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人事労務2020年01月29日 女性社員優遇は男女逆差別になる? 女性社員の労務相談 執筆者:里内友貴子(弁護士)

Q 我が社では、現在課長以上の管理職は男性が大半を占めています。管理職における女性比率を高めるため、女性を優先して登用してもいいでしょうか。

A 現過去の女性社員に対する取扱いなどが原因で生じている男女労働者の間の事実上の格差を解消する目的で行う「女性のみを対象にした取組」や「女性を有利に取り扱う取組」についての措置であれば、法的な問題はありません。

解 説

1 ポジティブ・アクション

ポジティブ・アクションとは、固定的な性別による男女の役割分担意識や過去の経緯から、格差が男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消しようと、個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組をいいます。
男女雇用機会均等法5条、6条は、募集・採用・配置・昇進・降格・教育訓練等について性別を理由とする差別を禁止し、同法7条も一定の間接差別を禁止していますが、その例外として、男女の均等な機会と待遇を実質的に確保するために同法8条ではポジティブ・アクションを規定、さらに同法14条では、ポジティブ・アクション促進のため、国が事業主に対して相談、援助等を行うことができると規定しています。

2 許容されるポジティブ・アクション

「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示614号)の第2 14(1)において、募集・採用、配置、昇進、教育訓練、職種や雇用形態の変更などさまざまな場面における男女雇用機会均等法8条の特例措置を定めています。
例えば、「一の雇用管理区分における女性社員が男性社員と比較して相当程度少ない役職への昇進にあたって、当該昇進のための試験の受験を女性社員のみに奨励すること、当該昇進の基準を満たす労働者の中から男性社員より女性社員を優先して昇進させることその他男性社員と比較して女性社員に有利な取扱いをすること」もポジティブ・アクションとして許容されます。
また、男女雇用機会均等法8条の特例措置においては、女性が「相当程度少ない」ことが要件になるところ、男女雇用機会均等法の通達(平18・10・11雇児発1011002 第2 3(6))では、「我が国における全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていること」、「4割を下回っているか否かについては、募集・採用は雇用管理区分又は役職ごとに、配置は一の雇用管理区分における職務ごとに、昇進は一の雇用管理区分における役職ごとに、教育訓練は一の雇用管理区分における職務又は役職ごとに、職種の変更は一の雇用管理区分における職種ごとに、雇用形態の変更は一の雇用管理区分における雇用形態ごとに、判断するものであること」としています。
例えば、管理職に占める女性割合が、それぞれ係長で50%、課長で35%、部長で10%という状況の場合、女性割合が4割を下回る課長と部長の募集・採用において、女性のみを対象とすることが可能です。

専門家のアドバイス

女性を優先して登用するといっても、社内で定められている登用の基準や要件を逸脱すれば、男性社員からの不満が出てくるでしょう。登用候補の女性に対し、管理職に必要な業務経験を積ませたり、社内外の研修を受講させたりして、育成の機会を十分与え、管理職としての能力を伴わせることが肝要です。そのための優遇措置については、男女格差の解消として女性社員に必要であることについて、全社員の理解を得ましょう。このようなプロセスを経ずに、数合わせのために管理職登用をしても、うまくいかず、「やはり女性には管理職は難しい」という逆の評価を招くおそれがあります。
他方、女性社員自身が管理職になりたがらないこともあります。より高度な仕事をしたいと思っているにもかかわらず、他の女性社員から孤立する不安や、家庭との両立に不安があるから等、管理職の仕事内容とは異なる理由で辞退することも多いようです。その場合は、会社側で、女性管理職が孤立しないためのサポート体制やネットワークを構築したり、残業の削減や有給休暇の取得を促進したりするなどして女性社員の不安を取り除き、仕事に対する意欲を引き出す工夫が有効です。また、厚生労働省のホームページのポジティブ・アクション応援サイトにある企業の取組事例等が参考になります。

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執筆者

里内 友貴子さとうち ゆきこ

弁護士(里内法律事務所)

略歴・経歴

◯経歴
大阪大学法学部、京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻を経て、
平成20年 京都弁護士会登録、弁護士法人白浜法律事務所入所・勤務
平成28年 里内法律事務所開所
令和2年  京都家庭裁判所家事調停官就任

[著 作]
『女性活躍推進法・改正育児介護休業法対応 女性社員の労務相談ハンドブック』(共著)(新日本法規出版、2017)
『裁判例・指針から読み解く ハラスメント該当性の判断』(共著)(新日本法規出版、2021)

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