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企業法務2022年12月16日 育児休業に伴う措置と不利益処分 執筆者:大西隆司

1、育児介護休業法の改正(令和3年6月改正)に より、育児休業は、1歳6か月までに契約が満了することが明らかでない、子を養育する労働者が、子が1歳に達するまで(父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達するまでの間の1年間、保育所に入所できないなど特別の事情がある等の場合は、最長で2歳に達するまで)育児の休業を取ることができる制度となりました 。令和4年10月からは男女ともそれぞれ2回まで分割して取得することが可能となっています 。
 また、男性労働者には、女性の産後8週間の期間内に最長4週間まで、まとめて申出があれば2回に分割して取得できる出生時育休制度(産後パパ育休)の制度も認められ 、従来取得率の低かった男性労働者の取得も増えることが予想されます。
 育児介護休業法10条では、事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと不利益取扱いを禁止していますが 、今後、これまで以上に、責任のある地位役職にある労働者の育児休業の取得が増加し、業務量や責任の軽減を理由とする職務や職位の変更などが問題となってくることが予想されます。
 そこで、裁判例を基に、業務量等の変更に伴う措置の有効性を検討したいと思います。

2、まず、最高裁の裁判例では、副主任の職位にあった理学療法士が労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから男女雇用機会均等法9条3項に 違反が争われた事案があります(最判H26.10.26 )。
 裁判例は、上記取扱いについて原則として均等法9条3項の禁止する取扱いに当たるが、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易な業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないと例外的に認められる措置の基準を示しました。
 但し、本件措置による降格については軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものであるにもかかわらず、本件措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たものとはいえないとして、合理的な理由が客観的に存在しないと認定し、特段の事由がないと判断しています 。
 育休取得後に復職した際、報酬の減額を伴う役割グレードの変更が争われた事案(東京高判H23.12.27)において、就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく、個々の労働者の同意を必要とせず、使用者である被控訴人の一存で行うことができるとすることは、本件減給につき人事権の濫用であって無効であると判断されています 。
 また、3か月の育児休暇取得を理由に職能給の昇給を見送り、昇格試験の受験機会を与えなかった事案(大阪高判H26.7.18)では、3か月以上育児休業をすれば職能給を昇給させないという不昇給規定について、育児休業のみを私傷病以外の他の欠勤、休暇、休業の取扱いよりも合理的理由なく不利益に取り扱うものであるから育児介護休業法10条や公序に反し無効であり、昇級試験の受験機会を与えなかった行為は不法行為法上違法であるとされています 。
 これらの裁判例からは、育児休業に伴う業務作業量や責任の変化から役職変更するにあたっては、役職等の変更する特段の合理的な事情があることが必要で、措置の期間や内容、利益損得がその事情に沿ったもので、かつ、労働者に十分な説明を行い、その同意をとって行われることが望ましいことになります。
 包括的人事権の規定や役職手当、昇給減額の基準の規定があることで、一方的な措置を行うと育児介護休業法10条違反や公序良俗違反により無効、違法な措置となる可能性があるため、注意が必要なところです 。

(2022年11月執筆)

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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