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民事2021年02月19日 特別対談企画 生活の知恵としての信託
~信託契約代理店のコンサルティング業務~ スリーナインコンサルティング株式会社 代表取締役・司法書士 青山誠
✕ 信託ナビゲーター・税理士 石垣雄一郎 対談
生活の知恵としての信託 対談者:青山誠 石垣雄一郎

司法書士の設立したコンサルティング会社が信託契約代理店の登録後、
民事信託を得意分野としてきたからこそ気づいたこと

【はじめに】

 本企画「生活の知恵としての信託」シリーズは、信託を社会に広げ、誰もが信託を知ることができ、誰もがその利用を検討する機会を享受できる「信託の民主化」をめざす対談企画です。本シリーズに登場されるのは、あらかじめその趣旨にご賛同していただいた方々です。今回、ご登場いただくのは司法書士でスリーナインコンサルティング株式会社(※1)(東京都中央区)の代表取締役 青山誠様です。
 この対談企画は、民事信託を得意分野とする同社が、2020年1月24日、信託契約代理店登録により、新たに商事信託の視点が加わり、改めて民事信託を振り返ったとき、どのような変化が生まれたのかを軸にお話を伺います。

 なお、本対談は、現状がコロナ渦にあるため、複数回のリモートにより実施しました。対談における法的見解、考え方は、対談当事者個人によるものであり、読者の皆様方およびそのお客様方の個別案件に対応するものではなく、その責任を負うものではありません。

※1 スリーナインコンサルティング株式会社・HP
https://999-consulting.com

青山 誠
<略歴>
1997年 司法書士試験合格
1997年 磯貝勇壽司法書士事務所入所
1999年 青山誠司法書士事務所開業
2016年 スリーナインコンサルティング株式会社設立 代表取締役就任

【信託との出会い】

石垣 この度は、この対談企画にご協力をいただきましてありがとうございます。はじめに、会社名の「スリーナイン」の由来を教えていただけますか?

青山 私の司法書士登録番号と司法書士事務所の開業(1999年)が999に縁がありましたのでスリーナインとしました。

石垣 ご縁によるネーミングでしたか。ありがとうございます。さて、本題に入るにあたり、まず、信託との出会いを教えていただけますか?

青山 はい。今から7年程前、名古屋で司法書士事務所を営んでいた頃に「信託」の存在を知りました。信託に関する情報を探していたところ、当時では珍しかった東京からのオンライン配信の商事信託セミナー(講師:スターツ信託・取締役 鈴木真行様・前回まで3回にわたり本企画対談にご登場・下記※10参照)を名古屋でも受講できることがわかり参加しました。司法書士事務所(名古屋市)開業後20年が経過し、「何か新しい取り組みが出来ないか?」といろいろとトライしていた頃でした。当時、信託に関する情報はかなり限られておりましたので「信託」の仕組み自体に衝撃を受けた記憶があります。

石垣 そうでしたか。どのような点が衝撃的でしたか?

青山 現在、信託法そのものが資格試験の科目にはありませんし、私の学生時代は大学教育でもカリキュラムにありませんでした。民法の規定にはないものに初めて出会ったわけですから、驚きとともに衝撃を受けた次第です。

【信託と出会った後の学習】

石垣 その後、どのような実践を積まれたのですか?

青山 まだ社会的に認知されていない制度であり、まずは書籍を購入し、勉強にとりかかりました。当時は、実務経験のある方の書いた書籍は少なく、研究者の方の本を読みましたが、具体的なケースの説明があまりなかったせいか、理解しにくかった記憶があります。また、セミナーに参加して学びましたが、当時、民事信託の講義については東京のセミナー会社しか開催していませんでしたので、名古屋市から上京して受講していました。

石垣 当時は大変だったかと思いますが、信託を学ぶ熱意が伝わってきます。

【民事信託の案件受注】

石垣 その後、実務で民事信託の案件を手掛けられたのですか?

