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一般2026年09月02日 ワールドカップ問題にみるスポーツ団体のガバナンスの限界 執筆者:堀田裕二

 1 はじめに

本年(2026年)6月に開催されたワールドカップ北中米大会及びその後のFIFA(国際サッカー連盟)の対応を巡って、ジャンニ・インファンティノ会長の主導による独断的な決定や政治・商業的介入が問題となった。
具体的には、①政治的介入が疑われたレッドカード処分に対する執行猶予の適用問題、②興行・商業化の要請によるハーフタイムショーの延長・演出化、③商業権益の統合を目指した子会社の設立構想とそれに対する加盟団体の反発などが問題となった。
これらの問題は、国際スポーツ統括団体(IF)を含むスポーツ団体が政府や公的機関ではなく、あくまで私的団体であるということから、外部からの法的統制が及びにくく、ガバナンス不全に陥りやすいということの現れであるといえる。そこで、以下スポーツ団体における私的団体としての自律性とガバナンス不全の法的課題について敷衍する。

 2 FIFAの事例にみるガバナンス不全の態様

 (1) 規範運用の恣意性(レッドカード問題)
ワールドカップでのアメリカのバログン選手に対するレッドカード処分について、トランプ大統領による政治的な働きかけの直後にFIFA司法機関が「執行猶予」1を適用したとされる。この事例においては、競技における規則適用の客観性・公平性が問題となった。本来、司法機関の独立性は規程上担保されているはずであるが、政治的な介入により規律の裁量権がゆがめられた形となり、「法の支配(Rule of Law)」ではなく「人治」に陥る懸念を示している。
 (2) 商業主義の優先と競技規則の変更(ハーフタイムショー問題)
競技規則上15分間と定められた競技上のハーフタイム2 をエンターテインメント演出(ハーフタイムショー)のために延長させる動き3 や飲水タイムを3分間と設定したという動きは、商業的収益(放送権・スポンサーシップ)を競技の公平性や選手のコンディション維持よりも優先させる姿勢の現れであるとされた。本来、ステークホルダー(選手組合・加盟協会等)との協議を経て慎重に決定されるべきルールの変更が、トップダウンの商業戦略で推し進められている点が問題とされている。
 (3) 商業子会社設立問題と意思決定の非透明性
W杯等の商業権益を一元管理する目的で計画された子会社(FIFA Forward Enterprise等)の設立構想は、一部の加盟協会(UEFA等)から強烈な反対を受け、撤回や会長への不信任論議にまで発展した。組織の根幹をなす財産の移転や権限の集中を、不透明な協議で強行しようとした点において、ガバナンス不全が問題となった。

 3 法的ガバナンスが効きにくい構造的要因

一連の不祥事や独断的運用に対し、ガバナンスが働かない原因として、FIFAを含むスポーツ団体の私的団体としての性質とスポーツの自律性があげられる。
 (1) 私的団体としての限界
FIFAはスイス民法60条以下に基づく「非営利の社団」である。私的自治の原則に基づき、組織の内部規定や意思決定は原則として団体の自治に委ねられており、公的な裁判所や行政機関による裁判管轄・法的介入は極めて広範に制限されている。しかし、今やFIFAやIOCなどの団体は私的団体でありながら、一国の政府をも凌ぐ影響力を持つようになっている。国家権力の介入を排除する「団体の自律性」という盾が、団体のガバナンスに基づく自浄作用が働かなくなった際に、内部の権力肥大化を防ぐことができないという矛盾として問題となっている。
 (2) 競技団体の独占的立場とガバナンス
FIFAはサッカーの国際大会運営及び国際サッカー統治において事実上の支配的地位を有している。通常、私企業であれば市場の競合や株主代表訴訟、金融当局による開示命令などの「市場の監視機能」が働くが、FIFAには直接の株主が存在せず、直接の抑止力は加盟協会による総会での議決権行使などに限られる。さらに、1国1票制のもと発展途上国の協会に対する資金分配などを通じた票の取り込みが容易な構造のため、現職トップに対する内部からの自浄作用が働きにくいという問題も存在する。

 4 結語

一連の事例が示しているのは、国家の領域を超えた巨大な経済効果と社会的影響力を持つに至ったスポーツの国際統括団体が、あくまで私的な団体という法的枠組みのまま巨大化してしまったことによる問題点が顕在化したものである。ガバナンスを機能させるためには、法的には定款に基づく内部手続(臨時総会招集や不信任決議)以外に手立てが少ないのが現状である。今後は、欧州連合(EU)等の域内競争法(独占禁止法)による外部的なチェックや、選手やサポーターなどの多様なステークホルダーの意見を反映させる仕組み及びこれらを反映させたガバナンスコードによるガバナンス改革などがより一層求められることになろう。

1 FIFA懲戒規程第27条2項(司法機関による1年~4年の執行猶予を規程)、なお、同第66条では、レッドカードの場合自動的に出場停止になるとされる(Automatic Suspension)。
2 サッカー競技規則(Law of the Game25/26)第7条2項
3 FIFAは当初ハーフタイムを30分に変更するとしていたが、批判を受けて17分間(ハーフタイムショー11分、準備6分)とした。しかし結果的にハーフタイムの時間は27分24秒となったとされている。

(2026年8月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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