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金融・証券2019年09月25日 「中小企業金融円滑化法」の実質終了に伴う企業処理の行方(2) 帝国データバンク情報部長 中森貴和が企業情報を斬る! 執筆者:中森貴和

 企業倒産はリーマン・ショック以降、長らく減少傾向を辿ってきたが、実はこれまで経営者があきらめない限り、企業はなかなか潰れなかった。これは景気や業績の回復もあるが、何といっても借入金の返済猶予など金融機関の手厚い支援に尽きる。金融機関は債務超過でもリスケを継続、取引先も共倒れを恐れて支払いが遅れても取引を打ち切らず、手形も切らない。これでは滅多に潰れるものではない。そうした意味では倒産は自律的な要因で「減少」を続けてきたというより、「抑制」されてきたとみるべきだろう。

 ところが、昨年あたりから「将来性が見込めない」「後継者がいない」などの理由から事業の継続をあきらめる中小経営者が徐々に顕在化し始める。減少トレンドが続いてきた倒産件数は低水準ながらもすでに底を打ち、明らかに潮目は変わってきた。
 こうしたタイミングでの金融庁への報告義務が廃止された今回の金融円滑化法の実質終了はかなりのインパクトを持つ。折しも景気がリセッション局面を迎えようとしている時期だけになおさらだ。本来であれば、金融庁の縛りが解かれた金融機関は不良債権の処理に踏み切り、数万社規模の中小企業が倒産や廃業の引導を渡されることになる。

 それでは一気に倒産予備軍の処理が加速するのかといえば、残念ながらいまの金融機関にその余力はない。なかでも、リスケ企業処理のキーパーソンである地銀・第2地銀・信用金庫・信用組合の地域金融機関は、地方経済の疲弊やマイナス金利政策によっビジネスモデル自体が崩れようとしている。上場の地銀でも7割が最終減益を強いられ、2028年には約6割が最終赤字に転落するという日本銀行の試算もあり、ましてや信金や信組の厳しさは言うに及ばず、とても一気に貸倒引当金を積み増す体力はない。
 さらに、地域金融機関は営業エリアが限られるなかで「不振企業の処理は融資先の激減につながり、自らの首を絞める」(第2地銀幹部)というジレンマを抱える。結局、自らの体力の範囲内で時間をかけて処理するしか手立ては見当たらず、断続的な中堅クラスの倒産はあっても、短期集中的な中小企業の“倒産ラッシュ”が起こる可能性は小さいとみるべきだろう。

 金融円滑化法の終了は、金融機関の支援スタンスにも変化をもたらしている。2013年3月末の円滑化法終了後、金融庁はリスケ先が実現可能性の高い抜本的な経営再建計画(実抜計画)を提出すれば「貸出条件緩和債権」から除外され、債務者区分は「要管理先」以下にはならないとする激変緩和措置を講じた。
 しかし、メガバンクや大手地銀など体力のある金融機関は円滑化法の出口を見据えていち早く処理に着手。実抜計画を厳格化し、再生が見込めないと判断したリスケ先債権をサービサーへの売却等によって、徐々にオフバランス化してきた。
 一方で、体力に乏しい地域金融機関は実質的に「破綻懸念先」債権であっても返済猶予を継続、最終処理を先送りせざるを得なかった、その結果、規模や体力、地域など金融機関によって対応にバラツキが生じており、これも融資先企業の短期集中的な処理が回避される根拠である。
 融資金融機関の間の信用収縮も顕在化している。例えば、リスケ先企業の支援継続を巡るバンクミーティングでは金融機関によって支援スタンスが異なり、なかなか合意形成に至らない事例も目立つ。シンジケート・ローン(協調融資)の組成や更新の場面でも同様の現象が起きている。金融機関が互いに牽制し合う、ある種の信用収縮が生じているわけだ。その結果、支援体制が崩れて法的整理へ移行せざるを得なくなるケースも想定される。

 前述の通り、リスケ先企業の処理は総体として緩やかに進むとみられるが、見逃せないのがその処理過程で地域金融機関の優勝劣敗が鮮明となり、救済合併など再編が加速することである。政府が成長戦略を議論する「未来投資会議」で地域活性化のために地銀を10年間で集中的に再編する方針を盛り込んだことも再編を後押しする。
 融資先の減少や将来的な営業エリアの縮小によるオーバーバンキングという構造的な問題を抱える地域金融機関は、マイナス金利政策の副作用が問題をより深刻化させている。今後はリスケ企業の処理に伴って体力はさらに消耗していく。そうなれば、多くの地域金融機関は再編による規模拡大を求めるしかなく、今回の金融円滑化法の実質終了がその最終淘汰のトリガーを引く可能性は否定できない。

 いずれにしても、当面は大きな混乱はないとみられるものの、金融機関の融資先に対する与信スタンスは確実に正常化していく。今後は全国の中小零細企業は倒産や廃業によって緩やかながらもかつてない淘汰の波に晒されることになり、さらに地域金融機関再編を後押しするなど、今回の金融円滑化法の実質終了は各方面に様々な影響を与えることになりそうだ。

(2019年9月執筆)

執筆者

中森 貴和なかもり たかかず

株式会社帝国データバンク 名古屋支店情報部長

略歴・経歴

これまでに、「危ない会社の見分け方」「最近の倒産動向と今後の見通し」「粉飾決算の見分け方」「中小企業金融円滑化法の出口戦略」などの与信管理系セミナーのほか、「ゼネコン業界の現状と見通し」「金融再編の行方とその影響」「新興ベンチャーの経営リスク」などの業界セミナー、「企業の成長の条件」など経営者向けセミナーなど数多くの実績を有する。

職歴・経歴
1959年 東京都生まれ
1981年 専修大学経済学部卒業後、新聞社に就職
1985年 帝国データバンク本社情報部に入社
     同部署で情報取材課課長補佐、同課長を歴任
2009年 名古屋支店情報部長に就任、現在に至る。

セミナー実績
・「中小企業金融円滑化法の出口戦略」
・「粉飾決算の見分け方」など多数

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