一般2024年02月08日 スポーツ施設・スポーツ用具の事故と法的責任 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:東隆好
スポーツ施設・スポーツ用具それ自体に、事故につながり得る危険性が潜んでいることを認識して、適切な取り扱いを徹底しておかなければ、指導者らの法的責任が問われかねないことに注意する必要があります6。
裁判所は、本件事故以前に、同様のゴールポスト転倒による死亡事故があったこと等を指摘し、本件校長に本件事故の予見可能性があったとしています。
その上で、裁判所は、本件校長には、「本件小学校の安全点検担当教員や点検担当の教員をして、本件ゴールポストの固定状況について点検し、本件ゴールポストの左右土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法などによって固定しておくべき注意義務があった」にもかかわらず、上記義務を怠ったとして、国賠法1条1項の過失が認められると判断しました。
本件では、被害児童が、サッカーの試合中に、味方がゴールを決めたことに喜んで、ゴールネットを固定するためのロープにぶら下がった際に、ゴールポストが転倒しました。裁判所は、ゴールポスト転倒の危険性8について何ら指導を受けていなかった被害児童において、本件ゴールポストのロープにぶら下がることの危険性9を認識できたとはいえないなどとして、被告の過失の重大性も加味し、過失相殺を認めませんでした。
本判決でも指摘されたゴールの固定については、シンポジウム「これで防げる!学校体育・スポーツ事故」にて、3本以上の杭で固定するか、100kg以上の重りで固定することなど、具体的な予防策が提言されています10。
1 平成25年5月、千葉県の高校で、サッカーゴール転倒による死亡事故が発生。この事故については、後述の福岡地裁久留米支部の判決中でも言及された。
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/soumu/press/2013/documents/mobara.pdf
2 令和4年9月、長崎県の高校で、生徒が、倒れてきた打撃練習用ケージの下敷きになり、大けがをする事故が発生。
https://www.asahi.com/articles/ASQ9944MJQ98TOLB004.html
3 令和5年5月、北海道の高校で、生徒が、防球ネットを移動中に倒れた防球ネットの下敷きになり、意識不明の重体となる事故が発生。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230512/k10014065081000.html
4 大分地裁平成26年6月30日判決・D1-Law掲載
5 福岡地裁平成26年11月18日判決・D1-Law掲載
6 望月浩一郎、山中龍宏、菊山直幸・編集代表『これで防げる!学校体育スポーツ事故 科学的視点で考える実践へのヒント』(2023年,中央法規出版)には、学校体育・スポーツ事故に対して、同じような事故が続いている現状を受け、科学的な実験・検証・データ分析を行った結果や、それに基づく具体的な事故防止のための対策がまとめられている。サッカーゴールの転倒事故についても、詳細な検証データが、図表も交えて紹介されている。
7 福岡地裁久留米支部令和4年6月24日判決・裁判所 Web サイト
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/289/091289_hanrei.pdf
8 NPO法人Safe Kids Japanは、サッカーゴールの転倒による衝撃力の計測を行った際の動画をYouTubeに公開しており、転倒時の衝撃力が、頭蓋骨骨折に至る力を大きく上回ることが分かるだけでなく、転倒時の衝撃の強さを目で見て分かる動画となっている。
https://www.youtube.com/watch?v=WDTeW10r7KI
9 NPO法人Safe Kids Japanは、ぶら下がりによってサッカーゴールにかかる力の計測を行った際の動画をYouTubeに公開している。重りなどによる固定がない場合、一人の中学生がぶら下がって揺らすだけで容易に転倒してしまうことが明らかになった。
https://www.youtube.com/watch?v=UFU3nk3DwZg
脚注8、9の動画は、JSCのサイトでも紹介されている。
10 同シンポジウム(2023年に第7回が開催)での検証結果や提言内容は、望月、山中、菊山・前掲書に、詳しくまとめられている。
11 「学校における体育活動中の事故防止について(報告書)」(平成24年7月、体育活動中の事故防止に関する調査研究協力者会議)22頁
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/jyujitsu/__icsFiles/afieldfile/2016/06/23/1323968_1.pdf
(2024年2月執筆)
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