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都市・土地2026年10月27日 水害被害と被害回復の可能性 執筆者:日置雅晴

 近年は、地球温暖化の影響とも言われているが、過去に例を見ない集中豪雨や長雨が続いており、これまでの想定を超える水害や崖崩れが発生することが増えている。
 今年の夏も、多くの町で住宅の浸水や、車の水没、崖崩れによる家屋被害などが多発していることが報道されている。
 こういった水害などの被害について、被害を受けた場合に、法律上誰かの責任を問える可能性があるのかどうかは大変気になるところである。
 もちろん事案によって事情は様々であり、誰かの責任追及が可能か否かは個々の事案の事情を調べた上で考えることが重要ではあるが、水害などの事案に様々な立場で関わるときに、全体的な法的位置づけを把握しておくことは重要である。
 私が弁護士になったばかりの頃、すでに半世紀近く前になるが、地下駐車場の浸水事案をめぐる事件に関わったことがあった。当時は豪雨というと1時間雨量50mm程度と言われており、この程度の豪雨が数十年に1回程度発生する可能性があるので、排水設備の設計などについてもその程度の雨に耐える設計がされていれば過失はないと考えられていた。ところが昨今では時間雨量100mmを超えるケースが度々発生し、さらにはトータルで数百mmという事案も結構頻繁に報道されている。どの程度の降雨に備えるべきかという基準も、気候変動で大きく変わってきたと言うべきである。
 とはいえ、災害被害に遭ったとき、誰かの責任追及ができるかという視点から見ると、被害発生の状況で大きく責任追及の可否は変わってくる。
 まず一番責任追及できる可能性が高いのは、隣接する崖や擁壁の崩落に巻き込まれたような事案である。このような場合、崖や擁壁は法律上、土地の工作物(民法717条)に該当すると考えられる。この場合、土地工作物の占有者は一次的な責任者とされ過失責任とされるが、二次的責任者とされる所有者は無過失責任とされており、原則的に責任を負うこととなる。無過失責任の場合には、崖崩れが発生している以上、降水量が過去にないほどであったとしても、想定外で免責されるという主張は容易には認められないだろう。ただ、被害者として危険が想定される崖の近くであると知りつつ居住していた事情は責任割合で考慮される可能性はあるだろう。(崖所有者の不法行為責任を認めた判例 大阪地判昭和63年11月25日判決など)
 つぎに、地下の住戸や車庫などに浸水が発生したような場合には、建物の販売者や注文住宅の設計者の責任追及が考えられる。このような事案では、多くの場合、売買契約や設計契約が存在するので契約上の責任追及の可否として水害対策をどの程度考慮していたか、情報を開示していたかなどを考えることになる。また仲介業者が入っていた場合には、今は宅建業法上水害リスクを重要事項として告知する義務があるので、それとの関連が問題となる場合もある。様々なケースを詳細に分析することはできないが、いずれにしても、事前にどの程度の豪雨を想定していたか、という点は責任の有無に結びつく重要な要素となり得る。そして気候変動に伴いその考慮すべき水準は重くなってきたとみる余地がある。
 一番悩ましいのは、河川や湖沼などの溢水による大規模水害の場合に、河川管理を担う行政に対する責任追及の可否である。
 過去に河川水害が争われたいわゆる大東水害訴訟で、最高裁判決(昭和59年1月16日)は、河川管理の瑕疵の有無について、過去に発生した水害の規模、発生頻度、発生原因および被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無およびその程度、河川管理における財政的、技術的および社会的諸制約などを考慮して管理の瑕疵を判断するという考え方を示したが、他方で財政的な制約や本来危険性がある河川を改修して安全に改良してきたという経緯を踏まえて、未改修河川または改修が不十分な河川については、財政的・技術的・社会的諸制約のもとで一般に実施されてきた治水事業による改修・整備の過程に対応する、いわば「過渡的な安全性」をもって足りるとして、行政の責任を否定した。
 しかし、この最高裁判決は河川の溢水について、一切の行政責任を否定するものではない。その後、多摩川水害事件では、設置当時はともかく、その後の河川工学上の知見の拡大・防災技術の向上により、災害時の一般的技術水準からみて、計画高水流量の洪水に対して十分安全な構造とは評価できない状態となっていたとして行政の責任が認められている。(東京高判平成4年12月17日判決)
 鬼怒川の決壊による常総市などの水害被害を係争した鬼怒川水害訴訟では、被害発生の原因が異なる地区について一方は行政の責任を認め、他方は否定するという判断がなされている。(水戸地裁令和4年7月22日判決)
 このように、大規模水害の行政責任については、行政の責任が認められる余地はあるし、行政に求められる整備水準も時代とともに高度化していると考えられるが、他方で基準降水量を上げる場合、特に都市部などでは膨大な対策費がかかることにもなり、記録的な豪雨に伴う水害の場合の行政の責任追及はそう簡単ではないということができる。
 水害などの災害発生時に、誰に、どこまで法的な責任を追及できる可能性があるかは、事案ごとに分析をして考察する必要がある。しかし損害賠償が認められたとしても損害が100%填補されるとは限らないし、裁判には長い時間と労力がかかる。土地や家を購入する際には、改めてハザードマップなどを検討して安全な場所を選択するとともに、水害に備えた保険に加入するなどして、自衛することが重要である点に変わりはない。

(2026年10月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる

弁護士

略歴・経歴

略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授

著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)

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