青山 はい。最初の頃は、オーソドックスに認知症対策の切り口で民事信託に関する業務を受注していました。また、セミナー講師の依頼も増えてきて、年間MAXで40件前後をこなしている時期もありました。DVDも複数発売しました。

石垣 とても精力的に動かれたようですが、お仕事はどのような先から受注されたのですか?

青山 依頼元は、銀行、生保営業(プランナー)、会計事務所、不動産業者をメインに受注させていただいています。

石垣 その中の会計事務所(税理士または税理士法人)との連携の仕方について、教えていただけますか?

青山 はい。会計事務所は、顧客と顧問契約を結び、一般的には、業務を継続的に提供し、顧客との信頼関係を構築しています。業務の延長線上でタックス・プランニングを実施することができますので、そこに当社の信託を含むトータル・コンサルティングを提供することにしました。現在も基本的にはこの方法をとっています。

石垣 顧客に対し、より質の高いサービスをもれなく提供するという点から見て、相互補完を効かせていますし、お仕事をする際の目の付け所がいいですね。依頼元が会計事務所でなくても、必要なアプローチであり、税理士、会計士が信託に馴染むきっかけを提供されていることにもなり、信託の社会的普及につながる方法だと思います。

【民事信託に取り組むことで生まれた仕事に対する基本姿勢の変化】

石垣 民事信託に取り組まれてから、何か変化したことはありましたか?

青山 はい。今お話ししましたように最初は認知症対策に備えた民事信託でした。しかし、いろいろなケースに出会い、経験を積むうちに、最近は、お客様の100年人生を逆算して考え、ライフプランベースから相続・事業承継対策を提案すると同時に家族間の心の整理まで寄り添う家族カウンセリングをベースとするコンサルティングスタイルに変わりました。

石垣 民事信託を認知症対策の手段と位置付けるだけでは、なかなか信託の社会的普及につながらないことは、これまでの状況がそれを示していますので、そのシフト・チェンジはとても大切なことだと思います。ところで、御社の顧客層はどのような方々が多いのですか?

青山 当社に多い事例は、2次相続を迎える女性からのご依頼によるものです。注力していることは次世代への「事業承継」です。会社オーナーの場合は、法人と個人を一体として考え、当該オーナーおよびそのご家族向けのトータルのコンサルティングを提供し、全体最適をめざしています。

石垣 信託コンサルティングの軸足を認知症対策から事業承継に移されたことにより、今後、信託の社会的普及がより一層促進されていくのではないかと期待しています(※2)。

※2 本来、信託は「委託者となるべき者」(信託法4条1項)であるご本人が主導で組成されるべきものです。筆者は、ご本人主導で自らの認知症対策を真剣にプランニングされる方が本当に多いのか常々疑問に思ってきました。現在の認知症対策はどうしても「受託者となるべき者」(信託法4条1項)主導の信託が多くなりがちではないかと推測しています。それを一概にわるいといっているわけではありません。必要なこともあるからです。これに対し、例えば、事業承継を図るための後継者育成型信託にように「委託者となるべき者」(ご本人)主導でご本人の目の黒いうちに信託を検討する方(おそらく真剣にプランニングされる方)が増えれば増えるほど、今以上に信託の社会的浸透を図ることができるのではないかと考えています(後継者育成型信託については、拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース➁、⑤参照)。
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

【拠点の中心を名古屋から東京へ】

石垣 本社の拠点を司法書士業務を開始された名古屋ではなく、東京にされた理由を教えていただけますか?

青山 当初は名古屋で活動し、情報を発信しておりましたが、それにいち早く反応して頂いたのが東京の方々でした。名古屋は「みんなが始めたら自分も始める」地域ですが、東京は「誰よりも早く始める」地域です。まわりの反応と自分自身の強み、およびコンテンツを考慮し、今の自分は名古屋にいるべきではなく、東京に身を置いて活動すべきとの結論に至り、拠点を東京に移しました。あと政治も経済も東京中心に動いておりますので情報を素早く捉えるためにも物理的にも東京に居ることを選択しました。

石垣 信託にかける本気度が伝わってきます。実践的ケースをより多く積み上げ、より広く日本の社会に信託を周知する動きをとるには理解できる選択です。

【課題解決のための商事信託】

石垣 民事信託に取り組もうとしますと、私たちはケースごとにいろいろなことに直面します。そうしたとき、どのような点に共通の課題を見出されましたか?

