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人事労務2019年11月26日 セクハラ行為により精神疾患を発症したら労災認定される? 女性社員の労務相談 執筆者:山浦美紀(弁護士)

Q 当社の女性社員Aが、男性上司から、半年間にわたり、仕事中に、オフィスですれ違うたびに、挨拶代わりに、腰付近を触られるという被害に遭っていることがわかりました。女性社員Aは、「毎日毎日、嫌だったが、職場の雰囲気が悪くなるのを避けるため抗議できなかった。」と言っています。拒食や不眠の症状が現れ、精神科に行ったところ、「うつ病」との診断を受け、休職しました。この女性社員Aから、労災申請がなされましたが、認められるのでしょうか。

A セクハラが原因となり、精神疾患を発症した場合には、労災保険の対象となります。「うつ病」は、労災認定基準の対象となる精神障害です。上司から、半年間にわたり、継続的に身体的な接触を伴うセクハラを受け、心理的負荷が強いものと評価されます。業務以外の心理的負荷や個体的要因において顕著なものがなければ、労災認定されます。

解 説

1 精神障害の労災認定要件

厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平23・12・26基発1226第1)(以下「認定基準」といいます。)を定めています。認定基準では、以下の要件を満たす場合、業務上災害として、労災認定されます。
① 認定基準の対象となる精神障害を発症していること
② 精神障害の発病前おおむね6か月以内に、「業務による強い心理的負荷」が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体的要因により精神障害を発病したとは認められないこと
「うつ病」や「適応障害」については、①の「認定基準の対象となる精神障害」に該当します。
ハラスメント行為の内容や程度が、具体的に問題となるのは、②の「業務による強い心理的負荷」の認定の際です。なお、③「業務以外の心理的負荷や個体的要因」とは、私的な出来事(離婚、別居、借金等)や精神障害の既往歴のことをいいます。

2 セクハラ行為による心理的負荷の評価(上記②の評価)

セクハラの場合については、その内容や程度により、女性社員に対してどの程度の心理的負荷(「強」、「中」、「弱」の3段階)があったかが、認定基準に具体的に例示されています。
例えば、「強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラ行為」を受けた場合は、それだけで、「特別な出来事」があったと判断され、心理的負荷は、「強」と評価されます。
また、心理的負荷が、「中」と評価される場合であっても、出来事の前後に長時間労働が認められる場合やセクハラ以外の出来事が複数生じた場合には、総合評価が「強」となるということもあります。
本問の女性社員Aのように、腰などへの身体的接触を含むセクハラ行為が継続的に行われた場合は、心理的負荷は、「強」と評価されます。
そして、心理的負荷が、「強」と評価された場合、業務以外の心理的負荷や個体的要因により精神障害を発病したとは認められないのであれば、労災認定がなされます。

専門家のアドバイス

1 迅速な対応で心理的負荷を軽減

認定基準では、身体的接触を含むセクハラ行為があっても、継続しておらず、会社が適切・迅速に対応し、発病前に解決した場合には、心理的負荷は「中」と評価されています。つまり、心理的負荷の評価にあたっては、セクハラ行為について、会社に相談して、会社が適切かつ迅速な対応をしたか否かが基準指標に用いられているのです。
不幸にも、セクハラ行為が発生してしまった場合であっても、その後、セクハラ行為が解消されるように、適時・適切に相談に乗り、人員配置を変更したりするといった事後対応により、女性社員に対し心理的負荷が軽減される結果をもたらします。したがって、会社が適切・迅速な被害軽減・回復に努めることが重要です。

2 身体的接触がない性的な発言だけの場合も

身体的接触のない性的な発言のみのセクハラであっても、「発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた場合」には、心理的負荷は、「強」と判断されます。
近時、セクハラ行為による懲戒処分の有効性が争われ、最高裁判所が高等裁判所の判断を覆したL館事件(最判平27・2・26判時2253・107)では、判決書の別紙において、「30歳は、22、3歳の子から見たら、おばさんやで。」といったセクハラ発言が具体的に認定されています。このような人格否定発言が継続した場合には、心理的負荷は「強」と判断されてしかるべきでしょう。

コラム

「〜ちゃん」付けで、心理的負荷?

上司が気に入った女性社員にだけ、「〜ちゃん」と呼ぶことは、セクハラにあたるのでしょうか。厚生労働省のセクハラによる精神障害が労災かどうかを認定する基準(認定基準)には、「『○○ちゃん』等のセクシュアルハラスメントに当たる発言をされた場合」が、心理的負荷が「弱」と評価される具体例に挙げられています。
なぜ、これがセクハラ発言なのでしょうか。そのくらいの呼称、許容されてよいではないか。そう感じる人が多い世の中では、まだまだセクハラはなくならないと思います。
「〜ちゃん」と呼ばれている女性社員があからさまに嫌がっていないとしても、他の女性社員からは、「あの子だけ『ちゃん』付けで呼ばれて『えこひいき』されている。かわいい子はいいわね。」と噂されれば、「〜ちゃん」付けされた女性社員が肩身の狭い思いをし、呼ばれることが負担になっているとも考えらます。
やはり、女性も対等な労働者なのですから、きちんと、男性社員と同じように呼び、職場内でのケジメをつけるという意味でも、呼称に差を設けることは好ましくないでしょう。

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執筆者

山浦 美紀やまうら みき

弁護士

略歴

◯経歴 平成12年 大阪大学法学部卒業 平成13年 旧司法試験合格 平成14年 大阪大学大学院法学研究科修士課程修了(法学修士) 平成15年 司法修習修了(第56期司法修習生)       弁護士登録(大阪弁護士会) 現在    鳩谷・別城・山浦法律事務所パートナー弁護士 ◯公職等 平成21年~現在    大阪大学法学部非常勤講師 平成24年~平成28年 大阪地方裁判所民事調停官(非常勤裁判官) 平成26年4月~現在  大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師 ◯業務概要 使用者側労働法務に特化した大阪有数の法律事務所のパートナー弁護士。労使紛争に関する訴訟や交渉を手がけながら、多数の企業において、労務に関する研修講師をこなす。経営法曹会議会員。著書に「有期契約労働者の無期転換ルール」(新日本法規出版H29.11)ほか。

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