労働基準2025年04月30日 「侍タイムスリッパー」から学ぶ人の管理について 執筆者:大神令子

今回は、いつもと違って法令とは関係のないお話になります。
皆様は、「侍タイムスリッパー」という映画を御存知でしょうか。製作費2600万円の自主制作(インディーズ)映画で、たった1館から上映が始まったのに口コミで瞬く間に370館を超える映画館が上映し、数多の賞を受賞した上に日本アカデミー賞最優秀作品賞までも受賞し、封切りから8カ月近く経つのにロングランで上映され続け、10億円を超える興行収入を売り上げている大ヒット映画です。
筆者はこの映画を2024年の秋から何度か観ており、何かが「普通の映画」とは違う、とても不思議な映画だと思ったのです。この稿は映画そのもののレビューでも、映画が大ヒットしたことへの分析でもありません。この映画を観た他、映画にまつわる様々なお話を見聞きするうちに「これは経営や労務管理にも転用できるのではないか?」と思ったことを書き記したいと思います。
この映画の一番根本には福本清三さんという斬られ役の俳優さんの存在があります。安田監督が、福本さんが出演される映画を作りたいと思われたことが始まりでした。そして、「侍タイムスリッパー」の脚本を福本さんに渡され、出演のオファーをされたというところから話は始まります。
残念ながら福本さんは映画撮影に入る前にお亡くなりになられたのですが、福本さんが「面白い脚本だ」と東映京都撮影所のプロデューサーに脚本を渡され、その方も「この脚本は面白い」と判断され、そのため自主制作にも関わらず東映の全面的なバックアップを受けられることとなりました。結果、通常ならチープになりがちな自主制作映画が一般の商業映画に引けを取らない素晴らしい出来栄えとなったのでした。
そして、主演された山口馬木也さんはじめキャストの皆様も「この脚本は面白い。是非やりたい」と非常に乗り気になられ、素晴らしい演技をされることになりました。
まず、ココです。
基礎が素晴らしいものであれば、多くの人々を巻き込み動かし、良い商品・サービスを作ることができるというセミナー等で良く言われる話が現実のものとなっています。これは企業で言えば、経営理念、そしてその理念を具現化した就業規則が素晴らしいものであれば、多くの人を引き付けることができるということと通じるのではないかと思います。
ここで、「就業規則」という言葉が出てきたことに驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。実は、就業規則はその企業がどのように従業員を働かせたいのか?ということを具体的に表現した文書なのです。当然に、その企業の社風も表されているもののはずです。つまり、基礎となるテキストが素晴らしいということは、企業においては就業規則が素晴らしいということになります。多くの人から見て「素晴らしい」と思える就業規則に基づいて運営されている企業なら、多くの方々が魅力的だと思うのではないでしょうか。
次に、筆者がこの映画を「不思議な映画だ」と思ったのはどういうことなのか?についてです。
観た方はわかられると思いますが、この映画はとても居心地の良い映画なのです。よく言われるように「悪役が出て来ず、どの役も善人であること。その置かれた場所で、一所懸命に生きている人たちの群像劇であること」というこの映画の企画の部分が大きいように思います。しかし、それだけではなく、この映画に関わるスタッフ・キャストの方々が、この映画をなんとしても作り上げたい、世に出したい…と思った気持ちが、この映画の根本的な「居心地の良さ」になっているのではないかと思います。
関わった人達が積極的に事業を推し進め、より良いものに仕上げていくというこの状況は、労働の現場にこそ導入したいものだと思いました。映画のスタッフ・キャストというのは企業で言えば従業員に当たるでしょう。従業員が「この会社、この仕事は素晴らしい。その結果である商品・サービスをなんとしても世に出し広めたい」と思うのなら、その企業は間違いなく大きく発展するでしょうし、その具体例がこの映画の快進撃です。
では、なぜ「なんとしても作り上げたい、世に出したい」と思う事態になったのでしょうか。
一つ、わかりやすいところで言えば、食事が良かったということがあります。安田監督はロケ弁と言われるお弁当を一定レベル以上のものに維持されたそうです。これは企業で言えば充実した労働環境の整備であり良い福利厚生でしょう。やはり、快く働ける場を提供することは従業員のモチベーションに大きく関わると思いますし、良い結果を導き出す大きなポイントだろうと思います。
そして重要なことは、リーダーである安田監督の熱量ではないかと思います。私財を投げ打ち一人で何役もこなそうとする監督の熱意が多くの方々を動かしたというところは間違いなくあると思います。やはりこれは、企業のリーダーである社長(経営陣)が持っていなければならないものではないかと思います。多くの場合、従業員は社長とは他人です。その他人の従業員に、社長に付いて行き企業を盛り立てようと思ってもらうには、まず社長の熱意こそ必要でしょう。
そして、その熱意がハラスメントにならない微妙な匙加減も必要ではないかと思います。単に熱いだけでは多くの方々は離れていきます。おそらくですが、安田監督は羽柴秀吉並みに人たらしの方なのではないか?とも思いました。他人をその気にさせ上手く使っていくことがとてもお上手な方なのだろうと思います。筆者は、その部分こそ安田監督御自身からお聞きしたいように思っています。
現在、この映画(の現場)に学ぶべきものは多いと思いながら、侍タイ(サムタイ)ファミリーの端っこから皆様の御様子を拝見させていただいている毎日です。「侍タイムスリッパー」はネットでも配信され6月にはDVDやBlu-rayも出るそうです。まだ上映を続けている映画館もあるようです。御興味を持たれました方は、一度ご覧になられましたら経営や労務管理の御参考になることもあるのではないかと思います。
(2025年4月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者

大神 令子おおがみ れいこ
社会保険労務士
略歴・経歴
大神令子社会保険労務士事務所代表
2000年(平成12年)12月 社会保険労務士試験 合格
2001年(平成13年) 2月 大阪府社会保険労務士会 登録
2002年(平成14年) 4月 大阪府内社会保険事務所にて 社会保険相談指導員
2006年(平成18年)12月 大神令子社会保険労務士事務所設立
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