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一般2021年07月07日 スポーツチームにおけるクラブトークンの発行と八百長規制の必要性 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:高橋駿

1. スポーツチームにおけるクラブトークンの発行が相次いでいます。ファンは、このクラブトークンを保有することにより、クラブの運営に関わったり、投票企画に参加できるなどのメリットを享受することができます。国外では、昨年FCバルセロナがクラブトークンを発行し、発売から2時間足らずで1億円以上の資金調達を実現したことが話題となりました1。国内でも湘南ベルマーレのクラブトークン発行など2、新規のトークン発行が増加しています。
クラブトークンの発行は、スポーツ団体における新たな資金調達の形として、また、同時にファンコミュニティ創出の場としても注目されています。国内では、株式会社フィナンシェ3の提供するサービスが有名ですが、今後他のプラットフォーマーの参入も考えられるところであり、より一層の広がりが期待されています。

2. このようなクラブトークンの発行やその運用に際しては、法的に留意しなければならない点が多くあります。特にプラットフォーマーにおいては、金融商品取引法や資金決済法の適用の可能性を考慮した上で、クラブトークンの法的な枠組みを慎重に検討する必要があります4

3. クラブトークンがそのスキームにおいて金融商品取引法等の規制を受けないとしても、前記フィナンシェの提供するサービスでは、発行されているトークンの数に上限が設定されているため、当該トークンを購入したい人が増えれば増えるほど価格が上昇し、当該トークンを売却したい人が増えれば増えるほど価格が下降すると考えられます。そうすると、株式取引と同様に、利用者は、価格変動リスクや流動性リスクを理解の上で、取引を行う必要があります。
また、クラブトークンは、その性質上、八百長等を誘発し、スポーツの高潔性(インテグリティ)を害するおそれがある点に留意する必要があります。
例えば、あるクラブに所属している選手が、対戦相手であるチームのトークンを所持していたとします。このとき、当該選手が自分のプレー如何で勝敗を左右できる状況になった場合、故意でなくとも心理的にプレーに影響を及ぼす可能性があるといえます。
選手のプレーやチームの勝敗により、トークン価格がどれほど影響を受けるかについては、データの集積を待つ必要がありますが、価格への影響の可能性が否定できない以上、事前に対策を講じる必要はあるでしょう。

4. これらのリスクを排除するためには、選手、監督及び審判等の試合の勝敗に関わるステークホルダーによるクラブトークンの保有・売買等を禁止することが確実といえます。
一方で、高額な給与を支払えない、規模の小さなクラブにおいて、選手等が自クラブのトークンを購入し、その価格の上昇をインセンティブに奮起するという側面があることも否定できません。クラブトークンには、ベンチャー企業におけるストックオプションに類似する役割があるかもしれません。
従いまして、選手等のステークホルダーによるクラブトークン保有を全面的に禁止することとはせずに、その売買が可能な時期をシーズンオフに限定する等の一定のルールを設けることが考えられます。
これらのルール作りに際しては、上場企業がインサイダー取引規制違反(金融商品取引法第166条)を未然に防止するために定めている、役員や従業員による自社株式の売買に関する内部者取引防止規程等を参考にすることが考えられます5

5. なお、現時点でも、選手がクラブトークン価格の変動を意図して、故意の敗退行為等を行った場合には、所属するスポーツ競技団体や、リーグ・クラブ等の規則に抵触する可能性もあります6。この点については、選手や関係者への教育や啓蒙活動も必要となるでしょう。
また、少し角度が変わりますが、ベッティング会社の株式を保有していたことを理由に、欧州サッカー連盟がACミランのイブラヒモビッチ選手に罰金約670万円を科したことが報道されました7。選手は自らが持つ資産との関係でも、諸規定との抵触に留意する必要があります。

1 https://www.coindesk.com/fc-barcelonas-token-sale-hit-1-3m-cap-in-under-2-hours
2 https://www.bellmare.co.jp/252058
3 https://financie.jp/
4 例えば、株式会社フィナンシェは、その利用規約(https://financie.jp/terms)において、「トークン」を「デジタルグッズ」であると定義し(同規約第1条第1項⑷)、「オーナートークンは、株式を含む有価証券、前払式支払手段、法定通貨または仮想通貨いずれでも」ない旨を規定しています(同規約第3条第11項)。これらの規約によれば、金融商品取引法や資金決済法の適用を受けないことを前提としているようです。なお、2020年5月1日より、改正資金決済法の施行に伴い「仮想通貨」の名称は「暗号資産」に変更されています。
5 例えば、内部者取引防止規程においては、「重要事実に接する蓋然性の高い役員等の会社関係者については,自社株式を売買するに当たり許可制あるいは事前届出制を採用し,また売買時期についても四半期決算期末に売買を制限したり,決算後の一定期間に限って売買を認めたりするものがある」旨指摘されておりますので、これらの規定を参考にすることが考えられます(『ストックオプションとインサイダー取引規制』82頁参照(証券経済研究第83号(2013.9)))。
6 一例ですが、サッカーであれば以下の規定に抵触する可能性があります(Jリーグ規約第89条第1項7号及び第2項5号、日本サッカー協会選手契約第3条7号など)。
7 https://www.soccer-king.jp/news/world/ita/20210527/1533339.html
 UEFA Disciplinary Regulations の第12条第2項(b) はインテグリティの侵害類型として" who participates directly or indirectly in betting or similar activities relating to competition matches or who has a direct or indirect financial interest in such activities”と定めておりますので、賭博会社と金銭的な利害関係を持つことは規則違反に当たることになります。

(2021年6月執筆)

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執筆者

高橋 駿たかはし しゅん

弁護士(シティユーワ法律事務所)

略歴・経歴

2016年 早稲田大学法学部卒業
2018年 早稲田大学法科大学院修了

専門分野は企業法務、金融法務、スポーツ法務など。

執筆記事として「バスケットボールが「スポーツくじ」の対象に「スポーツベッティング」はスポーツ界の救世主となるか」や「1ツイートが3億円!NFTは、結局何が魅力的で、何を取引しているのか」(ITmedia ビジネスオンライン、2021年)など。

その他経歴、肩書などは、https://www.city-yuwa.com/attorneys/ShunTakahashi.html参照。

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