青山 それは受託者です。信託組成において少子化、核家族化などにより依頼者の家族だけでは信託の受託者が揃わず、安定的に長期運用できないケースがあり、民事信託の限界を感じることがありました。具体的には、当初受託者はご家族の中に候補者がいたとしても、2次受託者(新受託者(信託法62条))の候補者が身近にいない場合です。これは受託者を一般社団法人にしても事情は変わらず、理事に就任するご家族がいなければ成立しません。あるいは、身内はいても信頼できる受託者となるべきご親族がいないケースも同様です。また、当社の場合は任意後見との併用をするケースも多く、受託者と任意後見人の兼任は利益相反となりますので、別のご家族に依頼しなければならないため、実施にあたって更にハードルが上がります。そこで、ご家族には任意後見人や受益者代理人(または指図権者)となってもらい、受託者にはプロである信託会社に担ってもらうスタイルがご家族の負担も小さく資産を長期で安定的に管理できる理想的な形ではと考えるようになりました。信託契約代理店登録をしたのは、こうした背景によるものです。

【商事信託と任意後見の併用】

石垣 今のお話にありました商事信託と任意後見の併用は全体最適をめざすコンサルティングの中で、どのような形で使われているのですか?

青山 当社のコンサルティングでは、最初にお客様の日々の生活収支の把握と住環境も含めた相続発生までに必要な資産を確定させます。いわゆるライフプランですが、単に、お金が足りる、足らないでは終わらせず、家族カウンセリングも入れて争族要因の把握と対策も併せてプランニングします。その中で保有資産のあり方として処分自由度を高くする必要があるものは信託で管理し、承継先まですべて決定します。保有資産のうち維持管理のみで足り、処分自由度は低くて構わないものは任意後見で管理します。併用するか否かも、家族構成や資産のあり方により判断しております。すべての判断基準は最初に作るライフプランにあり、生前贈与から資産売却のタイミング、さらには資産組換までの提案をさせて頂いております。

石垣 なるほど、そうですか。提案の選択肢が増えるとお客様はそれを見比べられますから、判断しやすくなるという利点が生まれます。実践を通して任意後見の社会的普及にも一役買っていらっしゃるようですね。

【信託メモ①】≪信託契約代理店≫

1 信託契約代理店とは
(1)「信託契約代理店」とは、信託業法67条1項下記(2)の内閣総理大臣の登録を受けた者をいいます(信託業法2条9項)(信託契約代理店が行う信託代理業については下記2を参照)。
(2)信託契約代理業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、営むことができません(信託業法67条1項)。
(3)上記(2)の登録を受けようとする者は、所定の事項を記載した申請書を内閣総理大臣に提出しなければなりません(信託業法68条)。
(4)内閣総理大臣は、一定の要件に該当するとき、または所定の申請書、もしくは添付書類のうちに虚偽の記載があり、もしくは重要な事実の記載が欠けているときは、その登録を拒否しなければなりません(信託業法70条)。
(5)信託契約代理業を営む者は、所属信託会社(下記3参照)(信託会社または外国信託会社)から委託を受けて所属信託会社のために信託契約代理業を営まなければなりません(信託業法67条2項)。

