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民事2021年04月28日 特別対談企画 生活の知恵としての信託
第二種金融商品取引業の登録をした不動産会社と信託(前編) インターソル株式会社 代表取締役社長 伊藤賢一×
            信託ナビゲーター・税理士 石垣雄一郎 対談
生活の知恵としての信託 対談者:伊藤賢一 石垣雄一郎

取引の安全・安心を図るために不動産エスクロー信託を活用した信託受益権売買に関する媒介業務~不動産会社の事業機会拡大の観点から~

【はじめに】

 現在、不定期で連載中の「生活の知恵としての信託」シリーズは、信託を社会に広げ、誰もが信託を知ることができ、誰もがその利用を検討する機会を享受できる「信託の民主化」をめざす対談企画です。本シリーズに登場されるのは、あらかじめその趣旨にご賛同いただいた方々です。
 今回、ご登場いただくのは、インターソル株式会社(東京都中央区)(※1)代表取締役・伊藤賢一様です。
 筆者の知り得る限りでは、同社は、顧客の多くが上場企業であり、これらの企業に対して、不動産に関する問題解決型業務を提供されてきました。さらに、ここ数年は、機関投資家、一般投資家にも顧客の幅を広げています。
 この対談では不動産会社が信託を使い事業領域を広げていく実践的取り組みをご紹介していただきます。民事信託にかかわる専門家にとっても、ご参考にしていただける対談になるのではないかと考えています。

 本対談は、現状がコロナ禍にあるため、感染リスクに配慮して、リモート会議とメールのやり取りをとおして記事を完成させました。対談における法的見解、考え方は、対談当事者個人によるものであり、読者の皆様方およびそのお客様方の個別案件に対応するものではなく、その責任を負うものではありません。

 なお、以下、文中の根拠条文、※印のコメント及び【信託メモ】は筆者によるものです。

※1 宅地建物取引業・国土交通大臣(1)第9774号、金融商品取引業・関東財務局長(金商)第2284号(第二種金融商品取引業)、投資助言・代理業、一般不動産投資顧問業 一般 第1282号、一級建築士事務所・東京都知事登録 第57778号、その他インターソルHP http://www.inter-sol.co.jp/profile1.html参照

伊藤 賢一
<略歴>
1968年生まれ 愛知県出身
大学卒業後、1991年事業用不動産総合サービス会社に就職
2009年5月1日 インターソル株式会社設立
 ※インターソルは、資本系列の無い独立したCRE専業会社であり、
専門分野の違うプロが〔顧客の企業価値向上につながる様々な業務を
チームで提供する〕というただ一つのミッションを遂行し続けるために
集結した会社です。


≪会社の特徴と会社名の由来≫

石垣 この度は対談にご協力いただきまして、ありがとうございます。さて、さっそくですが、御社の設立はいつですか?

伊藤 2009年(平成21年)5月1日です。

石垣 日本では政権交代のあった年ですね。次に、インターソルという社名の由来を教えていただけますか?

伊藤 はい。インターソルは、インターナショナル、ソリューションに由来します。インターナショナルは、国際的というエリア的な意味ではなく、顧客の各事業フィールドの全体というとらえ方をしています。あとは語感などからインターソルとしました。

石垣 なるほど、そういうことですか。顧客の事業全体を理解し、その全体の最適化を考えて仕事をすることは不動産コンサルティングの基本ですから合点がいきます。

≪信託受益権売買の媒介業務に至るまでの経緯≫

石垣 御社は、会社設立以来、海外業務を含む多くの上場企業を中心に実績を積み重ねてこられました。今回は、御社がJ‐REIT等で手掛けてこられた信託受益権(以下、単に受益権ともいいます。)売買(以下、譲渡ともいいます。)契約に関する媒介業務を中心にお話を伺いたいと思います。

