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企業法務2022年09月05日 パワハラ事案における労災申請手続における使用者側の対応 執筆者:大西隆司

1、事業主証明を拒否する場合

 従業員がパワハラを受けたことにより精神疾患となったと主張する事案において、使用者が、労働者から労災申請の手続に協力を求められることがあります。
 労災の申請は、被災した労働者本人又はその遺族が行うことになっていますが(労災保険法12条の8②)、労働者が自ら保険給付の請求を行うのが難しい場合、事業主はその手続について助力義務が定められ(労災保険法施行規則23条①)、保険給付を受けるために必要な証明を労働者から求められた場合、事業主はすみやかに証明する義務も定められています(労災保険法施行規則23条②)。
 具体的には、労災保険給付の請求書の事業主証明欄への記載、押印を求められることになります。
 しかし、パワハラによる精神疾患の罹患が主張される事案の場合、労働者の主張と使用者の主張が異なり、パワハラがあったかどうかの事実関係自体に争いがある場合や、使用者が業務上の災害ではないとの意見がある場合などが考えられます。
 このような事案において、業務起因性が認められた場合、使用者側に安全配慮義務違反があったとの認定に影響を与えることになりますので、請求書記載の事項が使用者の意見と異なる場合は慎重に対応されるべきでしょう。
 この点、事業主が、災害の原因及び発生状況等の記載の事実が異なると考える場合や業務上の災害ではないといった意見をもつ場合、事業主は、所定の事項を記載して、労働基準監督署に対して意見を申し出ることが認められています(労災保険法施行規則23条の2)。
 事業主証明で求められる証明項目のうち、証明できない項目については、その旨を記載し証明拒否をした上で、使用者の意見を別紙として提出することも有効です。
 この場合、事業主証明欄の不備になりますが、実務上は、労働者に証明拒否理由書の提出をさせて、請求書を受理する対応がなされています。

2、意見書の記載内容

 パワハラ事案で問題となる精神障害の場合、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23・12・26基発1226第1号)により、労規則別表に該当する疾病(この場合、「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」)にあたるかどうかの基準で判断されます。
 同基準では、別表1に基づく「業務による心理的負荷の評価」の評価が「強」に該当し、かつ「業務以外の心理的負荷の評価」や既往症等の個体的要因の有無を検討し、疾病がこれらの要因に基づくものではない場合に、労災認定をするとしています。(但し、個々の具体的出来事の心理的負荷が「中」であっても、「中」が複数認められる場合には総合評価が「強」となる場合はあります。)
 パワハラに関しては、心理的負荷評価表の具体的出来事について「嫌がらせ、いじめ、又は暴力を受けた」との項目があり、一般的に「中」評価とされていますが、「部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」、「同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた」、「治療を要する程度の暴行をうけた」等、その程度がひどくなると、評価が「強」と判断されるとされています。
 意見書には、これらの評価基準を踏まえて、労働者が記載する嫌がらせ、いじめ等の事実はなかった、又は異なる態様であったこと等の使用者側の主張を、他の従業員の聴取事項や業務記録等の資料などを添えて、説得的に反論していくのが有効でしょう。
 また、プライバシーへの配慮は必要ですが、「業務以外の心理的負荷の評価」や既往症等の個体的要因の有無に関して、使用者側が知りうる事情を記載して、これに関する労働基準監督における認定調査につなげる記載を行うことも必要な場合があるでしょう。

(2022年8月執筆)

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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