一般2023年06月20日 パルクール等、若いスポーツの発展と社会規範との調和 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:白水裕基

1 はじめに
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技会の種目として、スケートボード、BMXフリースタイル等が採用されるなど、近年、いわゆるストリートカルチャーやユースカルチャーに端を発するスポーツⅰが注目を集めている。しかし、これらのスポーツは、普及発展の過程で社会と関わる機会が増えるにつれ、当該スポーツ独自の文化と社会規範ⅱとの間の緊張関係が顕在化することが少なくない。そこで、本稿では、筆者が十年来取り組んできた「パルクール」というスポーツを題材に、スポーツの普及発展と社会規範との関係について検討する。
2 パルクールとは
パルクールは、1990年代フランスで発祥した移動術であり、画一的な定義は存在しないものの、走る、跳ぶ、登るといった移動動作を通して心身を鍛錬する運動方法などと説明されることが一般的であるⅲ。経験を積んだ実践者によるアクロバティックな動作が着目されがちであるが、無謀な挑戦を行うものではなく、実践者の中では、自己と向き合い、目標に向け一つ一つ課題を克服するという(地道な)成長過程や思考方法が重視されている。
パルクールは、自身の鍛錬・自己表現として実践されるほか、動きの迫力・流麗さ等を活かし、イベントでのパフォーマンス、映画・CM等の映像作品など、エンターテインメント分野で用いられることも多い。また、近年では、ゴールまでのスピードを競うスピードランや、パフォーマンスの芸術性を競うフリースタイルといった種目での大会も国内外で定期的に開催されているⅳ。
近年、メディアやSNS等での露出の増加や、専用施設・教室の設立が進んだこと等もあり、パルクールの知名度が急速に高まっている。それに伴い、様々な面で社会規範との緊張関係が顕在化しているところ、以下では、特に目につきやすい、実践場所の問題を取り上げる。
3 実践場所の問題
パルクールは周囲の環境を利用して行うものであり、街中いたるところがスポット(パルクールの実践場所)となり得る。しかし、公共スペース等、自身の所有・管理に属さない施設を利用する際には当然、社会規範に服さざるを得ない。立入りの禁止された場所への侵入や設備の損壊等について法的責任が追及され得ることは当然として、通行人の多い場所での実践等、周囲に危険を感じさせるような行為についても、社会規範に抵触するものであり、ゆくゆくは、実践者の首を絞めることとなる。
先に普及が進んだスケートボードの例を見ると、接触等により通行人に怪我をさせる危険性や、器物損壊、騒音といった問題が懸念され、現在では、(実際に接触事故等が発生したか否かとは関係なく)「スケートボード禁止」を明示する施設も多数みられるに至っている。また、立ち入りが禁止された場所での実践について、軽犯罪法違反の容疑で逮捕されるに至った事例も存在する(念のため、実践者の多くは社会規範に留意して活動していることを付言する。)。
パルクールについては、現時点では幸いにして明示的な禁止場所は多くないものの、性質上、非実践者の抱く安全性等に関する懸念は、実践者が認識する以上に大きなものとなりやすく、また、競技人口の増加に伴い、実践者の活動が社会の目に触れる機会が増えることは確実である。そのような中で、実践者が社会規範に十分留意しなければ、いずれ、社会による規制を受け、実践者が行動の変容を迫られることは想像に難くない。
実践場所の問題に限れば、専用施設の整備を進めることも一つの重要な対応であることは間違いないものの、パルクールの発展の歴史に鑑みれば、公共スペースを一切利用しないことも現実的ではないのであり、社会規範と調和する形での実践の在り方を模索していく必要がある。その際には、法制度や文化的背景の差異から、国によって社会規範が異なり、公共スペースの利用に関する考え方や新しいカルチャーに対する社会の受け止め方も異なるため、海外の実践例をそのまま踏襲することが適切でない場合が多い点に留意する必要があるⅴ。
4 総括
スポーツは、その普及発展の過程において、社会規範との関係を無視することはできず、一定の変化を避けられない場面も生じ得る。その中で、当該スポーツがその本質的な精神・カルチャーを維持したまま普及発展を続けるためには、外部からの禁止や強制により変化を強いられるのではなく、当該スポーツの実践者の自主的な取り組みによる変化が図られることが重要である。
パルクールは、今後も普及発展が進み、プロ選手やパフォーマー、指導者等、パルクールに関する仕事に携わることを目指す実践者も増加していくことが予想される。そのような実践者達が将来、思わぬところで足元をすくわれてしまうことのないよう、現在のカルチャーの担い手である実践者達による、今後のパルクールの在り方に関する検討、気運の醸成が進むことが、カルチャーの適切な維持発展のため重要であると考えられるⅵ。
ⅰ これらスポーツの特徴として、「自由」や「自己表現」を重要な要素・価値観の一つとするものが多いことが挙げられる。また、近年、これらスポーツを「アーバンスポーツ」と総称し、普及発展を目指す動きも進んでいる。
ⅱ 本稿では、法令、ルールのほか、慣習、マナー等のレベルを含めた、社会においてその構成員に対し期待される行為を意味するものとして用いる。
ⅲ 日本パルクール協会HP(https://parkour.jp/about-parkour/)参照。
ⅳ パルクールの競技性の有無については実践者間でも議論があり、パルクールを用いた競技については「スポーツパルクール」と呼称し本来的なパルクールとは別の概念であると整理する見解も提唱されている(注ⅲ参照)。
ⅴ一方で、過剰な配慮に基づく行き過ぎた規制は、(スポーツに限らず)様々なカルチャーの発展を妨げ、社会にとって望ましくない結果をもたらしかねないものであり、筆者としては、公共スペースの利用に関する規制の適切性や緩和の是非についても議論が深まることが望ましいと考えている。
ⅵ 現実問題として、個々の実践者の自律のみに委ねるのでは難しく、一定の組織的な取り組みの必要性が高い一方で、その具体的な取り組みは容易ではない。とはいえ、これまでも各地のコミュニティ単位で様々な取り組みがなされてきたことを踏まえれば、例えば、その延長として、各コミュニティが内部のガイドラインや取決め(施設利用規約等を含む)を積極的に発信し、相互に模倣・修正していくことで、コミュニティごとに差異は残るとしても、最大公約数的な部分については事実上共通のガイドラインとして、実践者内外に示していくことができるのではないかと考えられる。
(2023年6月執筆)
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執筆者

白水 裕基しろず ひろき
弁護士(のぞみ総合法律事務所)
略歴・経歴
2017年 北海道大学法学部中途退学
2019年 北海道大学法科大学院修了
日本スポーツ法学会会員
主な取扱分野は、危機管理・コンプライアンス、スポーツ・エンターテインメント関連法務、名誉・信用毀損対応、その他企業法務全般
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