伊藤 はい、承知しました。お役に立てることでしたら、できる限り協力させていただきます。

石垣 ありがとうございます。以前、御社で拙著(※2)を教材にした民事信託の社員研修をさせていただいたことがあります。そのとき、ご出席の社員の方々から積極的に質問をされたことがあります。社会が必要としていることを学び、それを実践し、成果を出そうとすることに全社が一丸となれる会社という印象を受けました。今回の対談にあたり、信託受益権譲渡の媒介業務を行うときの要件であり、御社が登録されている第二種金融商品取引業(【信託メモ①】参照)について、金融庁が公表している「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(令和3年1月)」(以下、監督指針といいます。)(※3)という監督指針を見つけました。その一部を見たところ、第二種金融商品取引業の規定があり、その一部に次のような定めがありました(監督指針V-3 諸手続(第二種金融商品取引業)V-3-1 登録(1)体制審査の項目イ、ロ、ハ、二参照)。

【監督指針(抜粋)】

下記文中の金商法は「金融商品取引法」の略です。

● 経営者が、その経歴及び能力等に照らして、金融商品取引業者としての業務を公正かつ的確に遂行することができる十分な資質を有していること。
● 常務に従事する役員が、金商法等の関連諸規制や監督指針で示している経営管理の着眼点の内容を理解し、実行するに足る知識・経験、及び金融商品取引業の公正かつ的確な遂行に必要となるコンプライアンス及びリスク管理に関する十分な知識・経験を有すること。
● 行おうとする業務の適確な遂行に必要な人員が各部門に配置され、内部管理等の責任者が適正に配置される組織体制、人員構成にあること。
● 営業部門とは独立してコンプライアンス部門(担当者)が設置され、その担当者として知識及び経験を有する者が確保されていること。

石垣 この監督指針は令和3年1月に公表されたものです。一方、御社での民事信託研修は、その約2年前に行われたものではありますが、私には社員の方々のあの積極性と監督指針とがダブって見えてきました。

伊藤 ありがとうございます。不動産の流動化や信託は、21世紀という時代に会社を設立した私たちにとって、当初から大きな関心事でした。当社は30名程の規模の専門家集団ですが、私を含め、新しい仕事にチャレンジすること、そのために信託などの新しい知識を身に付け、顧客の役に立とうする積極的な姿勢をもった社員が多いことは確かです。

※2 拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)を使い、信託の基本的仕組み、応用の仕方、その限界などを学ぶ研修が企画・開催されました。
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046
※3 金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 令和3年1月 金融庁HP
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kinyushohin/index.html参照

≪受益権売買取引の媒介に必要な第二種金融商品取引業登録≫

石垣 では、本題に入らせていただきます。御社は、信託受益権売買の媒介業務を行うのに必要な第二種金融商品取引業の登録(【信託メモ①】参照)をいつされたのですか?

伊藤 インターソルを設立した年、2009年(平成21年)の11月17日に登録しました(金融商品取引業・関東財務局長(金商)第2284号(※4))。

石垣 そうですか。お話いただきましたように会社設立当初から信託受益権売買に関する媒介業務は、事業展開の中に入っていたことがわかります。

※4 金融庁HPによると、令和3年(2021年)2月28日現在、第二種金融商品取引業者の登録数は1211(不動産会社、証券会社、投資顧問会社、JREITの管理会社、外国法人、個人等を含みます。)です。
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kinyushohin.pdf

【信託メモ①】第二種金融商品取引業者が行う信託受益権売買の媒介業務

 金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができません(金融商品取引法(以下、金商法)29条)。金商法の定めに従い、一定の手続きを経て、内閣総理大臣の登録を受けた第二種金融商品取引業者(以下、二種金商業者)は、有価証券とみなす信託の受益権(金商法2条2項1号)(※5)について、売買の媒介(金商法2条8項2号)を業としてすることができます(金商法28条2項2号)。したがって、信託受益権売買の媒介業務を行うには第二種金融商品取引業の登録をしていなければなりません。なお、二種金商業者は、他の業務を兼業することができます(金商法35条の2・1項)(インターソルの「他の業務」については※1参照)。

※5 この信託の受益権からは次のものが除かれます。 「投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資信託又は外国投資信託の受益証券」(金商法2条1項10号)、「貸付信託の受益証券」(金商法2条1項12号)、「資産の流動化に関する法律に規定する特定目的信託の受益証券(金商法2条1項13号)、「信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券」(金商法2条1項14号)。なお、信託の受益権について、金商法2条1項14号の規定に基づく受益権でないことを示すため、後述する信託会社(※6参照)は、受益権証書を発行していない旨を証明する書面を譲受人(受益者)に対し発行しています。

≪直近の信託受益権売買に関する媒介業務≫

石垣 御社で手掛けられた信託受益権売買のケースを1つご紹介していただけますか?

