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一般2024年11月22日 国内におけるアスリートに対する誹謗中傷問題への対応(誹謗中傷問題連載②) 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:五十嵐幸輝

第1 はじめに

 最近、アスリートへの誹謗中傷に関する報道を目にすることが増えた。前回の連載①では主にオリンピック・パラリンピックでの問題が取り上げられていたが1、誹謗中傷は、大々的な世界大会においてのみならず、アスリートの活動全般において日常的に生じている問題である。
 本稿では、国内におけるアスリートに対する誹謗中傷問題への対応について、近時の動向を概観する。

第2 最近の誹謗中傷への対応事例

 近年、SNS等のプラットフォームサービスの普及によってインターネット上の誹謗中傷が社会問題化し、アスリートに対する誹謗中傷の事案も増加することになった。これに伴い、各スポーツチームや選手会等は、以前よりも一層、誹謗中傷を許さない態度をはっきりと表明するようになった印象を受ける。
 例えば、サッカー界においては、横浜FCとV・ファーレン長崎が、2024年8月10日に、所属選手、家族及び審判団等に対するSNSでの誹謗中傷が確認されたことについて法的措置を含めた対応をとる旨を表明した2。また、松本山雅FCも、10月9日、チームに対する誹謗中傷については法的措置を含めた対応をとることを表明している3。さらに、FC町田ゼルビアは、10月6日には弁護士の顧問就任及び選手・スタッフに対する誹謗中傷に関する情報提供窓口の設置を、15日には刑事告訴を行うことを公表している456。このように、ごく最近(本稿執筆前の3か月間)だけでも、チームとして誹謗中傷に対して法的措置をとる旨表明した事例が複数確認できる。
 野球界においては、日本プロ野球選手会が、2023年3月26日に、「誹謗中傷等に対しては、発信者情報開示請求等の法的措置を講じ、専門家や警察などの関係機関と連携するなどして、これまで以上に断固とした対応をとってまいります。」とのリリースを出し7、それ以降も複数回にわたって、誹謗中傷に対して実際に法的措置を講じた事実を明らかにしている8。そして、ほとんどの球団が、選手等に対する誹謗中傷に対して法的措置を検討する旨表明している9
 また、最近では、横浜DeNAベイスターズの関根大気選手が、自身に対する誹謗中傷について弁護士に委任して発信者情報の開示手続をとったことなど、被害者としての一連の対応をXで積極的に発信したことにより、多くの関心を集めている10。このように、団体だけではなく、アスリート個人がSNS等を活用して情報発信をすることで、誹謗中傷に関する知識や問題意識が世間に広く共有されることは望ましい傾向だと思われる。
 バスケットボール界においては、B.LEAGUEが、2024年9月30日に、「試合会場やSNSにおける差別・誹謗中傷等の違法、不当な行為については、・・・法的手段を含め厳正に対処し、これまでと同様に毅然とした姿勢で臨んでまいります。」とのリリースを出した11。さらにその翌日には、日本バスケットボール選手会もリリースを出し、「選手を含む関係者に対する誹謗中傷やプライバシー侵害については、決してこれを許さず、選手会顧問弁護士や提携パートナーであるCOAS(アスリートに対する誹謗中傷の抑止活動を行っている団体)12と連携して、法的措置を含めた厳正な対応」をとることを表明している13。このように、弁護士等と連携する体制を整備しておくことは、法的措置の実効性を高めるうえで有効な準備だと考える。
 なお、紙幅の都合上割愛せざるを得ないが、他の競技においても、近年、各団体が誹謗中傷を許さない態度を明らかにしている14

第3 まとめ

 以上のとおり、アスリートに対する誹謗中傷の問題は、現在、各チームや選手会等が看過できない程にまで深刻化しており、各団体等が、誹謗中傷を断固として許容しない強い姿勢を表明するケースが見られるようになった。そして、その強い姿勢に誹謗中傷を抑止する力を付与するものがあるとすれば、それは各リリースの文言に頻繁に登場していた「法的措置」である。
 そこで、次回の連載③では、アスリートに対する誹謗中傷への法的な対応について取り上げることにする。

1 田原洋太「国際大会におけるアスリートへの誹謗中傷とその対策」(https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3782934/
2 https://www.yokohamafc.com/2024/08/10/topteam-32/https://www.v-varen.com/clubinfo/207048.html なお、その後示談が成立している
https://www.yokohamafc.com/2024/11/08/topteam-34/)。
3 https://www.yamaga-fc.com/archives/457796
4 https://www.zelvia.co.jp/news/news-280092/
5 https://www.zelvia.co.jp/news/news-280535/
6 紙幅の都合上、本稿は選手に対する誹謗中傷の事例に限定しているが、審判に対する誹謗中傷についても、2024年10月24日に、JFAの審判委員長が容認しない態度を表明している(https://news.yahoo.co.jp/articles/33a9ac63b819627edadb17484fe52dc89f94331e)。また、B.LEAGUEも、審判に対する違法・不当なSNS投稿への対応を発表している(https://www.bleague.jp/media_news/detail/id=442990)。審判に対する誹謗中傷も問題となっており、リーグが声明を出すなどして、その抑止に向けた動きを見せている。
7 https://jpbpa.net/2023/03/29/11129/
8 https://jpbpa.net/2024/10/24/11887/
9 各球団のリリースは、COASのサイトで整理されている
https://www.coas-lawyers.com/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%84/)。
10 https://www.kanaloco.jp/news/social/article-1116923.html
11 https://www.bleague.jp/news_detail/id=437982
12 団体COASについて(https://www.coas-lawyers.com/
13 https://j-bpa.com/news/20241001/
14 日本陸上競技連盟(https://www.jaaf.or.jp/news/article/20933/)、日本バレーボール協会(https://www.jva.or.jp/topics/20240807-5/)等

(2024年11月執筆)

(本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 全22記事

  1. SNS上のアスリートに対する誹謗中傷への法的対応について(誹謗中傷問題連載③)
  2. 国内におけるアスリートに対する誹謗中傷問題への対応(誹謗中傷問題連載②)
  3. 国際大会におけるアスリートへの誹謗中傷とその対策(誹謗中傷問題連載①)
  4. 部活動の地域移行、地域連携に伴うスポーツ活動中の事故をめぐる法律問題
  5. スポーツにおけるセーフガーディング
  6. スポーツ仲裁における障害者に対する合理的配慮
  7. スポーツ施設・スポーツ用具の事故と法的責任
  8. オーバーユースの法的問題
  9. スポーツ事故の実効的な被害救済、補償等について
  10. 日本プロ野球界におけるパブリシティ権問題の概観
  11. パルクール等、若いスポーツの発展と社会規範との調和
  12. ロシア選手の国際大会出場に関する問題の概観
  13. スタッツデータを取り巻く法的議論
  14. スポーツ事故における刑事責任
  15. スポーツに関する通報手続及び懲罰手続に関する留意点
  16. スポーツ界におけるフェイクニュース・誹謗中傷
  17. スポーツと地域振興
  18. アンチ・ドーピング規程における「要保護者」の特殊性
  19. スポーツにおけるパワーハラスメントについて考える
  20. アスリート盗撮の実情とその課題
  21. アンチ・ドーピングについてJADA規程に準拠しない競技団体とその課題
  22. スポーツチームにおけるクラブトークンの発行と八百長規制の必要性

執筆者

五十嵐 幸輝いがらし こうき

弁護士(西村敦法律事務所)

略歴・経歴

2016年 上智大学法学部法律学科卒業
2018年 首都大学東京法科大学院(現東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
企業法務、一般民事・家事事件、刑事・少年事件

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