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企業法務2021年07月12日 有期契約労働者と賞与不支給 執筆者:大西隆司

1 同一労働同一賃金への対応
 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)9条は、事業主が、職務の内容および配置について通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対し、短時間・有期雇用であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて差別的取り扱いをしてはならないとする均等待遇を規定し、同法8条では、事業主が、短時間・有期雇用労働者と正社員との基本給、賞与その他の待遇の差について、待遇の性質や待遇を行う目的に照らして、「職務の内容」(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、「職務の内容及び配置の変更の範囲」、「その他の事情」を考慮し、非正規社員に対して不合理な待遇をしてはならないとする均衡待遇を規定しています。
 これらの規定は、働き方改革法の一つとして成立したものですが、2021年4月には、適用が猶予されていた中小企業に対しても施行されています(旧労働契約法20条の規定は削除となり、上記規定が適用となります。)。
 従前は、非正規雇用には賞与を設けない企業も多くみられましたが、その差異について合理的な理由を説明できない場合は非正規社員から損害賠償請求がされるなどの訴訟リスクが高くなります。

2 ガイドライン
 この点、同法に基づき、ガイドライン(厚生労働省「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)が定められ、どのようなものが不合理で許されないのか、許されるのかの基本的な考え方と具体例が示されています。
ガイドラインでは、賞与について、賞与が会社の業績などへの労働者の貢献に応じて支給される場合、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献度に応じた部分については、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならず、他方、貢献に一定の相違がある場合には、その相違に応じた賞与を支給しなければならないとされています。

3 最高裁判決との関係について
 近時、無期契約労働者に対して支給する賞与を有期契約労働者(アルバイト社員)に対して支給しないとする労働条件の相違が改正前の労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとした最高裁判決(最判R2.10.13)が出されました。
 同判決では、通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており、その支給実績に照らすと、業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含み、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的を併せて考慮して不合理性を否定しています。(業績に連動する賞与の場合は、上記ガイドラインの考え方が妥当しますので違う結論になる可能性があります。)
 なお、上記目的の認定にあたっては、当該企業において、正職員の基本給が、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給する職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有し、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたことが前提とされています。
 また、同判決では、職務の内容に一定の相違があったこと、アルバイト職員については原則として業務命令によって配置転換されることはなかったこと、教室事務員である正職員は、僅か4名にまで減少することとなり、業務の内容の難度や責任の程度が高くなっていたこと、アルバイト職員については契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたこと等の事情も踏まえて判断されていますので、正社員人材の確保という目的を定めれば、差異が正当化されるものではないという点に注意する必要があります。
 以上のとおり、非正規雇用の賞与に関し、賞与支給の趣旨から、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情において、具体的で合理的な差異を説明できなければならず、非正規社員に対する職務内容や賃金体系等の制度設計から見直しをしておくことが重要です。

(2021年7月執筆)

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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