伊藤 はい。直近ですと、当社の顧客である甲社(不動産賃貸業)が信託受益権を乙社(事業会社を営む経営者の資産保有会社)に売却したケースをご紹介できます。甲社は、中心となる業務のうちの1つが不動産賃貸業ですが、不動産の多くを信託財産とし、受益権で保有しています。その甲社が当社の顧客であるE社(不動産賃貸業)の所有する賃貸不動産を購入することになりました。このとき、甲社のリクエストによりE社はその賃貸不動産を信託財産としました。E社が保有することになった信託受益権を当社の媒介で甲社が取得したケースです。当初委託者兼当初受益者はE社で、受託者はファースト信託株式会社(※6)(以下、F社ともいいます。)です。E社は甲社に対し受益権を譲渡するとともに委託者の地位も移転しました。

※6 ファースト信託については同社HP参照
http://www.firstshintaku.co.jp/

石垣 その方法は、ある大手の賃貸不動産オーナーが所有する現物不動産を信託財産とし、その信託受益権を合同会社(ファンドが設立したものと思われます。)に売却したケースを謄本や、これに類したケースを上場企業のニュース・リリースで見たことがあります。E社は現物不動産で売却してもよさそうなのにもかかわらず、同社にとっては手間がかかるだけの信託受益権売買スキームに、よくつきあっていただけましたね?

伊藤 はい。当初、E社は、信託受益権化する意思はありませんでした。買主である甲社の要望で決済時に受益権化して所有権移転登記と信託登記をし、受益権売買取引をすることになりました。受益権化にあたり、建物診断ER(エンジニアリング・レポート)、不動産鑑定評価に協力することや、現物不動産の売買に比べ契約書などの書面が多く、内容を把握し、押印の手間がかかることについては、かなり大変さを感じた部分はあったようです。しかし、E社は希望価格での売買が実現されることや、これまで現物取引しか経験してこなかったのですが、新たに受益権売買に携わることで、今後、取得物件の検討対象範囲が広がることから、徐々に協力的になっていただきました。この対談では、こうした経緯を経て信託受益権を保有することになった甲社(譲渡人)が乙社(譲受人)に対し、その受益権を譲渡したケース(以下、本ケースといいます。)を取り上げます。繰り返しになりますが、現在までに信託受益権は、E社➡甲社➡乙社の順番で移転しています。この対談では、以下、甲社➡乙社間の信託受益権売買に焦点を当て、ご紹介します。受託者は一貫してファースト信託株式会社で、受託者の変更はありません。

石垣 ありがとうございます。今のお話は、2つの点で興味深いです。1つは、御社が設立当初から計画された信託を視野に入れた事業展開を現実の成果とされている点です。もう1つは、投資不動産を信託銀行または信託会社を受託者とする信託受益権で保有する多くのJ‐REITと同様、信託を不動産経営に活用する進取の気性をもった甲社のような不動産オーナーが存在する点です。私は信託を究極のアウトソーシングと考えています。甲社は、そのアウトソーシングと、制度として法的安定性のある商事信託をうまく組み合わせ、不動産賃貸業について信託経営をされています。信託会社は、自らの役立ち方を信託の専門家として甲社にしっかり伝えていることが垣間見えます。不動産信託が社会に着実の根付き始めた兆候を見るようで、信託の今後に希望を感じます。

≪信託受益権の売却(啓蒙?)活動①≫

石垣 さて、不動産に関する信託受益権を売却(譲渡)するときは、どのような営業活動をされるのですか?

