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民事2020年03月26日 消滅する受益権(信託法91条)の時価評価~平成30年9月12日東京地裁判決を前提に~ 不動産鑑定士 芳賀則人✕税理士 石垣雄一郎 対談 民事信託特集 対談者:芳賀則人 石垣雄一郎

本日のテーマと問題意識

石垣 本日は、不動産鑑定士で東京アプレイザル(※1)会長の芳賀則人先生に、平成30年9月12日東京地裁判決の対象となった信託法91条(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)(※2)に定める消滅する受益権(以下、「消滅受益権」といいます。)の評価についてお話を伺いたいと思います。芳賀先生、どうぞよろしくお願い致します。

芳賀 はい、こちらこそ、よろしくお願い致します。

石垣 最初に、これまで長年にわたり、数多くの不動産鑑定を手掛け、問題解決を図ってこられた芳賀先生に教えていただきたいことがあります。
それは、不動産鑑定士に対する家庭裁判所からの鑑定依頼についてです。平成18年(成立)に、改正された信託法の新設規定である、同法91条に定める「消滅受益権」(※3)を民法1043条2項(※4)に定める「条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利」として、最近、家庭裁判所から不動産鑑定士に対し、この権利に関する価格の鑑定依頼は増えているのでしょうか?

芳賀 今後はわかりませんが、現状では、私の知る限り、そうした依頼はあまりないのではないでしょうか。あったとしても限定されたものだと思われます。それは、不動産鑑定士の間に、信託法91条に対する関心の高まりが一般的にあまり見られないことと無関係ではないのかもしれません。

石垣 なるほど、そうですか。では、もし不動産鑑定士が不動産に関連し、こうした「条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利」として消滅受益権を評価するときの拠り所となる基準は何でしょうか?

芳賀 現状では、やはり「不動産鑑定評価基準」です。

石垣 確かに、それは東京地裁判決が消滅受益権について大手不動産会社が試算した「収益価格」で評価したものを採用している点から理解できます。この収益価格とは、不動産鑑定評価基準に定める「収益還元法」の「直接還元法」と「DCF法」という2つの評価方法(税理士業務の中の民事信託・第3回参照)のうち、「DCF法」で算出された試算価格と考えればよろしいですか?

芳賀 はい、その通りです。「DCF法」は、私たち不動産鑑定士が鑑定評価でよく使う評価方法となっています。


※1 株式会社 東京アプレイザル

※2 信託法(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)
第91条 受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。

※3 本稿では本件裁判の受益者・長男(原告)らの死亡によりその受益者(長男ら)の有する消滅してしまう受益権のことをいうものとします。

※4 民法(遺留分を算定するための財産の価額)
第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

右:芳賀 則人(はが のりひと)
略歴:不動産鑑定士
   株式会社東京アプレイザル 会長
   50歳になったら相続学校 東京本校 校長

全国の1,000を超える会計事務所と業務提携契約を結び、累計4,000件以上の不動産鑑定評価を中心に業務を行っている。
2018年までは累計3,500件以上の広大地判定を行っており、現在は、不動産鑑定評価、広大地判定の経験に基づき、地積規模の大きな宅地の評価で見落としやすい点などを税理士に広めている。
また、税理士、公認会計士、不動産業者など相続問題に直面する実務家を対象としたTAP実務セミナーを年間200講座以上開催している。
[月いちコラム]芳賀則人の言いたい放題!
https://t-ap.jp/blog/cat_blog/column/

直接還元法とDCF法

石垣 不動産売買仲介の実務では、収益物件(収益物件となることを想定する物件を含みます。)について、賃料収入から管理料、公租公課などの諸経費(減価償却費を除きます。)を差引いた金額を期待利回りで割り戻し、予測の収益価格(投資価格)を算出します。この方法を「直接還元法」と呼ぶことを知っているかどうかはともかくとして、不動産売買仲介の現場では日常的に使われているものと思われます。これに対し、DCF法は、一部の専門家の方々を除き、一般的に馴染みがないものと思われますので、芳賀先生、解説をお願いできますか?

芳賀 はい。DCF法はDiscounted Cash Flow 法を省略したもので、「連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法」(不動産鑑定評価基準)のことをいいます。次のように、今後、賃貸不動産とする土地を評価する例で考えてみます。

<例示>更地を評価する場合

● その土地の立地条件、用途地域、建蔽率、容積率などを考慮し、どのような賃貸用建物を建てるかを想定し、その見積建築価格を計算します。

● この不動産(土地と建物)を取得後、10年間賃貸し、その10年経過後に売却するとします。

● 想定する賃貸用建物の賃料を調査し、その不動産について、10年間の毎年の維持管理費、水道光熱費、修繕費、FM(ファシリティ・マネジメント)フィー、テナント募集費用等、公租公課(土地、建物)、損害保険料、資本的支出などを見積ります。

● これらに加え、毎年の減価償却費を考慮し、その年ごとに純収益を計算し、算出された利益に一定の実効税率を乗じ、所得税等を計算し、その税額を含めてその年ごとに10年分のキャッシュ・フローを計算します。

石垣 向こう10年間の損益計算書とキャッシュ・フロー計算書(資本的支出を含みます。)の各項目に基づき、年分ごとの「純収益」を計算すると考えればよいのですか?

