企業法務2021年11月02日 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携 発刊によせて執筆者より 執筆者:浅野洋
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現在、国内企業421万社のうち、中小企業の数は419万社と99.5%を超えており、そのほとんどは経営者が自社株の多くを保有するオーナー型企業と言われています。オーナー型企業の代表者は、自社の業績向上のために私財を投げ打って社業にまい進し、戦後の高度成長に寄与してきました。しかし、このようなオーナー型企業の自社株式は、事業が好調になればなるほど価額が高額となり、非上場株式であることから流通性は乏しくなります。また、自社株式は相続が発生すると相続財産として課税の対象にもなることから、これらが事業承継の障壁となり、重大な課題となっています。
事業が黒字でも廃業を選択する企業は多く、日本政策金融公庫によれば60歳以上の経営者のうち、実に50%超が将来的な廃業を予定しているとされています。そして、このうち30%の経営者が、廃業を選択する理由に「後継者難」を挙げています。
政府は、中小企業の事業承継は雇用の確保や地域経済活力維持のためにも重要であり、相続時の遺産分割や資金需要、税負担の問題など様々な課題に対応する総合的な支援策が必要であるとして、経営承継円滑化法の創設を経て納税猶予方式による非上場株式の事業承継税制を導入しました。
事業承継税制は、平成21年に創設された後、数次にわたり改正されてきましたが、創設当時は使い勝手の悪さから利用者が少なく、認定件数は毎年130件~200件の間で推移してきました。
平成30年度税制改正では、平成29年度税制改正後の制度を現行制度とし、新たに10年間の時限措置として「特例事業承継制度」が創設されました。従来の障壁のほとんどが取り払われ、この結果、平成30年度以降では制度の申請件数は15倍ほどになったとされています。
しかし、令和2年に26.6万社を対象に実施された後継者不在率動向調査によれば「不在率」は65.1%とされており(帝国データバンク)、平成23年以降緩やかに改善されているとされてはいますが、それでも3分の2の企業は後継者が見つかっていない、言い換えれば事業承継が進んでいないのが現状です。
事業承継は大きく二つに分類でき、かつては親族内承継がほとんどを占めていましたが、近年は親族外承継としてMBOやM&A、IPOなどの割合が増加し、事業承継の態様はさらに多様化しつつあります。
特にM&A件数は近年増加傾向で推移しており、令和元年には4,000件を超え、過去最高となっています。令和2年には感染症流行の影響もあり前年に比べ減少しましたが、それでも3,730件と高水準となっており(㈱レコフデータ)、M&Aについては未公表のものも一定数存在することを考慮すれば、我が国における近年のM&Aは更に活発化しているといえましょう。
このような背景から、2021年4月30日に中小企業庁から「中小M&A推進計画」が公表され、中小企業のM&Aの状況や政策上の課題、そしてM&A仲介業者に対する新たな規律などについて、日税連、日弁連、公認会計士協会、大学教授など各分野の専門委員で構成された「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」が開催され、喫緊の課題について検討が始まっています。
以上のように、M&A、組織再編、あるいは所有と経営の分離などといった資本政策や買収・合併といった相対取引での方式の選択が求められる場面では、税務のみならず法務・会計といった多方面におけるより慎重な検討が必要で、税理士・会計士・弁護士など事業承継に携わる専門家は隣接士業の連携を通じて、より具体的にクライアントの望む方式を考察することが求められてきています。
事業承継をめぐる制度や規定は非常に複雑であり、実務家が円滑に実務を行うためにはクライアントに確認・検討を要する事項も多岐にわたります。実行に際しては具体性が必要であり、実務家はクライアントの理解を促すために分かりやすい説明を心掛けることが最重要課題と言えるかもしれません。
(2021年10月執筆)
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執筆者
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浅野 洋あさの ひろし
税理士 しんせい綜合税理士法人代表社員・名古屋土地税制経済研究会会長
名古屋経済大学大学院非常勤講師
略歴・経歴
昭和58年10月税理士登録
著書
『事業承継税制の実務ポイント』 清文社(共著)
『「新・事業承継税制」徹底解説』 清文社(共著)
『税金のすべてがわかる 現代税法入門塾 第9版』 清文社(共著)
『農業・農地をめぐる税務上の特例』 新日本法規出版(共著)
『事業承継相談対応マニュアル』 新日本法規出版(共著)
『図説 逆転裁決例精選50PartⅢ 課税処分取消しのアプローチ』 ぎょうせい(共著)
『平成31年度(2019年度) 税制改正の要点解説』 清文社 共著
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