契約2025年12月26日 スポーツ界におけるフリーランス保護法の影響 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:宮祐平

1 日本シリーズ中に飛び込んだ戦力外通告のニュース
2025年のプロ野球の日本シリーズは、10月25日から開催され、30日に福岡ソフトバンクホークスが4勝1敗で阪神タイガースを制して日本一の栄冠を掴み取った。そのシリーズ期間中の27日に、福岡ソフトバンクホークスは、支配下選手に対して来季の契約を結ばないと通告した。阪神タイガースも、30日に支配下選手に来季契約を結ばないことを通告した。
このように、日本シリーズ中に戦力外通告が行われることは異例であるが、この背景には、昨年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス保護法、以下「本法」という。)」の影響がある。今回は、本法がスポーツ界にもたらす影響について考えたい。
2025年のプロ野球の日本シリーズは、10月25日から開催され、30日に福岡ソフトバンクホークスが4勝1敗で阪神タイガースを制して日本一の栄冠を掴み取った。そのシリーズ期間中の27日に、福岡ソフトバンクホークスは、支配下選手に対して来季の契約を結ばないと通告した。阪神タイガースも、30日に支配下選手に来季契約を結ばないことを通告した。
このように、日本シリーズ中に戦力外通告が行われることは異例であるが、この背景には、昨年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス保護法、以下「本法」という。)」の影響がある。今回は、本法がスポーツ界にもたらす影響について考えたい。
2 本法はプロスポーツにおける球団ないしクラブとプロアスリートとの契約に適用されるか?
前提として、本法の適用について整理したい。諸説あるものの、現在の実務においては、プロアスリートは労働基準法(以下「労基法」という。)上の労働者とは考えられていないケースが多いと思われる。
仮に、労基法上の労働者でないのであれば、プロアスリートが契約解除をされる場面においては、労基法に基づく保護を受けることができないことになるが、本法により保護されるかが問題となる。
本法は、従業員を使用せずに業務委託を受ける事業者(フリーランス)が安心して働けるように、発注者との取引適正化及び就業環境の整備を図る目的で定められたものである(本法1条)。とりわけ、組織として事業を行う事業者とフリーランスでは、交渉力やその前提となる情報収集力に格差があることから、フリーランスを保護するのが本法の立法趣旨である1。
この点、まず、球団ないしクラブとプロアスリートが、各々独立した「事業者」であることは多言を要しない。
そして、本法の「業務委託」は、事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(2条3項)を対象としているところ、球団ないしクラブが、プロアスリートに対して、球団ないしクラブのためにプレーすることを求めることは、当然に「業務委託」に該当する。
その業務委託の相手方であり従業員を使用しないプロアスリートは「特定受託事業者」であり(2条1項)2、プロアスリートに業務委託をする球団ないしクラブは「特定業務委託事業者」となる(2条6号)。
以上から、本法はプロスポーツにおける球団ないしクラブとプロアスリートとの契約に適用されるといえる。
前提として、本法の適用について整理したい。諸説あるものの、現在の実務においては、プロアスリートは労働基準法(以下「労基法」という。)上の労働者とは考えられていないケースが多いと思われる。
仮に、労基法上の労働者でないのであれば、プロアスリートが契約解除をされる場面においては、労基法に基づく保護を受けることができないことになるが、本法により保護されるかが問題となる。
本法は、従業員を使用せずに業務委託を受ける事業者(フリーランス)が安心して働けるように、発注者との取引適正化及び就業環境の整備を図る目的で定められたものである(本法1条)。とりわけ、組織として事業を行う事業者とフリーランスでは、交渉力やその前提となる情報収集力に格差があることから、フリーランスを保護するのが本法の立法趣旨である1。
この点、まず、球団ないしクラブとプロアスリートが、各々独立した「事業者」であることは多言を要しない。
そして、本法の「業務委託」は、事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(2条3項)を対象としているところ、球団ないしクラブが、プロアスリートに対して、球団ないしクラブのためにプレーすることを求めることは、当然に「業務委託」に該当する。