2 信託契約代理業とは
 信託契約代理店が行う信託契約代理業について、信託業法2条8項は、次のように規定しています。
(1)この法律において「信託契約代理業」とは、信託契約(当該信託契約に基づく信託の受託者が当該信託の受益権(当該受益権を表示する証券又は証書を含む。)の発行者(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第五項に規定する発行者をいう。)とされる場合を除く。)の締結の代理(信託会社又は外国信託会社を代理する場合に限る。)又は媒介を行う営業をいう。
(2)上記規定のカッコ書を全部外すと「信託契約代理業」とは、「信託契約の締結の代理又は媒介を行う営業をいう。」となります。当該信託契約から除くもので、信託契約代理業が対象としない信託契約がそれに続くカッコ書およびカッコ書内のカッコ書に定められています。すなわち、当該信託契約に基づく信託の受託者が当該信託の受益権(当該受益権を表示する証券または証書を含みます。)の発行者とされる場合を除くとしています。この場合の発行者とは、金融商品取引法2条5項に規定する発行者をいい、有価証券(※3)を発行し、または発行しようとする者をいいます。この有価証券には、「有価証券が発行されない場合」で有価証券とみなされるもの(証券または証書に表示される権利以外の権利)も含まれます(金融商品取引法2条5項)(※4)。なお、有価証券を発行し、または発行しようとする発行者は、内閣府令で定める有価証券については、内閣府令で定める者をいうものとし、金融商品取引法2条2項の規定により有価証券とみなすものについては、権利の種類ごとに内閣府令で定める者が内閣府令で定める時に当該権利を有価証券として発行するものとみなします(金融商品取引法2条5項、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令14条)。
(3)信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券(金融商品取引法2条1項16号)を例にすると、この信託の受託者が受益証券を発行することになり(信託法207条)、かかる受益証券が有価証券です(金融商品取引法2条1項14号)。この有価証券については「受益権という権利が表示された有価証券」が発行されない場合であっても、その権利も有価証券とみなします(金融商品取引法2条2項本文)。
 これと同様のことは、投資信託の受益証券(同条同項10号)、貸付信託の受益証券(同条同項12号)、資産流動化法の特定目的信託の受益証券(同条同項13号)等についてもいえます。したがって、こうした受益権を定める信託契約は、信託契約代理店が信託契約代理業として行う「信託契約の締結の代理または媒介」における信託契約の対象から除かれます。
(4)信託契約代理店が対象とする信託契約の典型例として、前回までに本対談企画でご紹介した生命保険信託(※10)と不動産信託(※11)における信託契約があげられます。

3 信託契約代理店契約を締結した所属信託会社
 本対談におけるスリーナインコンサルティング株式会社(登録番号・関東財務局長(代信)154号)(※5)は、ハートワン信託株式会社(登録番号・関東財務局長(信2)第16号)の信託契約代理店で、信託契約代理店登録は、2020年1月24日です。

※3 金融商品取引法2条1項は有価証券を定義し、同条2項は有価証券とみなすものを定義しています。
※4 信託法185条1項は「受益証券発行信託の特例」(第8章)において「信託行為においては、この章の定めるところにより、一又は二以上の受益権を表示する証券(以下「受益証券」という。)を発行する旨を定めることができる。」と規定し、同条2項は「前項の規定は、当該信託行為において特定の内容の受益権については受益証券を発行しない旨を定めることを妨げない。」と規定しています。
※5 「信託契約代理店は、信託契約代理業を営む営業所又は事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、内閣府令で定める様式の標識を掲示しなければならない。」(信託業法72条1項)とされています。

【「信託契約の締結の代理又は媒介に関する業務」とは】

石垣 基本的な質問ですが、整理のために作成した上記【信託メモ①】に記載した御社のような信託契約代理店が行う信託契約代理業における「信託契約の締結の代理又は媒介に関する業務」について、実際に何をするのか、もう少しご説明していただけますか?

青山 はい。わかりました。まず信託契約の締結の代理とは、当社のような信託契約代理店が所属信託会社に代わって信託契約の締結を代理で行うことをいいますが、実務では、このケースはあまりないようです。次に、信託契約の締結の媒介とは、所属信託会社にお客様を紹介する業務のことをいい、現状の信託契約代理店の業務は、これが中心です。

【商事信託という選択肢】

石垣 実際に、民事信託・商事信託などの選択肢をお客様に対し提供し、お客様がご自分に合ったものを選択できる状況を作り出せる人や企業は、これからも社会にとって、必要で貴重な存在です。この視点から選択肢の一つとしての商事信託をどうお考えになりますか?

