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人事労務2019年12月10日 転勤できない、フルタイムで働けない女性を、正社員で雇用するには? 女性社員の労務相談 執筆者:大浦綾子(弁護士)

Q 当社では、女性の採用を増やし、勤続年数を長くしていきたいとの狙いから、勤務地や勤務時間を限定した正社員制度の導入を検討しています。導入にあたり、法的な留意点を教えてください。

A 勤務地や勤務時間を限定した「多様な正社員」の処遇が、正社員と比べて不均衡とならないように設定をしなければなりません。場合によっては、不均衡な処遇が、育児・介護休業法やパート労働法に違反して無効となる場合もあります。

解 説

1 「多様な正社員(限定正社員)」とは

「正社員」は法律上の用語ではありませんが、通常は、期間の定めのない契約(無期契約)で直接雇用されていて、フルタイムで、勤務地の限定もない、という働き方をしている社員を指します。これに対してパート、有期、派遣社員は「非正規社員」と呼称されることも多いですが、雇用の安定を欠く点や、正社員との労働条件(賃金等)の格差が大きいことが、社会問題化していることは周知のとおりです。
また、女性が「非正規社員」として働くことを選択する主な理由として、出産・育児・介護といった私生活上の事情により、フルタイム・勤務地無限定で働き続けることが困難なことが挙げられます。しかし、例えば、これまで総合職の正社員として同僚男性と同等の成果を上げていた女性が、出産・育児をきっかけに退職してしまい、その後パートや有期社員として補助的な業務を担当するというのは、もったいない話です。
そこで、「時間限定」型(フルタイムではないか、あるいは、残業が免除されている)や、「勤務地限定」型(転勤の範囲を限定するか、あるいは、転勤のない)等の「多様な正社員」を導入して、能力・意欲の高い女性の確保や定着を促していこうという動きが出てきています。

2 多様な正社員の処遇の留意点

(1) 正社員との均衡処遇
「多様な正社員に係る「雇用管理上の留意事項」等について」(平26・7・30基発0730第1)では、「多様な正社員についていわゆる正社員との均衡を図ることが望ましい」とされています。これは、労働契約法3条2項を根拠とするものですが、均衡を欠く処遇が直ちに違法・無効となるものではありません。
ただし、制度によっては、次に述べるように違法・無効となる場合もあります。
(2) 育児・介護休業法の規定
時間限定正社員(短時間正社員)制度を、育児・介護目的で利用できる制度とする場合には、育児・介護休業法に則ったものでなければなりません。具体的には、育児の場合は、子が「3歳まで」、「6時間勤務」を選べる制度(育児介護23①、育児介護規74①)、介護の場合は、「利用開始から3年の間で2回以上の利用可能」な制度(育児介護23③、育児介護規74③)でなければなりません。また、それぞれ、制度利用後に、フルタイムの正社員に復帰できる制度であることも必要です。
そして、このタイプの短時間正社員の労働条件(人事評価、賃金、教育訓練等)が、フルタイム正社員と比べて不利であると、育児・介護短時間勤務制度を利用したことによる不利益取扱いに該当し、違法となります(育児介護23の2)。
例えば、賃金については、「現に働かなかった時間について賃金を支払わないこと」は不利益な取扱いにあたりませんが、それを超える減額は不利益取扱いに該当するとされていますから(両立指針第2 11(3)ニ(イ))、時間比例を超える格差を設けることは違法となります。例えば、所定労働時間が6時間の短時間正社員の基本給を、所定労働時間が8時間の正社員の基本給の4分の3を下回る額とすることは違法とされます。
また、同様の短時間勤務の正社員につき、基本給を4分の3の額としながら、昇給額も一律に勤務成績評価に応じた昇給幅の4分の3とすることも、労働時間が短いことによる基本給の減給のほかに、本来与えられるべき昇給の利益を不十分にしか与えないという形態により不利益取扱いをするものであり、育児・介護休業法23条の2に反し違法であると考えられています(東京地判平27・10・2労判1138・57参照)。
(3) パート労働法の規定
パート労働法9条より、職務の内容と人材活用の仕組みが正社員と同一であるパートタイム労働者については、正社員との間で、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇において差別的取扱いをすることは禁止されます。
したがって、正社員との違いは労働時間の制限のみという短時間正社員については、正社員との処遇の均等を確保しておかなければ、格差につき損害賠償等を命じられる危険があります。
例えば、基本給の算定にあたって労働時間が考慮されている場合に、基本給について時間比例を超える格差を設けることは許されないと考えておくべきです。

専門家のアドバイス

「多様な正社員」制度は、能力・意欲の高い女性を採用し、勤続してもらうために、積極的に活用していきたい制度です。導入した会社からは、女性社員の離職率が下がった、雇用が安定したことにより会社に対する貢献意欲が高まった、という声もよく聞かれます。
しかし、「多様な正社員」の待遇が、正社員と比べて不均衡だということでは、目的は達成できませんし、均衡を欠く処遇が違法・無効となる場合もあります。
導入にあたって、「多様な正社員」に期待する役割は何か、労働条件(人事評価、賃金、教育訓練等)をいかに設定すべきかをしっかり検討してください。検討にあたっては、厚生労働省が公表している他社事例、就業規則例・解説等が参考となります。

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執筆者

大浦 綾子おおうら あやこ

弁護士(野口&パートナーズ法律事務所)

略歴・経歴

平成14年 司法試験合格
平成15年 京都大学法学部卒業
平成16年 弁護士登録とともに天野法律事務所入所
平成21年 米国ボストン大学ロースクール(LLM)留学
平成22年 外資系製薬会社法務部にて勤務(人事・知財・製造部門担当法務)
平成23年 ニューヨーク州弁護士登録
平成23年 法律事務所に復帰
現 在  野口&パートナーズ法律事務所パートナー弁護士

[著 作]
『女性活躍推進法・改正育児介護休業法対応 女性社員の労務相談ハンドブック』(共著)(新日本法規出版、2017)
『実務家・企業担当者のためのハラスメント対応マニュアル』(共著)(新日本法規出版、2020)
『裁判例・指針から読み解くハラスメント該当性の判断』(共著)(新日本法規出版、2021)

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