伊藤 現物不動産売買と共通点は多いですが、相違点は、やはり不動産信託受益権の性質・内容を説明する必要があることです。私たちは、譲受人になる予定の方に対し、以下の一般的なリスクの説明をします。個別具体的なリスクのすべてを網羅するものではありませんが、媒介業務を行うにあたって説明することになっています。

【不動産信託受益権に関するリスクの説明】

(1)不動産マーケットの変動に伴うリスク

 信託受益権の対象となる不動産(以下、「信託不動産」)の価格は、不動産売買マーケットにおける取引価格の変動および賃料変動の影響等を受け、信託設定時又は信託受益権売買時に比べて減少する場合等があり、不動産市況の変化によって、信託勘定内の債務が信託財産の時価評価額を上回り債務超過になる場合もあります。

(2)信託不動産の稼働状況等に関するリスク

 信託不動産の稼働状況(空室率)、賃料水準の変動、テナント(転借人を含む。)の変更、賃貸不能、賃貸事業の必要諸経費、公租公課の変動等によっては、信託収益の減少、元本欠損、または受益者による追加資金の拠出が必要になることがあります。

(3)その他追加資金を要するリスク

 以下の要因により、信託収益の変動、元本欠損、又は受益者による追加資金拠出が必要になる場合があります。

● 信託不動産に提供される不動産関連税制(固定資産税・都市計画税等)に変更があった場合
● 信託不動産に適用される不動産関連の法令(都市計画法・建築基準法等)に変更があった場合

(4)信託不動産処分時の価格下落リスク

 信託不動産の処分時に、以下の要因により信託不動産の価格下落し、投資元本を割り込むことがあります。その場合、受益者による追加資金の拠出が必要になることがあります。

● 不動産市場における売買取引価格の変動や賃貸不動産の賃料の変動
● 信託不動産の稼働状況の変化(空室率の上昇等)
● 信託不動産に適用される不動産関連税制や法令(都市計画法、建築基準法、土壌汚染対策法を含む環境関連法令等)の変更
● 信託不動産に適用される法令(都市計画法、建築基準法、土壌汚染対策法を含む環境関連法令等)違反の判明
● 信託不動産の隠れたる瑕疵の発見

(5)信用リスク

 以下の要因により、信託収益の変動、元本欠損、受益者による追加資金の拠出が必要になることがあります。

● 受託者である金融機関の信用状況(業務内容や経営状況等)の変化
● 信託不動産の賃借人(転借人を含む)の信用状況の変化
● 信託不動産の管理・運用にかかる事業関係者(アセットマネージャー、プロパティマネージャー等)の信用状況の変化

(6)流動性リスク

 信託受益権に係る信託契約は、信託期間中は、原則として受益者からの解除が認められておらず、信託受益権の譲渡については、受託者の事前承諾が必要とされます。また、証券取引所に上場されているわけではないため、市場性及び換価性に乏しく、投資回収の手段が限定されています。

伊藤 以上のリスク項目は、不動産のプロであれば知っているだけでなく、常に気配りをしていなければならないリスク項目だと思っています。

石垣 同感です。ところが、民事信託の場合、以上のリスク項目について、信託契約を締結する前に、説明義務を負っている者がいませんし、実際にそうしたリスク項目を信託の当事者間で事前確認する機会を設けているかどうかもわかりません。しかし、「受託者となるべき者」は信託前に必ず理解しておくべき項目です。個別具体的なリスク項目も、信託前にわかることはすべて把握すべきです。後になって、受託者が「そうしたリスクがあることを事前に知っていれば、受託者になることはなかったのに。」と言うようなことになると信託がうまく機能しなくなることを避けなければならないからです。商事信託では考えられないことですが、不動産に関する民事信託を提案する専門家は、この点に留意する必要があります。

≪信託受益権の売却(啓蒙?)活動➁≫

石垣 信託受益権の売却活動では、信託を知らない方に信託の説明をされるのは大変ご苦労されるのではないでしょうか。信託のことを知らず、かつ、受益権を購入してもらえるかどうかわからない方々に対し、営業活動として説明しなければならないわけですから。すぐに譲受人が現われてくればいいですが、現実には、なかなかそうはいかないでしょう。そのような状況下で、J-REITではない乙社が信託受益権を取得しようと決断する状態にまで、よくもっていかれたことと思います。不動産取得税が課されないとか、登録免許税が軽減される(【信託メモ➁】参照)などの理由だけで乙社が信託受益権を取得しますと相成ったわけではないでしょう?乙社に対し、信託についてどのような説明をしてご納得いただいたのか、要点で結構ですので、教えていただけますか?

