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一般2022年05月09日 スポーツと地域振興 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:手塚圭祐

1 日本では、1961年にスポーツ振興法が制定され、当初、日本のスポーツ施策は、同法に基づいて行われてきました。
  その後50年の経過に伴い、スポーツと地域との関係性、障がい者スポーツの発展、スポーツ団体のガバナンス強化などスポーツを取り巻く環境は大きく変化してきました。そのような中で、2011年6月にスポーツ基本法がスポーツ振興法を全部改正する形で成立しました。
  スポーツ基本法は、前文でスポーツ権を明記するとともに、スポーツ政策の基本を定め、スポーツに関する権利や基本理念を抽象的に示し、行政の施策の基本及び各競技団体等の活動の方針を定める法律です。
  スポーツ基本法の基本理念のうち、今回取り上げるのがスポーツを通じた地域活性化です。
2 Jリーグでは、競技の運営・経営主体となる株式会社に加え、総合型地域スポーツクラブとしてNPO法人や一般社団法人等(以下、まとめて「非営利法人」といいます。)を併せて設立するクラブが増えています1。株式会社が株主やスポンサー企業への利益還元を主とするのに対し、非営利法人は地域との連携を主とし、事業形態が異なることが多いです。
  また、非営利法人の設立は、地域に根差したクラブという社会的信用のみならず、税制面でも大きな効果があります。つまり、各クラブが運営するスクール事業の収益は、株式会社の場合、課税対象となりますが、非営利法人の場合、スクール事業は原則として法人税の課税対象にならないというメリットもあります2。他にも、スポーツ振興くじ助成の総合型地域スポーツクラブ活動助成3が受けられるというメリットもあります。
  最近でも、ファジアーノ岡山がスポーツを通じた地域での活動拡大と深化を目的に、一般社団法人ファジアーノ岡山スポーツクラブを2022年4月1日に設立しました4
  Bリーグやジャパンラグビーリーグワン等でもリーグの要請に伴い、分社化・地域密着型が進んでいるので、今後、運営主体とは別法人を設立する動きも活発化するといえるでしょう5
3 スポーツを通じた地域活性化の取り組みの一例として、ヴァンフォーレ甲府が行った「キャリスタ」6があります。同企画は、Jリーグ社会連携(シャレン!7)の会議でヴァンフォーレ甲府が明治大学のゼミ生と出会い、少子高齢化、人口減少等の地方都市の現状が各クラブのサポーター層にも影響を及ぼすという地方クラブの問題点を共有したことを端緒とします。
  同企画は、スタジアムを使った同窓会をテーマに、企業と学生が敷居の低い状態で交流を深め、地域雇用を促進する狙いがあります。
  また、通常の企業説明会の参加には参加費等の費用がかかるのに対し、同企画は、クラブがスポンサー企業に対し無償でマッチングの機会を提供するものであり、スポンサーへの利益還元の要素もあります。実際に企業と学生がマッチングし、雇用に至った例もあり、地元企業のスポンサーが多い、地方クラブの強みの一例といえます。
  上記のような活動は、まさにスポーツコンテンツを利用して各種のステークホルダーをつなぎ、スポーツを通じた地域活性化の一助になるのみならず、本来のスポーツ事業以外の面にも活動を広げることで当該クラブの価値を高め、新たなスポンサー・サポーター獲得等にもつながり得るものです。
4 「未来投資戦略2017」8でも、「スポーツを核とした地域活性化」の起爆剤として、コミュニティ創出の拠点とするスタジアム・アリーナ改革を進める方針を打ち出しており、政府としてもスポーツを通じた地域活性化を進めていく方針です。
  スタジアム等が公共施設となる場合、指定管理者制度(地方自治法第244条の2第3項)以外にも、公共施設の管理者からPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)第16条に基づき公共施設等運営権の設定を受け、同法第22条に基づき公共施設等運営権実施契約を締結して、民間事業者がコンセンション事業を行うことも考えられます9。コンセンション事業では、同法第24条により物権とみなされる「運営権」に対して担保権を設定し、事業に関する資金調達を行うことが可能となります。なお、スタジアム等では、利用に際して、大規模な事故発生等のリスクもあるので、実施契約締結にあたり、潜在的リスクを未然に防ぐ方策及び当事者のリスク分担をあらかじめ明確に定めておくことも重要です。
  また、スタジアム建設・運営時に想定される法的リスクを考えることも重要です10
5 上記のような社会情勢ではあるものの、各リーグや各クラブ、政府等によるスポーツを通じた地域活性化の流れがさらに波及していくことが望ましく、それに伴う法整備をさらに進めることが今後必要といえるでしょう。

1 NPO法人の例としてNPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブがあり、一般社団法人の例として一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブが挙げられます。
2 非営利法人では、収益事業課税方式が採用され、法人税法に規定のある34種の事業が税法上の収益事業として課税対象となり、このうち、「技芸教授に関する業」に該当するか否かが問題となりますが、技芸教授業の範囲は限定列挙されており、スポーツの指導は含まれていません。
3 https://www.jpnsport.go.jp/sinko/josei/tabid/79/default.aspx
4 https://www.fagiano-okayama.com/news/p1473057359.html
5 Bリーグでは、2026-27シーズンのリーグ構造改革「将来構想」を発表し、ライセンス基準を満たしたクラブがその都度参入するエクスパンション型リーグへの移行を掲げ、地域活性に対する事業投資を促進しています。この構想を受け、Bリーグ2部の熊本ヴォルターズの運営会社である熊本バスケットボール株式会社が本拠地となる新アリーナの建設計画を進めており(2022年1月1日熊本日日新聞)、ホームアリーナ計画の推進を含めた地域活性化や社会課題解決に取り組みやすい環境整備が進むことが考えられます。
6 https://www.ventforet.jp/vfkdiary/cate04/518652
 なお、同企画は、主催を一般社団法人ヴァンフォーレスポーツクラブと株式会社ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブとし、一般社団法人が企画・運営を行い、株式会社がスポンサー企業集めを行っており、法人ごとの役割分担が明確となっています。
7 https://www.jleague.jp/sharen/
8 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf(未来投資戦略2017)
  https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf(未来投資戦略2018)
9 PFI事業で整備されたスタジアムとして、ミクニワールドスタジアム北九州が挙げられます。
10 民設民営のスタジアムではありますが、栃木市岩舟総合運動公園内でのスタジアム設置許可に際し、栃木市長が公園の使用料の免除を行ったことに対し、同行為の違法確認及び固定資産税免除の差止めを求める住民訴訟が提起されました。同訴訟では、栃木市長がスタジアム所有企業に対し、公園の使用料を請求しないことは違法である旨及びスタジアムに対して課される固定資産税の免除をしてはならない旨の判決(宇都宮地方裁判所判決令和4年1月27日(令和3年(行ウ)第2号))がされており、スタジアム建設に関する法的紛争も生じています。

(2022年4月執筆)

執筆者

手塚 圭祐てづか けいすけ

弁護士(永淵総合法律事務所)

略歴・経歴

千葉大学法経学部法学科卒業
早稲田大学法科大学院修了
日本スポーツ法学会会員
日本プロ野球選手会公認選手代理人
専門分野はスポーツ法務、企業法務、一般民事、刑事事件

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