障が出る場合(京都地判H12.4.18労判790・39)などの特殊な事情がある場合に労働者が通常甘受すべき不利益の程度を著しく超えていると判断されてきました。
 しかし、近時は、労働契約は仕事と生活の調和に配慮しつつ締結又は変更するべき(労働契約法3③)とされ、就業場所の変更を伴う配置転換によって子の養育や家族の介護を行うことが困難となる労働者がいる場合、事業主はその状況に配慮しなければならない(育児・介護休業法26)との労働者への配慮義務が規定されるなど、ワークライフバランスが重視されています。今後は、転勤命令を出す場合、育児や介護及び生活全般への不利益をより慎重に検討し判断する必要があるでしょう。
 実際、夫婦別居をもたらす配転転勤命令が権利の濫用とならないと判断された裁判例(最判H11.9.17労判768・16、福岡高判H13.8.21労判819・57)でも、使用者側も転居手当、住宅手当、社宅(寮)の貸与、転勤援助措置等で労働者の家庭事情に対する配慮をしている事案であったことに留意しておく必要があります。
 従前の裁判例では、夫婦や家族の別居をもたらすという事情は、通常の不利益であり濫用と判断されていないから大丈夫ととらえるのではなく、今後は、このような労働者の不利益を緩和する相応の手段を講じたうえで、転勤の必要性や代替的手段の有無を慎重に判断し、配転命令の必要性を労働者に納得させる説明手続を踏むなどより慎重な対応をしておくことが重要になるでしょう。

3.また、勤務場所の限定の合意があった場合は、その合意に反する配転命令は無効となります。勤務場所を限定する合意をした労働者に対しては、一方的な配転命令ではなく、合意による配置転換によるべきでしょう。
 転勤を認める就業規則がある場合は、これを前提に入社したと判断される場合が多いですが、労働者に就業場所限定する事情があった場合や地域採用で転勤の慣行がなかった場合などは労働契約書記載の勤務場所に限定する合意が認められるケースがあるため、このようなケースにあたらないかを確認しておく必要があるでしょう。

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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