伊藤 信託受益権を保有した場合について、本ケースでは、受託者となるファースト信託株式会社の助言を得て、至極当たり前のことですが、次のことを重点項目としてお伝えしました。

【営業活動における信託に関する重点的説明事項】

① 信託を知らない人にしばしば見受けられるが、信託により土地建物の登記上の名義人(所有者)は受託者(本ケースでは信託会社)となることに懸念を示されることがあるため、信託は受益者のための制度であること(甲社がE社から信託受益権を取得した経緯を参考に説明)。受益者は登記され、信託目録に記載されること、受託者は次の➁のような義務を負っていること。
② 信託会社は、受益者のため、忠実義務(信託業法28条1項、信託法30条)、善管注意義務(信託業法28条2項、信託法29条2項)(※7)、利益相反取引の制限(信託法31条)、競合行為の制限(信託法32条)、分別管理義務(信託業法28条3項、信託法34条)などの義務を負っていること。
③ 信託会社・F社は,管理型信託業であり、委託者等(【信託メモ③】①参照)が指図権を行使する権限をもつ信託、すなわち、制度上、信託会社(受託者)の権限行使が制限された信託であること(乙社は、信託契約に指図権を行使する会社を定めました(信託業法2条3項)。)。例えば、建物関連の投資判断は、委託者(兼受益者)・乙社等が信託会社・F社(受託者)に対し指図権を行使すること。信託財産に属する金銭(賃料を含む。)の使い方、建物管理関連の支出についても指図を受けてから信託会社・F社(受託者)が行う信託であること。
④ 受託者である信託会社は、信託業法に基づき、金融庁の監督下に置かれていること。
⑤ 受託者は、毎年一回、一定の時期に、信託不動産のBS(貸借対照表)、PL(損益計算等を作成(本ケースは四半期毎の作成)し、受益者に対し報告(本ケースは四半期毎の報告)する義務があること(信託法37条参照)(※8)。この義務は任意規定ではなく、強行規定であること(※9)。
⑥ 信託業務の一部であるプロパティ・マネジメント(PM)業務について、建物管理業務委託契約に定めれば、PM会社に対し、受託者のみならず、受益者にも、直接、業務内容を報告する義務を負わせることができること。
⑦ 信託会社は、信託業務の委託先(例えばPM会社)が『委託された信託業務を的確に遂行することができる者』である場合に限り、その受託する信託財産について、信託業務の一部を第三者に委託することができること(信託業法22条1項柱書・同項1号)。
⑧ 信託会社は瑕疵のある物件を信託財産として受託できないため、デューディリジェンス(適正評価手続)が実施され、瑕疵があれば手当するか、または手当することを前提で信託されるので、信託財産とその管理に対する信頼性が確保されること(※10)。
⑨ 本ケースの信託契約では金融機関からの借入れについて信託財産に抵当権を設定するのではなく、受益権に質権を設定する旨の定めがあること(※11)。
⑩ 信託報酬はかかるが、購入時に現物不動産より税制面で有利であること(【信託メモ➁】参照)。

伊藤 以上の他、当社は、「国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的」とする金商法の規定に従い、信託受益権売買について、金融庁の監督下にある二種金商業者であることなどをお伝えしています。また、本ケースでは、受益権の譲受人(乙社)に対し、手付金ではなく、決済資金の一部または全部を保全できる不動産エスクロー信託(金銭信託)の利用を提案し、実施いたしました。同信託については後編でふれることにします。

石垣 ここまでのお話で、信託受益権の売却活動では、信託の基本をしっかりと理解していなければ、二種金商業者の登録をしているだけでは媒介業務は務まらないことがわかります。これから媒介業務を行う方々の参考になるのではないでしょうか。

