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一般2024年10月24日 国際大会におけるアスリートへの誹謗中傷とその対策(誹謗中傷問題連載①) 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:田原洋太

第1 オリンピック・パラリンピックでの誹謗中傷問題

 今年7月26日から8月11日までパリ2024オリンピックが開催され、8月28日から9月8日までパリ2024パラリンピックが開催された。いずれの大会においても、世界各国の選手が素晴らしいパフォーマンスを発揮し、日本代表選手団は、オリンピックにおいて金メダル20個を含む合計45個のメダルを獲得し、パラリンピックにおいて金メダル14個を含む41個のメダルを獲得した。このような日本代表選手団の活躍はメディアでも報道され、大きく盛り上がったことは記憶に新しい。
 しかし、大きな盛り上がりを見せた一方で、オリンピックに出場した選手に対するSNS上での誹謗中傷が後を絶たないという事態が生じてしまい、メディアなどでも大きく取り上げられ問題視された。このような問題は、日本代表選手のみならず、日本以外の代表選手に対しても生じており、IOC選手委員会による声明によれば、大会期間中の誹謗中傷の件数は8500件にものぼるとのことであった1
 アスリートへの誹謗中傷は、アスリートのパフォーマンスに悪影響を及ぼすだけでなく、アスリートの私生活やアスリートの家族に対しても重大な悪影響を生じさせかねないものであり、アスリートやその家族を守り、多くの人がスポーツを楽しむためには、誹謗中傷を抑止することが必要不可欠である。そこで、本稿では、パリオリンピック・パラリンピックにおいて、誹謗中傷を抑止するために、どのような対策、取り組みが行われたのかを概観する。

第2 オリンピック・パラリンピックでの各団体の動き

 1 各団体による声明の発表
 パリオリンピック期間中、日本代表選手に対する誹謗中傷が行われたことを受けて、日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)は、SNSでの誹謗中傷に関してメッセージを掲出した2。その中では、アスリートや監督・コーチが「心ない誹謗中傷、批判等に心を痛めるとともに不安や恐怖を感じることもあります。」と記されており、また、「侮辱、脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討いたします。」と、法的措置等を検討する旨も記されている。
 JOCの他にも、日本陸上競技連盟がパリオリンピックにおける誹謗中傷に関する声明を公表しており、日本バレーボール協会は公式SNSにおいて川合俊一会長のコメントを投稿している34。日本陸上競技連盟の声明においても、「選手や関係者を守るために、行き過ぎた内容の誹謗中傷の投稿に関しては、今後法的措置も辞さない考えを持っております。」と記されており、各団体が誹謗中傷に対し断固とした対応を取っていくことを表明している。

 2 AIによる誹謗中傷の検知
 パリオリンピックにおいては、国際オリンピック委員会(以下「IOC」という。)により、アスリートを守るためのAIによる検知システムが導入された5。IOCのセーフスポーツユニットの会見によれば、このAIの検知システムは複数のプラットフォームにおいて37を超える言語で検知を行ったとのことである6。SNS上での誹謗中傷を検知するシステムは、2022年カタール・ワールドカップ前に導入された「ソーシャルメディア保護サービス(SMPS)」をはじめとして、2023年に開催されたラグビーワールドカップにおいても導入されており、今後開催される国際大会には導入されるものと思われる。

 3 選手の心のケア
 パリ2024オリンピックでは、選手村内に「マインドゾーン」と名付けられたスペースが設けられ、選手がリラックスできるように照明を抑え静かな音楽が流れる空間や、専門スタッフが常駐して選手の悩みや不安などの相談に対応する体制が用意された7。このように、誹謗中傷を受けてしまった選手に対する心のケアを行う取り組みも実施されていた。

第3 まとめ

 このように、国際大会開催時にSNS等での誹謗中傷が多く発生してしまうため、各団体が声明を公表したり、AIを用いた検知システムを導入するなどして、誹謗中傷を抑止し、また、これによる被害を抑えるための対策を講じている。もっとも、この誹謗中傷問題は、国際大会のみならず、日本国内のプロスポーツ、アマチュアスポーツにおいても問題となっている。そこで、次回は日本国内におけるアスリートへの誹謗中傷と、それに対する対策を取り上げる。

(2024年10月執筆)

(本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

田原 洋太たはら ようた

弁護士(プロックス法律事務所)、日本大学スポーツ科学部 非常勤講師

略歴・経歴

立教大学法学部卒業
慶応義塾大学法科大学院修了
2017年弁護士登録(70期)
・取扱分野
スポーツ法務、企業法務、知的財産法務、訴訟等の紛争解決
・著書
「スポーツ団体の倫理規定の在り方に関する考察 ―パワーハラスメントの定義を中心に―」(共著、日本スポーツ法学会年報第26号280-301頁、2019年)
「東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る法的課題」(共著、成文堂、2023年)等

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