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福祉・保健2023年10月25日 スポーツ事故の実効的な被害救済、補償等について 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:柴田剛

1 スポーツ事故でも高額な損害賠償責任が生じる可能性がある

 スポーツ活動中の事故により損害が発生した場合、一定の要件を具備すれば相手方に対して損害賠償請求が可能です。その損害の内容としては、けがをしたケースであれば、治療費、通院費、入通院慰謝料や休業損害のほか、けがの程度によっては後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益なども考えられます。物を壊してしまったようなケースであれば、壊してしまった物の時価相当額、それが使えなかったことによる損害(営業上の損失等)などが含まれる可能性もあります。
 このように、死亡事案や重篤なけが事案となれば損害額は相対的に大きくなります。物が壊れてしまったケースでも、精密機器や特注品など替えの効かないようなものであれば、やはり損害額は大きくなるかもしれません。
 そして、これらの損害を与えた相手方、すなわち、衝突等で物理的に損害を与えてしまった当事者(ここにはスポーツ活動中の競技者同士というケースも含まれます。)はもちろん、それだけでなく、安全配慮義務違反が認められた団体12や指導者個人3も損害賠償責任を負う可能性があります。

2 実際に裁判で認められた賠償額

 高額な賠償が認定された事案としては、次のようなものがあります。大会運営中の落雷事故によりその参加者の一人が重度の後遺障害を負った事案(最高裁判決平成18年3月13日、差戻控訴審高松高裁判決平成20年9月17日)では、3億円を超える賠償額が認められました。そのほか、1億円を超えるものとして大阪地裁平成22年9月3日判決(体操部での平行棒練習中の落下事故)などもあるところです。これら、額の多寡により耳目を集める事案以外でも、一般的に、他覚的所見のないむち打ち症等で6か月通院した場合の通院慰謝料を89万円と算定する基準4も公表されているところであり、スポーツ活動と高額な賠償責任とは決して距離があるというものではありません。

3 スポーツ保険の有用性とその限界

 負担を命じられた賠償責任を履行する必要があるのは、原則として相手方当事者です。つまり、けがなどを負った被害者側としては、その救済は相手方当事者の資力に依存することとなります5
 しかし、それでは上記のように損害が大きくなればなるほど救済の必要が高いのに救済が得られないというジレンマに陥ってしまいます。このような万が一に備えることのできる制度が、いわゆる保険や補償の制度です。我が国におけるスポーツや学校体育場面での主なものとして、スポーツ安全保険6、公認スポーツ指導者総合保険7及び日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度8が挙げられます9
 しかし、いずれについても、死亡や重篤なけがが生じたようなケースでは損害の全てを填補するには十分とは言い難く、差額分についてはなおも相手方当事者が負担すべきこととなり、実効的な被害者救済にはいまだ十分とはいえないのが現状です。

4 スポーツ法学会の提言とまとめ

 このような現状に鑑み、日本スポーツ法学会は、本年7月1日、「(仮称)スポーツ事故被災者への補償等総合的支援制度」の創設に関する提言を行いました10
 これは、下記の7点を骨子とした総合的な支援を国等に求めるものです。

被災者の迅速な救済:被災者に対して素早い支援措置を講じ、必要な補償を迅速に提供すること。
当事者の過重負担回避:事故の当事者が抱える経済的及び精神的な負担を軽減するために、事故による損失の公平な分担を行うこと。
当事者間の対立回避:民事責任をめぐる敵対的な関係を回避し、当事者が協力して事故原因の究明に取り組める環境を整備すること。
事故原因の調査・究明:一定の重傷事故が発生した場合には、第三者調査機関が事故原因を調査し、真相究明を行うこと。
被災者に寄り添い、被災者を主役にする事故防止対策:被災者の意見や声を重視し、事故防止策の策定や実施に被災者を積極的に参画させること。
研究機関との連携:研究機関との協力関係を築き、事故防止や被災者支援に関する研究や情報の共有・活用を図ること。
被災者コミュニティとの連携:被災者コミュニティとの緊密な連携を図り、被災者の声やニーズに応えるための支援体制を構築すること。

 この補償制度が将来的に実現するかどうかやこの提言自体が指摘する克服すべき今後の課題など検討事項が多いのは事実です。しかしながら、スポーツや運動といったものがけがや事故といったリスクを内在するものである以上、事故予防と同等にリスクが顕在化した場合の手当ても重要です。
 こういった提言などが実を結び、スポーツ等に関係する一人ひとりが「適性等に応じて、安全かつ公正な環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保11」される日が来ることを願っています。

1 福岡地裁久留米支部令和4年6月24日判決(校庭にあったゴールポストが固定されていなかったことを見逃したことにつき学校側の安全配慮義務違反が認められた事案)
2 望月浩一郎、山中龍宏、菊山直幸編「これで防げる!学校体育・スポーツ事故 科学的視点で考える実践へのヒント」22-23ページ(中央法規・2023)
3 大阪地裁平成27年4月17日判決(生徒が熱中症による重篤な後遺障害を負った事案で監督者に水分補給を指示する義務があったのにこれを怠ったと認定された事案)
4 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(上巻)」(最新は2023年版)
5 上記最高裁判決平成18年3月13日の事例では、相手方当事者である体育協会が多額の賠償金の捻出が困難となり最終的に自己破産をするという顛末になりました。
6 https://www.sportsanzen.org/hoken/index.html
7 https://www.japan-sports.or.jp/coach/tabid1168.html
8 https://www.jpnsport.go.jp/anzen/saigai/tabid/56/default.aspx
9 その他団体独自の補償制度や外国での状況等については、日本スポーツ法学会事故判例研究専門委員会編「スポーツ事故の法的責任と予防」187-205ページ(道和書院・2022年)
10 http://jsla.gr.jp/archives/1732
11 スポーツ基本法前文

(2023年10月執筆)

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執筆者

柴田 剛しばた ごう

弁護士(弁護士法人ASK川崎)

略歴・経歴

早稲田大学スポーツ科学部スポーツ医科学科卒業
立教大学大学院法務研究科修了
神奈川県弁護士会スポーツ法研究会幹事

取扱分野
スポーツ法務、一般民事、企業法務

著書
『これで防げる!学校体育・スポーツ事故 -科学的視点で考える実践へのヒント』(共著)中央法規(2023年)
『これですっきりトラブル防止・解決のヒント「改めて考えたいスポーツ保険の有用性」』(JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)Sport Japan 2022年5・6月号(Vol.61)掲載)

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