カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

人事労務2019年10月28日 ワーク・ライフ・バランスの推進って具体的にどんなことをすればいい? 女性社員の労務相談 執筆者:里内友貴子(弁護士)

Q ワーク・ライフ・バランスを推進していきたいと考えていますが、何から始めていけばいいのでしょうか。

A 現在の働き方を確認する→業務の課題を抽出する→働き方の見直しを協議する→見直し施策の実施を行うというサイクルをチームで回していくことが基本となります。

解 説

1 ワーク・ライフ・バランスとは

働く全ての方々が、「仕事」と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった「仕事以外の生活」との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方のことです。ゆとりをもってほどほどに働くことや、単に仕事と生活に割く時間を半々にする等という意味ではありません。
働く全ての方々が、働き方を見直し、短い時間で生産性高く働くことによって、仕事以外の生活の時間を確保します。それにより、休息の時間を確保でき、心身共に健康な状態になるだけでなく、人脈や自己研鑽による学びの機会を得ることにもつながり、より意識高く、より生産的に仕事に臨むことができるようになる好循環が生まれます。
労働契約を締結し又は変更する場合には、仕事と生活の調和に配慮すべきものとする「仕事と生活の調和への配慮の原則」が規定されています(労契3③)。
「仕事」と「仕事以外の生活」の両立支援には、全ての社員について、労働時間短縮に向けた働き方の見直しが必要となります。

2 ワーク・ライフ・バランスを推進する対象

ワーク・ライフ・バランスの取組を進める際、職場全体の働き方を見直さず、育児や介護等の負担があり家族の時間のために仕事の時間に制約がある社員を優遇する施策だけを進める会社もあります。例えば、そういう社員だけに軽業務を振り分けることなどです。
しかし、そのような施策だけでは、会社内で家庭の事情のある人と家庭の事情のない人との対立構造を作ってしまい、チームワークに支障を来します。また、軽業務ばかり割り振られる育児・介護中の社員のモチベーションの低下も招くことになり、割切型社員やぶら下がり型社員が出てきかねません。何より、育児や介護等の負担のない人にどんどん重要な業務が集中するということになりますが、今後育児や介護等の負担のない人材はどんどん減っていきますから、早晩重要な業務が停滞することとなり、業績が落ちていくことになります。
そもそも育児や介護等の負担はなくとも、どんな社員にもリフレッシュや自己研鑽等ライフを充実させる必要があり、それこそが会社の商品・サービス等の付加価値を創造し続けることのできる源泉となるものです。そういう意味でライフをおざなりにしていい社員はいません。
ですから、ワーク・ライフ・バランスを推進するにあたっての対象は全社員として、全社員が当事者意識をもってお互い様の精神で、各々が重要業務に貢献できるよう取り組んでいくことが肝要です。

3 ワーク・ライフ・バランスの実践

「現在の働き方を確認する」→「業務の課題を抽出する」→「働き方の見直しを協議する」→「見直し施策を実施する」というサイクルを何度も回していくことが基本となります。特効薬はなく、地道に日々取り組み続ける必要があります。また万能薬もなく、100社あれば100通りのやり方が出てきます。しかしながら、決して取り組み不可能な職場はありません。
各社員が、限られた就業時間内にきっちりと成果を出せるようにするため、まずは「現在の働き方を確認する」が一歩目です。自身及びチーム一人一人が毎日のスケジュールの予実管理をして、自社における長時間労働是正のための課題を洗い出した後、それに合う効果的な施策を検討することとなります。
スケジュールの予実管理の具体的なやり方としては、各自出勤したら、退勤までの一日の仕事の計画を作成し、それをチーム内で共有することです。この時のポイントは、業務とそれにかける時間はセットで書き出すこと、かける時間の単位は15分〜30分に細分化して記載することです。そして、退勤時、見込み時間と実際にかかった時間の差を記録します。
これを一定期間続けていくことで、優先順位の誤りが明らかになったり、所要時間の予測違いが明らかになったり、ワークフローの制定のきっかけが見つかったり、チーム共通の課題が見えてくることでしょう。長時間労働の原因となっているもののうち、自らコントロールのできる内的要因をあぶり出し、「業務の課題を抽出」します。その上で、自社の課題の実態に合った「働き方の見直しを協議」し、協議で決めた「見直し施策を実施」していきます。
このサイクルを実施するにあたっては、トップがワーク・ライフ・バランスに本気で取り組むことを発信し続けること、併せて、各社員への実践のインセンティブとして社内の評価基準を時間あたりの生産性に変更することが重要です。

専門家のアドバイス

内閣府ホームページの「仕事と生活の調和の実現に向けて」には、企業事例が掲載されており、参考になるものもあるでしょう。
しかし、各社企業理念や風土、企業規模や構成メンバー、取扱業務もそれぞれ違い、自ずとその直面する課題も違ってくることから、ワーク・ライフ・バランスの有効な取組施策は様々です。他社で有効だった施策をそのまま適用しても、やはり自社社員の実際のニーズに沿うものでなければ、押しつけになってしまって、場合によっては弊害になることもあり得ますので、注意が必要です。

記事の元となった書籍

関連商品

執筆者

里内 友貴子さとうち ゆきこ

弁護士(里内法律事務所)

略歴・経歴

◯経歴
大阪大学法学部、京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻を経て、
平成20年 京都弁護士会登録、弁護士法人白浜法律事務所入所・勤務
平成28年 里内法律事務所開所
令和2年  京都家庭裁判所家事調停官就任

[著 作]
『女性活躍推進法・改正育児介護休業法対応 女性社員の労務相談ハンドブック』(共著)(新日本法規出版、2017)
『裁判例・指針から読み解く ハラスメント該当性の判断』(共著)(新日本法規出版、2021)

執筆者の記事

この記事に関連するキーワード

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索