青山 信託会社を選択する場合は、当然、費用が発生します。信託会社に費用を支払うことによりご家族の負担軽減や長期安定的な資産管理というメリットを得られますので、一概に「商事信託=高い=ダメ」というのは短絡的な考え方だと思います。要は費用対効果の問題です。一方、商事信託にも限界があります。それは民事信託のように信託財産の種類、管理方法について柔軟な取り決めができないところです。これは金融庁管轄下で業務を行う以上、やむを得ないところですが、商事信託は認可を受けたサービス以外は受託できないため、お客様のすべてのニーズに応えられないという欠点があります。以上により、「安定感には欠けるが柔軟性の高い民事信託」と「柔軟性には欠けるが長期安定的管理が行える商事信託」を併用することでお客様のニーズに応えられると当社は考え、信託契約代理店登録をさせて頂きました。登録は司法書士法人ではなく、「スリーナインコンサルティング株式会社」で行っております。

【信託メモ➁】≪全国に343店ある信託契約代理店・その多くは金融機関≫

令和2年12月31日現在、信託契約代理店の数は、全国で合計343店です(※6)。内訳は北海道財務局【計14店】、東北財務局【計30店】、関東財務局【計124店】、東海財務局【計42店】、北陸財務局【計23店】、近畿財務局【計38店】、中国財務局【計25店】、四国財務局【計17店】、福岡財務支局【計13店】、九州財務局【計15店】、沖縄総合事務局【計2店】です(関東財務局のHP参照)。
 これらの多くが金融機関ですから、スリーナインコンサルティングはユニークな存在といえます。信託契約代理業は、内閣総理大臣の登録を受けた者ですから、同社は、こうした金融機関と同じ信託契約代理業という「お墨付き」を内閣総理大臣から得たという捉え方もできます(信託業法67条参照)。日本の金融行政が信託について変化を始めた兆候と見ていいのでしょうか。
 現実に潜在的な信託ニーズがあり、日本には信託契約代理店の数がこれだけあっても、信託ニーズを所属信託会社(※7)に紹介するだけのスタンスをとる信託契約代理店(※8)からは、構造的に信託案件はなかなか出てこない気がします。そもそも信託の使い方・仕組みを知らない、あるいは知らされていない顧客から信託のニーズが出てくるとは考えにくいからです。
 今のような信託の黎明期には、「攻めのコンサルティング営業」をすることが民事、商事を問わず、信託で成果を残す重要点になると思われます。信託の専門家である信託契約代理店各社がこうした存在であることを期待しています。

※6 信託契約代理店一覧表参照
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/sintaku_a.pdf
※7 銀行その他の金融機関は、内閣総理大臣の認可を受けて、信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第一項に規定する信託業および信託契約代理業を含む一定の信託業務を営むことができます(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律1条1項)。最近は信託業務を営むことができる地方銀行が増え、信託口座の開設が可能となり、商事信託と民事信託の組み合わせをしやすくする環境が整ってきました。

【信託契約代理店登録は信頼感の裏返し】

石垣 御社は信託契約代理店登録をすることで、信託契約代理業務を的確に遂行するための必要な体制が整備されていること(信託業法70条3項参照)が客観的に認められたわけですが、この件で何か変わったことはありませんでしたか?

