企業法務2017年06月26日 働き方改革は売上を犠牲にする? 発刊によせて執筆者より 執筆者:山口寛志
6月に入り、大企業の採用選考が解禁され、複数社から内定を受け取る学生も出始めました。民間の大手就職情報サイト運営のマイナビの調査によると、2018年卒の学生の就職観の1位は、前年までと同様「楽しく働きたい(29.7%)」となっています。2位は、「個人の生活と仕事を両立させたい(26.2%)」で、2013年卒調査から5年連続で増加傾向にあります。特に理系女子では「楽しく働きたい」を抜き初めて1位になりました。就職を希望する学生の中でも、仕事と私生活の両立を図れる働き方を希望する傾向にあるといえるでしょう。
その働き方について、政府は今年の3月に、長時間労働の是正等を通じたワークライフバランスの実現、同一労働同一賃金などの非正規雇用の処遇改善、兼業・副業やテレワーク等を通じた柔軟な働き方がしやすい環境整備等をテーマに掲げ、働き方改革実行計画をまとめました。
今後の労働法制度の改正もにらみ、多くの企業は自社における働き方の見直しに着手しています。私は社会保険労務士として、企業を人事労務の面からサポートする仕事をしていますが、去年くらいから、企業の間で明らかに労務管理のプライオリティが高まっていることを実感します。労働時間管理、休日・休暇制度等、就労に関するルールの見直しをしたいという依頼が増えていますが、法規制だからしようがなく、というスタンスではなく、いかに社員のモチベーションを高め定着につなげられるか、採用に良い影響を与えることができるか、という人材確保への危機感も背景にあると思われます。
こうした労務管理への意識の高まりは様々な業種に及んでいます。今ちょうど相談を受けている企業の中に、芸能プロダクションとCM制作会社があります。いずれも、今までワークライフバランスとは対極にあるような働き方をしていた会社です。前者の芸能プロダクションでは、マネージャー職の社員が担当するタレントのテレビ番組の収録に一晩中付き合ったり、CM制作会社では、撮影が重なり、ディレクター職の社員はここ1ヶ月休みを取っていないといった状況もみられました。
この芸能プロダクションの社長と先日打合せを行った際、「この働き方改革というのは、売上を減らしてでも、働く時間を短くするということなのか」との質問(嘆き?)がありました。このような感覚はこの会社の経営者に限ったことではないかもしれません。しかし、売上を減らして、その結果給与が減ったり、雇用が縮小してしまったりしては、被害を被るのは労働者であり、本末転倒です。これを機に、業務遂行におけるムダを省き、より効率よく健康に仕事をし、今まで以上に優れた商品やサービスを提供して事業を成長させるという意識改革が経営者、社員ともに必要となっているように思われます。
もう一方のCM制作会社では、先日社員全員を対象に就業規則説明会を開催しました。私の方で労働時間の記録・管理や残業・休日労働の許可申請、振替休日のルール等を整備し、社員の皆さんへ内容を説明しました。
その後に制作部門のトップの方より、会社の働き方改革の方針が発表されました。まず、冒頭に、このタイミングを改善の絶好の機会ととらえ、よりよい働き方・休み方を実現し、心身ともに健康を重視した健全な制作活動を行える環境づくりを目指すことが伝えられました。そのうえで、様々な場面での出退勤時間の具体的な記録方法、終業時間の上限設定、社内打合せを朝に実施すること、深夜作業になった場合のインターバル時間の確保、受注時の無理のないスケジューリング、作業の分業化等、1つ1つの業務に落とし込んで、具体的な実行策が出されました。社員の皆さんも少しずつ改善していこうという一体感が生まれたような気がしました。
いずれにしても、こうした自社の労務管理を見直し、働き方を改革するには、就業ルールをテクニカルに決めるだけではなく、長時間労働等で働き方のバランスが崩れている構造的な問題は何か、ということを突き詰めて考え、全社的に意思統一を図りながら進めていくことが大切であると思います。
(2017年6月執筆)
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