※7 善管注意義務については、信託法は任意規定(信託法28条2項ただし書)であり、義務の程度を軽減できるのに対し、信託業法は任意規定ではない(信託業法28条2項)ため、信託会社は、その義務を軽減することはできません。
※8 受託者は、信託財産(本ケースは賃貸不動産)を固有財産と他の信託財産から分別して管理する義務を負っています(信託法34条)。分別管理をすれば、その信託財産に利益が出ているのかどうか、帳簿等を作成すれば、それが明確となり、受益者は受託者の信託事務処理状況を監督することができます。
※9 信託法37条3項の規定は、任意規定となっていますが、この規定は、報告義務そのものを免れるものではないと解されます。
※10 信託契約代理店のコンサルティング業務【民事信託に役立つ商事信託の考え方】参照
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1252967/
※11 不動産信託(中編)《借入金付きの既存賃貸不動産を信託するケース》参照
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article981225/

【信託メモ➁】登録免許税・印紙税・不動産取得税(※12)

 信託契約の委託者または受益者の変更について、登録免許税は、登記事項の変更の登記をすると不動産の個数1個につき1000円かかります (登録免許税法・附則・別表1・一(十四))。
 信託受益権譲渡契約書の印紙税は、1通につき200円で、契約金額の記載のある契約書のうち、当該契約金額が1万円未満のものは非課税文書となります(印紙税法・附則・別表1・15号文書)。
 不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の都道府県において、当該不動産の取得者に課すことになります(地方税法73条の2・1項他)。受益権の譲渡は不動産の所有権が移転したわけではありませんので、受益権の取得者に不動産取得税が課されることはありません。

※12 拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第2章・信託税制参照
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

【信託メモ③】管理型信託業

 「管理型信託業」とは、次のいずれかに該当する信託のみの引受けを行う営業をいいます(信託業法2条3項)。本ケースは下記①の信託と解されます。

① 委託者または委託者から指図の権限の委託を受けた者(注1)のみの指図により信託財産の管理または処分(注2)が行われる信託(同項1号)
② 信託財産につき保存行為または財産の性質を変えない範囲内の利用行為もしくは改良行為のみが行われる信託(同項2号)
注1 委託者又は委託者から指図の権限の委託を受けた者が株式の所有関係又は人的関係において受託者と密接な関係を有する者として政令(信託業法施行令2条(受託者と密接な関係を有する者の範囲))で定める者以外の者である場合に限られます。
注2 当該信託の目的の達成のために必要な行為を含みます。

【信託メモ④】信託業法2条3項の規定を参考にした民事信託契約

 民事信託の場合は、上記信託業法2条3項の規定の適用を受けるものではありませんが、信託契約に上記①および/または➁のような定めを設け、受託者の権限に制約を加えることができます(信託法26条ただし書)。信託財産が受託者に帰属すること(信託法2条3項)について「委託者となるべき者」や「受益者となるべき者」が懸念をもつ場合は、こうした規定を設けることによりその懸念を和らげることにつながる可能性があります。

【信託メモ⑤】第二種商品取引業者の媒介報酬

 第二種商品取引業者の媒介報酬について、現物不動産売買の仲介手数料に相当する料率の定めはありませんが、不動産売買手数料に準じて取り扱われることがあるようです。報酬の設定においては信託の仕組みを知らない人に対してゼロからの説明をして、理解していただく手間と時間が考慮されるべきと考えます。

≪コロナ禍であるかどうかにかかわらず必要な将来を見据えた戦略≫

石垣 これまでのお話を伺い、信託受益権の媒介業務(【信託メモ④】参照)を行う御社の信託に対する理解を推し量ることができたのは、もちろんですが、説明をする方は説明をする度に信託のことを詳しくなられたことと思います。これを営業活動と信託OJTの両方を兼ねる将来を見据えた活動と考えれば、成果の見えにくい営業活動が報われるような気がします。活動結果はがいかかでしたか(※13)?