芳賀 そういうことです。さらに次のように考え、計算します。

● 将来の各年に稼ぐ上記各年分(10年間の各年分)の純収益に一定の利率(不動産鑑定士が専門的に判断します。)を適用し、表計算ソフトを使って各年分の純収益を現在価値に割り戻します。その現在価値に割り戻した各金額を合計します。

● この金額に「保有期間の満了時点(この例は10年経過後)における対象不動産の価格」(「復帰価格」)を一定の利率で割り戻して計算した金額と合計した金額がDCF法を用いた収益価格となります。

● この例は、土地と建物(想定)を合計した金額を「収益価格」としていますので、この金額から<例示>の冒頭に記載した見積建築価格を控除した金額が「土地の収益価格」となります。
なお、既存の賃貸不動産(土地、建物)の評価は、上記に準じて計算します。

左:石垣雄一郎(いしがき ゆういちろう)
略歴:税理士
   不動産戦略コンサルタント

税理士資格取得後、不動産会社で17年間上場企業の新規開拓や中小企業、個人不動産オーナー向けの営業や新規プロジェクトの立ち上げ支援業務を担当。ダンコンサルティング(株)では、不動産や株式を主とした民事信託等の浸透に関するコンサルティング業務に従事しながら全国各地からの依頼で信託の実践や活用に関する講演活動も行っている。民事信託のスキームの提案を実施し、不動産会社等にも顧問として信託の活用法を具体化する支援を行っている。

DCF法を使い消滅受益権を評価するときの問題点

石垣 そうなりますと、不動産鑑定評価基準の定めるDCF法を賃貸不動産という現物の評価でなく、消滅受益権の評価に用いると、大きくふたつほど問題があるように思います。
ひとつは、消滅受益権を有する受益者はいつ死亡するかわからないため、その保有期間が定まっていません。その期間は各ケースによって異なりますので、何を基準に定めるのかということです。
もうひとつは、消滅受益権はそれを有する受益者の死亡により消滅し、財産は何も残りませんので、「復帰価格」に相当するものがありません。消滅受益権の評価をするときは「復帰価格」がなくて、DCF法をそのまま使って評価をするのかということです。東京地裁が認めたように消滅受益権を現行の不動産鑑定評価基準を使って評価することについて、芳賀先生はどうお考えになりますか?

芳賀 そうですね。その点は、不動産鑑定評価基準が想定していなかった事態が起きているのではないでしょうか。不動産鑑定士は、必ずしも信託に明るいわけではありません。
私個人は、同基準に従った消滅受益権の評価をすることの妥当性、新たな基準策定の必要性などを国土交通省が中心となって検討すべきと考えています。

石垣 私も、それには賛成です。
国土交通省が不動産に関する受益権評価の拠り所を提示することの意味は大きいと思います。その際に、消滅受益権に限らず、受益権に付された様々な制約(前記第3回4・ア~キ参照)をどのように評価するべきか、併せて検討していただきたいところです。制約が付された受益権の時価評価は、相続税法9条3(受益者連続型信託)の規定のように権利の価値に作用する要因としての制約が付されていても一律に制約がないものとみなすわけにはいかないでしょうから、今後の適切な信託活用のため、受益権評価の指針は必要と考えます。

今後の課題

石垣 平成30年9月12日東京地裁判決において被告が信託契約を締結するにあたり、不動産鑑定士や不動産コンサルタントに相談した形跡はありません。最後に、この点について、芳賀先生はどのような印象をお持ちですか?

芳賀 不動産オーナーの信託契約を含む相続対策に不動産鑑定士が最初からかかわることは少ないという現状があります。多くは相続開始後のご相談です。私たち不動産鑑定士は、不動産の専門家であり、東京アプレイザルでは、各士業、不動産コンサルタントの方々と連携して問題解決にあたります。そのため、相続開始後だけでなく、その前に、私たち不動産鑑定士をもう少し積極的に活用していただければという思いがあります。

石垣 あらかじめの備えをしておくことが大切ということですね。

芳賀 はい、そのとおりです。
不動産に関する信託契約書の内容を充実させるためには、不動産の現状把握やその不動産をどう活用をどうするか、どう組み換えるか、信託を設定するとして受益権の評価はどうなるかといったことを計画的に検討する必要があると考えています(※5)。

石垣 今日は、不動産鑑定の立場から、消滅受益権の評価方法が、未だ確立されていないことを改めて確認できたことは、信託設定に際し、リスク管理をする視点から、大変有意義な時間でした。
本件裁判の対象となった信託(信託法91条)は、今のところ、不動産鑑定による受益権評価の方法が定まっていない中、設定された信託である点から教訓を学び取る必要があることを意識させられました。芳賀先生、貴重なお話しを賜りありがとうございました。

芳賀 お役に立てたのでしたら幸いです。こちらこそありがとうございました。

※5 「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース2参照

対談後記

 今回、対談後の雑談で、受益権の評価に関連し、「配偶者居住権」、「受益権の複層化」(問題解決のための民事信託活用法(新日本法規刊)・第2章・P347-353参照)などの話題が出ました。これらについては、いずれどこかで機会がありましたら、改めて取り上げてみたいと思います。(石垣雄一郎)

(2020年3月6日 対談)

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