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企業法務2023年04月10日 求人広告の記載と異なる労働条件提示の責任について 執筆者:大西隆司

1,求人を行う使用者は、労働者の募集を行うにあたり、従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならず(職安法5の3)、また、使用者は、労働契約の締結の際にも、労働条件を明示する義務があります(労基法15①)。
 求人広告で明示された労働条件と最終的に労働契約や労働条件通知書に明示された労働条件とが異なった場合、どちらの条件で合意されたかの問題について検討したいと思います。

2,まず、求人広告やハローワークに掲示される求人票は、労働契約の申込みの誘引とされており、求職者がこれに応じて申し込みを行っただけでは、直ちに労働契約が成立するものではありません。
 この点について、中途採用された労働者の賃金につき、求人広告で新卒採用と同等の給与額とする旨の記載がされていたものの、実際は平均的格付けではなく、下限に位置づけられていた事案(東京高判H12.4.19)があります。
 そこでは、説明会等で、給与条件につき新卒採用者と差別をしない(ハンディはない)との趣旨の抽象的な説明をしたものの、明確な意思表示があったものではなく、平均的格付けによる給与支給の合意については否定されました。
 もっとも、そのような内容の待遇を受けることができるものと信じさせるような説明を行った点について労働条件明示義務に違反し、信義則に反するものとして不法行為による損害賠償責任を認めています。労働条件の明示をあいまいにした場合は、不法行為による損害賠償義務を負う場合がある点に注意が必要です。

3,求人票に、正社員としての記載を行い、その後期間雇用の契約社員として雇用契約を締結し、一度更新された後の雇い止めの有効性が争われた事案(東京高判H22.5.27)があります。
 労働契約は、双方の具体的事情を踏まえて内容が決定されるもので、求人票の労働条件とは異なる合意が従業員となろうとする者に著しい不利益をもたらす等の特段の事情がない限り、雇用契約書の内容が、求人票記載の内容に優先するとして有期雇用契約が当事者間で有効に締結されたと認定されています。
 裁判例では、契約を締結することによる不利益を回避する十分な時間的余裕を与えていた点、内定通知書や契約書案等で労働条件が書面によって明示されている点が重視され、異なる合意をする際には、労働者に十分な検討の機会を与えることが必要です。

4,求人票では、期間の定めのない常用従業員でその後締結された雇用契約において期間を1年間とされ、右期間の経過により雇用契約は終了が争われた事案(大阪高判H2.3.8)では、求人票の真実性、重要性、公共性等から、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容になるものとされました。
 しかし、この裁判例では、試用期間の満了をもって本件雇用契約を解消することを検討し、その旨を警告したところ、労働者により陳謝と反省の言葉と共に雇用契約の継続を涙ながらに訴えられたため、躊躇しつつもしばらく様子を見ることにしているうち試用期間が経過し、その後に、期間雇用の契約を締結したという事情から、その後の労働契約の有効性を認め、求人広告等とは異なる内容の合意を認めています。
 一方、求人票に期限の定めのない正社員で募集を行い、労働条件通知書では、1年間の期限の定めのある通知書に雇用期間の始期の1か月後に労働者の署名押印がなされた契約の効力が争われた事案(京都地判H29.3.30)では、同様の基準で求人票どおりの契約内容を認めたうえで、労働条件通知書の署名押印による労働契約の変更があったかどうかについて検討し、労働者の同意について労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しないとして、変更の効力を否定しています。
 採用までに、求人票と異なる労働条件を提示し、十分な検討の機会を与えない場合は、求人票の労働条件が契約を拘束することになる可能性がある点に注意が必要です。

(2023年3月執筆)

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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