その業務委託の相手方であり従業員を使用しないプロアスリートは「特定受託事業者」であり(2条1項)2、プロアスリートに業務委託をする球団ないしクラブは「特定業務委託事業者」となる(2条6号)。
以上から、本法はプロスポーツにおける球団ないしクラブとプロアスリートとの契約に適用されるといえる。
3 本法における契約解除時の規制
本法16条1項は、「特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも三十日前までに、その予告をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。」と定めている。
同項は、契約期間が一定期間以上ある契約の解約について、事前予告によりフリーランスが次の取引に円滑に移れるように解除等に伴う時間的・経済的損失を軽減する趣旨で規定されている3。
したがって、球団ないしクラブがプロアスリートに対して、プレーすることを委託する継続的な契約を解除する場合には、当該アスリートが次の契約にスムーズに進めるように、少なくとも解除ないし契約満了時の30日前までにアスリートに予告をしなければならないことになる。
本法16条1項は、「特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも三十日前までに、その予告をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。」と定めている。
同項は、契約期間が一定期間以上ある契約の解約について、事前予告によりフリーランスが次の取引に円滑に移れるように解除等に伴う時間的・経済的損失を軽減する趣旨で規定されている3。
したがって、球団ないしクラブがプロアスリートに対して、プレーすることを委託する継続的な契約を解除する場合には、当該アスリートが次の契約にスムーズに進めるように、少なくとも解除ないし契約満了時の30日前までにアスリートに予告をしなければならないことになる。
4 プロ野球においては具体的にいつまでに戦力外通告をしなければならないのか?
支配下選手の契約期間は、統一契約書3条が参稼報酬の対象期間を2月1日から11月30日までと定めているように、毎年2月1日から11月30日までと考えられる4。
したがって、解約予告については、支配下選手の契約期間満了日である11月30日から30日前である10月30日までになされなければならないことになる。
今年、日本シリーズに進出したソフトバンクと阪神の選手らが日本シリーズ真っ只中の時期に戦力外通告を受けたのは正に本法の施行によるものである。
支配下選手の契約期間は、統一契約書3条が参稼報酬の対象期間を2月1日から11月30日までと定めているように、毎年2月1日から11月30日までと考えられる4。
したがって、解約予告については、支配下選手の契約期間満了日である11月30日から30日前である10月30日までになされなければならないことになる。
今年、日本シリーズに進出したソフトバンクと阪神の選手らが日本シリーズ真っ只中の時期に戦力外通告を受けたのは正に本法の施行によるものである。
5 今後の展望
本法16条1項(契約解除時の規制)に違反した場合については、厚生労働大臣が18条で特定業務委託事業者に違反の是正又は防止のために必要な措置を勧告、19条1項で勧告を受けたものが当該措置を採らなかった場合には命令、同条2項で命令した旨の公表、24条1号で命令違反に対して50万円以下の罰金が定められており、これらの制裁を基に本法に基づく16条1項の実効性が確保されているといえる。
野球界においていえば、日本シリーズ中の戦力外通告は、選手に酷にも思えるが、戦力外通告の前倒しによって、選手は、早期に移籍先や引退、セカンドキャリアなどを検討できることになった。実際に、今回日本シリーズ中に戦力外通告を受けた支配下選手7名のうち、11月中旬頃までに2名が現役引退を表明し、3名が所属球団と来季育成での再契約、残り2名がそれぞれ他球団と育成契約・支配下契約を結んだ。
翌年の2月1日から春季キャンプが行われるのが通例であり、年末から1月末にかけて自主トレを行う選手も多いことから、本法の施行により選手がより早く来季に向けた準備を行うことができるようになることが期待される。更には、来シーズンから韓国プロ野球KBOリーグにおいて外国人選手のアジア枠が新設されることなどから、韓国などの海外移籍を検討する選手も増えることが想定される。
アスリートからすれば、従前より早くネクストステップを検討することができるようになる可能性があるため、本法はアスリートにとって大きな意義があるといえよう。