青山 そういえば信託契約代理店を登録した後に、金融機関の方に「情報管理やコンプライアンスについての信頼性がより高まりましたね。」と言われたことがあります。実際に商事信託の信託業務は、民事信託とは比べものにならない程、厳格なルールに従い運用されますので、そのあたりの事情を知る方からすると信頼性の裏付けになっているようです。信託前の事前審査における信託財産の遵法性(建築基準法違反など)から反社チェックまで受託の可否を判断するだけでも複数のステップを踏まなければなりません。さらに、民事信託の受託段階で受託者の多くは受託者責任を意識することは、ほぼありませんが、商事信託は受託者責任の大きさ故に「何でも受けられない」意識が基本です。

石垣 そう考えますと、信託会社と同じように信託業法という同じ金融庁の監督下にある法制度の中に規定された信託契約代理店制度に対し、一定の信頼感があることは十分に頷けることです。

【民事信託に役立つ商事信託の考え方】

石垣 ところで、信託協会(※8)の信託業務および信託関連法令に関する知識の習得を目的とする信託契約代理店研修を受講後、これまで民事信託に取り組まれてこられたが故に民事信託を意識されるようになったことがあるのではないでしょうか。この点はいかがですか?

青山 今お話ししましたように、意識させられたのは、何といっても「信託」という制度はとても厳格なルールに基づき運用されるべきものであるということです。それを痛感することになりました。商事信託では受託者責任の大きさ故に、受託前、受託後、信託終了までのリスクに対してとても敏感であり慎重です。例えば、建物の瑕疵から発生するリスクに対して信託会社が矢面に立たなければならないため、受託前までに修繕工事を終え、瑕疵のない状態にするよう配慮されます。民事信託では受託者責任が「誰でもいい」「どんな建物でも信託できる」と軽んじられることがあります。しかし、民事信託でも受託者責任を負うことに変わりはないため、組成に当たってはより慎重に対応するようになりました。

石垣 良かったですね。お客様のためにも、自社のためにもなりますから。それは民事信託の実践と実績を積んでこられたからの気づきだと思います。知識だけでわかっているのと大きな違いがあります。受託者責任といいますと、信託契約書に記載がなくても、受託者は、信託法に定められた義務等(信託法29条から39条)と責任等(信託法40条から47条)を負います。民事信託ではこの点の周知が一般的に不足しています。本対談前の生命保険信託(※9)と不動産信託(全3回)(※10)において受託者(信託会社)の業務に焦点を当てたのも、そうした問題意識からです。民事信託の実践にあたっては、信託前の段階から「受託者となるべき者」(信託法4条1項)に対し、受託者の義務等と責任等に関する理解の度合いをより徹底して深めていく実践的な取り組みが必要です。そうすることが信託制度に対する社会的信頼を高めることにつながるからです。

※8 信託協会HP
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/

【今後の課題・信託のメンテナンス】

石垣 さて、そろそろ対談も終わりに近づいてきましたが、現状の社会一般における民事信託の取り組みについて課題がありましたら、お話しいただけますか?

青山 士業等の専門家によっては、民事信託組成後その当事者と何ら接点を取らないため、組成した信託が当初のプログラム通り動いているのか、メンテナンスができていないことがあります。これは信託を手続業務と捉え「信託組成=ゴール」と考えているからです。当社は信託契約代理店登録する前から「信託組成=スタート」と考えており、すべてのケースで信託監督人(当社)を必置とさせて頂いておりますので、お客様の状況に変化があれば、信託監督人による素早いメンテナンスが可能です。

石垣 金融庁の監督がない民事信託において信託監督人(※11)の制度を活用することに私も賛成です。信託監督人の役割は第一に受益者の利益を守ること(信託法132条)ですが、この法的に定められた役割以外に、民事信託では信託の専門家でない受託者をサポートし、もって受益者の利益に資するという役割があってもいいと考えています(※12)。これは民事信託の信託監督人がおしなべて親切であってほしいという私の希望によるものです。

※11 信託法における信託監督人の定めがある規定は次の通りです。信託法131条(信託監督人の選任)、132条(信託監督人の権限)、133条(信託監督人の義務)、134条(信託監督人の任務の終了)、135条(新信託監督人の選任等)、136条(信託監督人による事務の処理の終了等)、137条(信託管理人に関する規定の準用)
※12 1つの例として拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース④P166-167およびP169信託契約書(案)第6条参照
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

【信託メモ③】≪信託の変更≫

 民事信託では、信託の変更(信託法149条、150条)を意識せず、当初の信託契約書が作られていることがあります。そのため不具合(解釈の疑義等)を起こす可能性のある信託契約書を見かけます。信託契約書に信託の変更に関する定めを設けていない場合は、委託者、受託者、および受益者の合意によって信託を変更することになります(信託法149条1項)。しかし、委託者または受益者が意思能力を喪失すると、合意による信託の変更はできなくなります(もちろん、そうしたときは信託を変更しないことを意図して信託契約書に信託の変更の定めを設けていないケースは筆者の身近な例(※13)でもあります。)。
 このように合意による信託の変更ができなくなった場合に信託を変更をするには、受託者が裁判所に申立を行い、「特別の事情による信託の変更を命ずる裁判」を受けなければなりません(信託法150条1項)。こうした裁判を避ける方法として、信託法の信託の変更規定は任意規定(信託法149条4項)ですから、信託契約書の、作成時に、その当事者の事情に合わせ、裁判によらず信託の変更を可能にする「別段の定め」を設けることができます。信託契約書に誰かの権限により、または誰かと誰かの合意等により信託の変更を可能にする定めを設けることができます。信託の変更の規定を設けるかどうするかは、信託前に検討すべき事項の一つです。

※13 例えば、前掲書・第1章・ケース①P43-44・信託契約書(案)は信託の変更規定を設けていません。このような場合は、信託法の規定に従います。

【むすびに代えて】

石垣 さて、対談の最後に、これから信託に取り組む方々に対してアドバイスをいただけますか?

青山 はい。信託は資産の管理+承継という、2 in 1機能をもった特異なツールです。民法では後見制度のような管理ツールと遺言等の承継ツールは別物として体系化されているため承継という出口戦略を考えなくても目先の管理対策だけを提案・実施できました。一方、信託は資産管理以外に承継機能が含まれるため目先の管理(例:認知症対策)と同時に出口戦略(相続)までを検討する必要があります。この連続する時間軸のなかで「ヒト・モノ・金」のあり方を考える上では法務・税務・融資実務の他に取り扱う資産(不動産・保険など)についての知見が必須です。これらは、到底、一士業で対応できるものではなく、チームで行うべきです。各士業の試験科目に信託法が入っていない以上、まずはしっかりと信託法を学ぶことが重要です。セミナー、書籍の他に実務経験が豊富な方々との議論をお薦めします。民事信託は信託法改正から10数年しか経っておらず、判例が少ない余り論点整理も進まず、実務では地雷原がたくさんあります。そのため、特に、信託業法の規制を受ける商事信託の関係者との意見交換は有意義で、実務的な話のほか「信託とは何ぞや?」まで勉強になる点が多々あります。信託については自身のプロフェッション意識と倫理観をもって真偽を見定めることが大切と考えます。

石垣 ありがとうございます。この度の実践経験に基づくお話は、これから信託に取り組もうとする方々だけでなく、既に取り組んでおられる方々にとっても、貴重なお話があり、ご参考になったのではないでしょうか。青山先生にはお忙しいところ、多くのお時間を使っていただきまして、本当にありがとうございました。今後とも、御社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

(2021年1月 対談)

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執筆者

石垣 雄一郎いしがき ゆういちろう

税理士、信託ナビゲーター

略歴・経歴

税理士資格取得後、不動産会社で17年間上場企業の新規開拓や中小企業、個人不動産オーナー向けの営業や新規プロジェクトの立ち上げ支援業務を担当。ダンコンサルティング(株)の取締役を経て、現在は、不動産や株式を主とした民事信託等の浸透に関するコンサルティング業務に従事しながら全国各地からの依頼で信託の実践や活用に関する講演活動も行っている。民事信託のスキームの提案を実施し、不動産会社等にも顧問として信託の活用法を具体化する支援を行っている。

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