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行政・財政2026年09月15日 行政財産の使用許可と住民訴訟 4 執筆者:髙松佑維

1.はじめに

前回までの記事では、財産の適正管理・利用の視点を踏まえながら、行政財産の使用対価等に関する請求や免除について争われた住民訴訟の事例を取り上げてきました。
今回は、普通財産の貸付に関する住民訴訟の事例になりますが、同じく財産の使用対価等が関係した一例を取り上げます。

2.事案の概要

自治体(市)が、市内住民で構成される自治会(本件自治会)との間で、指定用途を“集会所”とする条件で、市の普通財産である本件土地及び本件建物(合わせて本件土地建物)を無償で10年間貸し付ける契約(本件使用貸借契約)を締結しました。
本件自治会は本件土地建物を集会所として使用していましたが、上記契約期間の途中、本件土地上に自動販売機1台(本件自販機)を設置して飲料類の販売を開始するとともに、市有地の緑道(本件緑道)及び遊園(本件遊園)上に防犯カメラ合計3台(本件各防犯カメラ)を設置しました。
上記状況等に関し、市の住民である原告は、本件自治会が市の許可を得ないまま本件自販機及び本件各防犯カメラを設置しており、それに伴う損害賠償等や本件土地建物の明渡しの請求を市が怠っていたことは違法等として、住民監査請求を行いました。
上記の設置に関して市から指導を受けた本件自治会は本件各防犯カメラを全て撤去したものの、災害時の飲料確保等の目的で設置した等として本件自販機を撤去しませんでした。
市監査委員は原告の上記監査請求に対して理由がない旨の判断をしたため、原告は市長を被告とした住民訴訟を提起しました。
原告は上記住民訴訟の中で、《1》「“市長が本件自治会に対して本件土地建物の明渡請求を怠ること”が違法であること」の確認を求める請求(地方自治法第242条の2第1項3号)、《2》「市長が本件自治会に対して各損害金(①本件土地建物の賃料相当損害金、②許可なく本件自販機を設置したことによる貸付料相当損害金、③許可なく本件各防犯カメラを設置したことに伴う都市公園法及び市の都市公園条例違反による使用料相当損害金)を請求すること」を求める請求(同項4号)を行いました。

3.裁判所の判断と事案検討の際のポイント

(1)  上記住民訴訟では、最終的に住民側の請求の一部(上記《2》の②の一部分)を認める判決が下されました(大阪高裁令和7年9月18日判決)。
(2)  裁判所は、まず《1》に関して、市が本件使用貸借契約の解除権を有していることを前提に、「財産の管理」(同法第149条柱書及び同条6号)に属する行為として“当該解除権の行使及び返還請求をしなかったこと”が市長の財産管理上の裁量権の逸脱濫用にあたるかを検討しました。
検討の際、裁判所は“対象財産の性質や従前の経緯”として、集会所が自治会活動の拠点や地域住民の活動等に用いられる施設で、明渡しとなると自治会や地域住民らの活動交流の場が失われ相応の不利益を与えること、市が本件自治会に対して自販機撤去に関する口頭指導や文書通知を繰り返し行っていたこと等に着目し、市が契約解除等に慎重になったこともやむを得ず、最終的に第一審判決前に本件自販機が撤去されたこと、設置行為が直ちに本件土地建物の財産的価値を毀損するものとはいえないこと等も踏まえ、市が直ちに契約解除及び明渡しを求めず、本件自治会に対し契約解除の警告を発しつつ、本件自販機の任意撤去に向けた粘り強い指導や働きかけを行ったことには相応の合理性があるとして、財産管理上の裁量権逸脱濫用とはいえず、適法と判断しました。
(3)  次に《2》①に関して、本件使用貸借契約は解除されておらず(そのことは適法であり)本件自治会には無償の占有権原があったことから、賃料相当損害金の請求権は発生していないとして原告の主張を斥けました。
また、《2》③については、本件緑道及び本件遊園は都市公園としての公告がされておらず都市公園法上の「都市公園」に該当しないこと、本件各防犯カメラの設置態様(本件緑道等のポールに取り付けられ、ポールの財産的価値の毀損やポール使用が妨げられた事情は認められないこと)、カメラ稼働時の電気料金について市が相当額を本件自治会に請求し支払を受けていること、本件自治会が防犯目的で設置した旨説明していたこと等から、本件各防犯カメラに関する使用料相当損害金の発生は認められないとして原告の主張を斥けました。
加えて、カメラ設置によって市に何らかの損害が発生していたとしてもその額はごくわずかで、地方自治法施行令171条の5第3号(債権金額が少額で取立費用に満たないときの徴収停止)に該当し得るため、市が請求しなかったとしても違法とはいえないとしました。
(4)  一方で、《2》②に関して、指定用途が集会所で第三者転貸も禁止という部分に着目し、本件自販機設置により収益をあげることは指定用途に明確に違反し、メーカー設置の場合は転貸禁止違反かつ第三者による不法占拠に当たるとして、市は本件自治会に対して債務不履行に基づく損害賠償請求が可能としました。
その上で、市が行政財産の余裕部分について自販機設置場所として第三者へ使用させていることや、市の行政財産使用料条例、一般競争入札による自販機の年間使用料額を参考に、本件自販機についても貸付実績の少なくとも2分の1の賃料額で貸与可能だったと認められ、市は同額(18万円)の収入を得られずその分が損害に該当するため、市は本件自治会に対して同額の損害賠償請求を行うべき義務を負っているとしました。
なお、本件自治会には指定用途に反する用途の占有権原は認められず、用途を集会所に限定した上で無償使用を認めた本件使用貸借契約の趣旨に鑑みれば、用途違反の範囲が小さいことをもって損害賠償責任を免れることはできず、上記のとおり本件で明渡しについて慎重になったとしても不合理とはいえないものの、本件自販機による年間収益(10万円程度)も踏まえると契約を解除しないことが損害賠償請求をしないことの根拠になるわけでもないとしました。
(5)  上記事例においても“対象財産の性質や従前の経緯”等が着目され、財産の貸付契約の内容や目的といった諸事情も考慮要素となっています。
明渡請求の不履行は違法ではないものの損害賠償請求の不履行は違法となったように、財産管理者である行政は、対象請求行為の性質や諸事情を踏まえ、適正管理の視点を持って各場面で適切な判断を行う必要があり、財産使用の損害額算定の場面では“使用許可時の使用料算定額”が参考にされる場合もあり得るという観点も意識しておく方が無難と考えられます。
いずれにしても、行政の財産を他者が使用する場面では使用料が財産使用対価となるため、その使用料を免除または無償とする場合には相応の合理性等が必要という基本的視点を忘れずに持っておくとよいでしょう。

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

(2026年8月執筆)

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執筆者

髙松 佑維たかまつ ゆうい

弁護士

略歴・経歴

早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所

大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。

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