伊藤 はい、お陰様で信託の基本的仕組み・内容を多くの方々にお伝えすることによって、理解が深まったことは実感しています。

石垣 そういう会社の存在は、信託をより一層社会に広げたいと思う立場からは、心強い限りです。ところで、信託受益権取得後、譲受人・乙社は、信託を終了させたのですか?

伊藤 いいえ、現在も信託は継続中です(※14)。

石垣 乙社も信託の有用性を感じておられるようですが、信託受益権譲渡前と後のPM業務は、それぞれどちらの会社がご担当されているのですか?

伊藤 お陰様で、いずれも当社が担当させていただいており、今もPM業務を遂行中です。乙社(委託者兼受益者)は、信託契約(一部変更)の規定に、当社をPM会社に指定する旨(信託法28条1号参照)と実施すべき不動産管理業務の内容について、定めを設けていただいております。

石垣 それは、これまで信託のことをご存じなかった乙社が御社の働きかけで信託のことをご理解された裏付けといえ、乙社は信託を理解できたお陰で、競合に勝ち、信託受益権を取得できたといえます。また、信託会社は、一定の要件を満たす場合(信託業法22条参照)に限り、その受託する信託財産について、信託業務の一部、つまり、本ケースの、例えば、PM業務を第三者に委託することができます(信託業法22条1項本文参照)。そうすると、その第三者である委託先は、委託された業務を、前述のように「的確に遂行することができる者」(信託業法22条1項2号)であることが求められます。信託会社は、そのような委託先として御社を、甲社が委託者兼受益者のときから、受け入れていることになります。御社は、甲社と乙社にPM業務を実務面で評価されただけでなく、信託会社に課された信託業法上の基準を、甲社が受益権を保有していたときに続き、満たしているといえます。これは御社の業務品質が客観的に見て評価されたことになります(※15)。

伊藤 ありがとうございます。私たちが商事信託にかかわることで培った知識・経験は、今後、不動産コンサルティング業務を展開する場合にも、役立つものと考えています(※16)。

石垣 信託の一つのあり方を商事信託で経験されたことは民事信託を提案するときの強みになります。強みに対しさらに強みを加えるという点では、別の見方をしますと、御社は、従来からある不動産に関する専門知識、経験、ノウハウ、実績に加え、顧客に対し信託という新しい価値を提供することで事業機会を拡大されていることになります。これを考えると、信託にかかわるときは、信託以前のこと、つまり、御社であれば不動産に関する専門性が必要であること(※17)を再確認できた気がします。

※13 拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース③は、委託者となるべき者(兼受益者となるべき者)が自らが受けた信託のレクチャー内容を受託者になるべき者に伝えることで信託の理解向上に努めた事例です。
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046
※14 従来からの信託契約は、そのまま継続し(一部変更)、新たな受益者は、既存の信託会社を受託者として信託による財産の管理・運用をしています。
※15 不動産信託をしてもしなくても、PM業務については、不動産経営に影響しますので、「生活の知恵としての信託」シリーズで別途対談を企画する予定です。
※16 信託契約代理店のコンサルティング業務参照
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1252967/
   不動産信託(前編)参照
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article826928/
※17 民事信託における信託をする以前に大切なこと、必要なこと、については、拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース⑥参照
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

前編のむすびに代えて

 以上で前編を終わります。残りは後編に続きます(掲載時期未定)。後編でも、実務に携わった方ならではの観点でインターソル株式会社伊藤代表取締役社長にお話をしていただく予定です。

(2021年4月 対談)

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執筆者

石垣 雄一郎いしがき ゆういちろう

税理士、信託ナビゲーター

略歴・経歴

税理士資格取得後、不動産会社で17年間上場企業の新規開拓や中小企業、個人不動産オーナー向けの営業や新規プロジェクトの立ち上げ支援業務を担当。ダンコンサルティング(株)の取締役を経て、現在は、不動産や株式を主とした民事信託等の浸透に関するコンサルティング業務に従事しながら全国各地からの依頼で信託の実践や活用に関する講演活動も行っている。民事信託のスキームの提案を実施し、不動産会社等にも顧問として信託の活用法を具体化する支援を行っている。

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