本法16条1項(契約解除時の規制)に違反した場合については、厚生労働大臣が18条で特定業務委託事業者に違反の是正又は防止のために必要な措置を勧告、19条1項で勧告を受けたものが当該措置を採らなかった場合には命令、同条2項で命令した旨の公表、24条1号で命令違反に対して50万円以下の罰金が定められており、これらの制裁を基に本法に基づく16条1項の実効性が確保されているといえる。
野球界においていえば、日本シリーズ中の戦力外通告は、選手に酷にも思えるが、戦力外通告の前倒しによって、選手は、早期に移籍先や引退、セカンドキャリアなどを検討できることになった。実際に、今回日本シリーズ中に戦力外通告を受けた支配下選手7名のうち、11月中旬頃までに2名が現役引退を表明し、3名が所属球団と来季育成での再契約、残り2名がそれぞれ他球団と育成契約・支配下契約を結んだ。
翌年の2月1日から春季キャンプが行われるのが通例であり、年末から1月末にかけて自主トレを行う選手も多いことから、本法の施行により選手がより早く来季に向けた準備を行うことができるようになることが期待される。更には、来シーズンから韓国プロ野球KBOリーグにおいて外国人選手のアジア枠が新設されることなどから、韓国などの海外移籍を検討する選手も増えることが想定される。
アスリートからすれば、従前より早くネクストステップを検討することができるようになる可能性があるため、本法はアスリートにとって大きな意義があるといえよう。
1 内閣官房、新しい資本主義実現本部事務局『「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集に寄せられた御意見について』2頁以下
2 選手自ら法人を設立して、球団と選手と当該法人の三者で契約する際、選手が従業員を使用している場合や他に役員を選任している場合には、上記の立法趣旨が妥当せず、法文上も選手が「特定受託事業者」に該当せず、本法が適用されない可能性もある。もっとも、日本プロ野球の統一契約書上は三者契約は想定されていない。
3 前掲注1の6頁以下
4 公表されている統一契約書のひな型においては、支配下選手の契約期間は明記されていないものの、参稼報酬の対象期間を前提とすれば、契約期間も毎年2月1日から11月30日までであると考えられる。
(2025年12月執筆)
(本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
人気記事
人気商品
一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 全29記事
- スポーツ界におけるフリーランス保護法の影響
- 「スポーツを観る権利」~ユニバーサルアクセス権から考える~
- 日本人陸上選手のアンチ・ドーピング規則違反についてのCAS決定
- 武道と法規範~合気道を例に
- スポーツ団体による事実認定と立証の程度
- アスリートに対する誹謗中傷の問題点と今後求められる取組み(誹謗中傷問題連載⑤)
- SNS上のアスリートに対する誹謗中傷の具体的事案及び法的分析(誹謗中傷問題連載④)
- SNS上のアスリートに対する誹謗中傷への法的対応について(誹謗中傷問題連載③)
- 国内におけるアスリートに対する誹謗中傷問題への対応(誹謗中傷問題連載②)
- 国際大会におけるアスリートへの誹謗中傷とその対策(誹謗中傷問題連載①)
- 部活動の地域移行、地域連携に伴うスポーツ活動中の事故をめぐる法律問題
- スポーツにおけるセーフガーディング
- スポーツ仲裁における障害者に対する合理的配慮
- スポーツ施設・スポーツ用具の事故と法的責任
- オーバーユースの法的問題
- スポーツ事故の実効的な被害救済、補償等について
- 日本プロ野球界におけるパブリシティ権問題の概観
- パルクール等、若いスポーツの発展と社会規範との調和
- ロシア選手の国際大会出場に関する問題の概観
- スタッツデータを取り巻く法的議論
- スポーツ事故における刑事責任
- スポーツに関する通報手続及び懲罰手続に関する留意点
- スポーツ界におけるフェイクニュース・誹謗中傷
- スポーツと地域振興
- アンチ・ドーピング規程における「要保護者」の特殊性
- スポーツにおけるパワーハラスメントについて考える
- アスリート盗撮の実情とその課題
- アンチ・ドーピングについてJADA規程に準拠しない競技団体とその課題
- スポーツチームにおけるクラブトークンの発行と八百長規制の必要性
執筆者

宮 祐平みや ゆうへい
弁護士(シーサイド横浜法律事務所)
略歴・経歴
中央大学法学部法律学科 卒業
早稲田大学大学院法務研究科 修了
日本プロ野球選手会公認代理人 登録
神奈川県弁護士会スポーツ法研究会
横浜マリナーズ(神奈川県弁護士会野球部)
執筆者の記事
-

-

団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -















