一般2026年09月09日 「始皇帝モノ」は面白い。連載コラムその6 ─応用編⑶『ミーユエ 王朝を照らす月』の紹介─(法苑WEB連載第26回)執筆者:坂和章平 法苑WEB

(1)コラム3では、「始皇帝モノは面白い」応用編⑴として、『大秦帝国』シリーズ全4作、すなわち、①『大秦帝国』②『大秦帝国縦横=強国への道=』③『昭王〜大秦帝国の夜明け〜』④『始皇帝 天下統一』を紹介した。これらは秦の25代君主・嬴渠梁、26代・嬴駟、28代・嬴稷、30代・嬴子楚たち(27代・嬴蕩は3年のみ、29代・嬴柱は3日のみの在位)が、大胆な法治主義改革と衛鞅、呂不韋、李斯等の賢才の登用によって西方の野蛮な弱小国だった秦を強国化していく姿を、男たちの権謀術策や肉弾相撃つ戦争の数々、そしてその裏側にあるさまざまな政略結婚や恋愛・悲恋の中で描いた「歴史モノ」だった。
(2)続く、コラム4では、「「始皇帝モノ」は面白い」応用編⑵として『コウラン伝 始皇帝の母』(前半・1~38話)を紹介し、コラム5では、「「始皇帝モノ」は面白い」応用編⑵として、『コウラン伝 始皇帝の母』(後半・39~62話)を紹介した。そこでコラム6では、「「始皇帝モノ」は面白い」応用編⑶として、『ミーユエ 王朝を照らす月』(15年・全81話)(以下本作と略称)を紹介する。
(3)あなたは孫儷という美人女優を知ってる?鄭暁龍監督が『宮廷の諍い女』(11~12年)で起用し、本作で再びタッグを組んだ孫儷は上海テレビ祭マグノリア賞の主演女優賞を受賞!2020年に何の予備知識もなしに本作を観た私はたちまちその魅力にハマってしまった。本作は歴史モノとしても面白いが、羋月を演じた孫儷が大きな話題を呼んだ。始皇帝の高祖母(おばあさんのおばあさん)となる羋月は、女性初の摂政、宣太后として権力を振るうと共に、異民族の義渠王と浮き名を流した奔放な女性。本作は嬴駟(26代)から嬴蕩(27代)、嬴稷(28代)へと続く、秦の強国化時代を描いているが、その面白さにハマること必至!
私は本作を「始皇帝モノ」の一作と位置づけたが、「始皇帝モノ」を楽しむためには、①春秋戦国時代とは?戦国七雄とは?②合従連衡とは?諸子百家とは?③商鞅の法治主義とは?なぜ秦国は法治主義を?、という3つの基礎知識が不可欠だ。以下、1つずつ解説する。
(1)日本の戦国時代は、足利尊氏が1336年に開いた室町幕府の権威が低下し、守護大名に代わって戦国大名が台頭する中、15世紀末(1467年~77年の応仁の乱)から16世紀末(1568年の織田信長の上洛)まで続いたが、1600年の関ヶ原の合戦を節目として終了し、1603年に徳川幕府が成立した後は1853年のペリー来航まで約250年間も太平の世が続いた。しかし、周の没落を契機として始まった中国の春秋(BC770~403年)戦国(BC403~221年)時代は約550年間も続いたから大変だ。
(2)「戦国七雄」とは、秦、楚、斉、燕、趙、魏、韓の七国だが、その抗争と興亡のサマは『キングダム~戦国七雄』(コラム1)で紹介したとおりだ。
(1)司馬遼太郎の小説『関ヶ原』(66年)では、豊臣家の忠臣・石田三成が米沢藩・上杉家の家老・直江兼続と結んで関東にある徳川家康を挟み討ちにしようとする壮大な計略が興味深く描かれていたが、その原型(?)はすべて中国の戦国時代の合従連衡にある。『三国志』では諸葛孔明が蜀の劉備に説いた「天下三分の計」が有名だが、「始皇帝モノ」では合従連衡がキーワードだ。
(2)春秋時代には、「仁」「礼」を説く儒家の孔子、儒家に対立し、無為自然を説く老子、博愛を唱える平和主義者で非戦論の墨家等の「諸子百家」が登場したが、戦国時代に入ると、魏から秦に入って嬴渠梁に認められた商鞅の「法家」をはじめ、「縦横家」と呼ばれるたくさんの外交術の専門家が登場し、戦国七雄の間を行き来してさまざまな同盟工作を展開した。合従の代表は蘇秦、連衡の代表は張儀だが、その他、楚には有名な屈原もいる。ちなみに、これら「諸子百家」の源流は今なお謎多い人物、鬼谷子にあるから、『鬼谷子─聖なる謀─』(16年・全12話)も必見!
(3)戦国時代中期の七国の配置図(概略)は、次のとおりだ。

(4)「合従連衡」とは、ことばの意味研究所が『四字熟語 合従連衡』で引用しているgoo辞書では「その時の利害に従って、結びついたり離れたりすること。また、その時勢を察して、巧みにはかりごとを巡らす政策、特に外交政策のこと」、「もとは中国戦国時代、蘇秦の合従策と張儀の連衡策のことをいう」と解説されている。ちなみに、これは、第二次世界大戦後の「東西冷戦」の中、ソ連の西方への侵攻を阻止するため、ヨーロッパ各国が独・仏・英を中核として結成した集団安全保障体制(軍事同盟)たる「NATO」(北大西洋条約機構)とも共通する考え方だからビックリ!
(5)「合従」とは、西から急速に勢力を伸ばす秦に対抗するため、北から南へ縦に並ぶ趙、韓、魏、楚の四国と、趙・魏のさらに東にある燕、斉の六国が連合して秦に対抗しようとする考えだ。その代表的な「縦横家」である蘇秦は、まず燕を説得した後に趙に行き、続いて韓、魏、斉、楚の説得に成功。これによって彼は合従連衡の長になるとともに、各国の宰相も兼ねたため、秦は15年間も出兵できなくなったからすごい。合従による集団安全保障体制の確立で秦からの脅威に対する抑止力の形成に成功したわけだ。ちなみに、蘇秦が六国の説得に使ったのが、「鶏のくちばしになるほうが、牛の尻になるよりもよい」という意味の四文字熟語「鶏口牛後」。このことわざを使って説得する蘇秦の口車(?)に六国(の王)はまんまと乗ったわけだが、問題はその継続性だ。
(6)他方、蘇秦と共に鬼谷子の下で学んだと言われている「縦横家」が張儀。羋月の「良き友」として本作に登場する興味深いキャラの張儀は、秦で重用される中、まず、「蘇秦の主張する合従作は口先で成り立っているだけ」、「現実に燕と趙、斉と魏・楚は隣国同士で領土問題を争っているのだから、楚は秦と結んで燕を攻めた方が良い(現実的だ)」と楚の懐王(羋月の父・威王の子で21代楚王)に連衡策を主張。そして、「楚が斉との同盟を破棄すれば秦の領地600里四方を割譲する」と働きかけて斉との同盟を破棄させた上、秦と斉との同盟まで成立させたからすごい。これは今日でもずっと生き続けている「遠交近攻策」による各個撃破策だ。石田三成と直江兼続が立案した、徳川家康を東西から挟み撃ちにするという遠交近攻策は失敗に終わったが、張儀の楚に対する連衡の働きかけは見事に成功!これによって合従による六国の対秦同盟は破綻し、秦の強大化が一層進むことに。本作では、この張儀は羋月との若き日の出会いから、彼女が28代・嬴稷の摂政に就任する時代まで、節目毎に登場し、八面六臂の活躍をするので、その動静に注目!ちなみに、26代・嬴駟は新たな官職として相邦(後の相国)を創設したが、その2代目の相邦に張儀が就任しているから、本作における彼の活躍は大きな見どころだ。
(1)米英を中心とする西欧型民主主義国の統治の基本は法治。露中の一党独裁型中央集権国に対して、法と民主主義に最大の価値を置いている。すると、BC3世紀に商鞅が説いた「法治」はそれと同じ?司法試験を目指して「六法」を学び、「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を目的とする「弁護士法」の下で弁護士業務を52年間も続けてきた私としては、さすがに「それは同じ」とは言えず、大いに異質なものを感じるものの、中国ではそんな昔から「人治」に対する「法治」の考え方(大系)が確立されていたことにビックリ!本作を通じてその内容をしっかり把握したい。
(2)商鞅を一方の主人公とした『大秦帝国』(コラム1)では、全編を通じて、魏から秦に入った商鞅が25代・嬴渠梁の後ろ盾を得て「変法」を強行していくサマがリアルに描かれていた。その導入部では、太子時代の嬴駟が「商鞅の法」に触れたため、その罰として追放されただけでなく、嬴駟の傅役だった公子・嬴虔と教育係の公孫賈が劓(鼻削ぎの刑)と刺青の刑に処せられる姿が描かれていた。そして、それをずっと恨んでいた嬴駟は、嬴渠梁の死後、商鞅に罪を被せ、商鞅を車裂きの刑に処したから、嬴駟はある意味でひどい王!?それに対して、『ミーユエ』中の嬴駟は終始“いい男”として描かれているので、その対比にも注目。本作にみる嬴駟は商鞅は処罰したものの、法治主義の方針はそのまま維持することで国力を増強させていったから立派なものだ。
(3)商鞅が唱えた「変法」の第1弾(BC359)はコラム1で紹介したとおり、①農耕奨励②軍功叙爵(軍功を挙げれば平民でも爵位を与える)③什伍の連座(十人組と五人組を設けて相互に監視させ、罪を犯せば連帯責任を)④旅客検問⑤私闘禁止。第2弾(BC350年)は①新田法②新国人法③新領土法だ。「改革」には既得権益を守ろうとする守旧派の抵抗がつきもの。そのことは「(古い体質の)自民党をぶっ壊す」と声高に叫んだ小泉純一郎元総理とそれを金融財政面から支えた竹中平蔵氏が、抵抗勢力からボロクソに叩かれたのと同じだ。とりわけ変法によって突如貴族の特権を剥奪されてしまう勢力が死に物狂いで抵抗したのは当然だから、商鞅の苦難は如何ばかり!
(4)『大秦帝国』では商鞅と嬴渠梁間の臣君の固い絆が描かれ、『始皇帝 天下統一』や『李皓鑭』では、若き秦王・嬴政を相邦の呂不韋と王后の趙姫(李皓鑭)が補佐する中、それを煙たく思う嬴政が奇才・李斯と出会い彼を重用した結果、呂不韋の追放に至る姿が描かれていた。この李斯は楚の出身ながらレッキとした法家だ。また、李斯が最大のライバルとした韓出身の韓非子も法家だから、法家は層が厚い。ちなみに、嬴政から絶賛された韓非子は李斯の嫉妬心から失意の最期を遂げたから何とも哀れなものだ。さらに、始皇帝亡き後、扶蘇が即位すれば必ず蒙恬が丞相になることを恐れた李斯は、宦官の趙高と謀って、「胡亥を太子に立てる」とする始皇帝の遺詔を偽造し、扶蘇と蒙恬に賜死を命じたから酷い。この策は成功したものの、その数年後、李斯は趙高の陰謀によって罪をでっち上げられ、悲惨な最期を遂げることになったから、優秀だった法家の才人たちの末路はそれぞれ哀れだ。
以上の、「「始皇帝モノ」を楽しむための3つの基礎知識」を前提として、私は本作を楽しむための5つのポイントとして、①始皇帝直前の秦国の歴代の王は?②羋月の出自は?恋愛は?結婚は?子供は?③羋月は嬴稷の摂政として41年間も絶大な権力を!④異民族の義渠王と浮名を流し、結婚し、子供まで!⑤羋月死後、始皇帝政権下での羋氏の盛衰は?を挙げたい。以下、この5点について私の独断と偏見を前提とした本作の楽しみ方を提示する。
(1)24代・嬴師隰の死亡から始まった『大秦帝国』(コラム3)の一方の主人公は衛鞅(商鞅)、他方の主人公は25代・嬴渠梁だった。また、『コウラン伝 始皇帝の母』(コラム4、5)の主人公は、嬴政の父親で後に30代王となる嬴子楚と、嬴政を生んだ母・李皓鑭(趙姫)、そして趙の人質だった子楚を秦に連れ戻し、秦王まで登らしめた商人・呂不韋だった。
(2)それに対して、本作は羋月の誕生秘話とその子供時代を経た後、“嫁取り”のために楚を訪れた秦の太子・嬴駟に見初められた羋妹が嬴駟の正室として秦国に嫁ぐ物語になっていく。羋月役の孫儷が美人なら、羋妹役の劉涛も美人。本作はもちろん小難しい政治談義もテンコ盛りだが、秦の太子が嫁取りのために楚に赴き、さまざまな恋模様を展開していく導入部の物語はメチャ面白い。なるほど、なるほど。しかして、本作の本格的ストーリーは如何に?
(3)本作の主人公はもちろん羋月だが、導入部のストーリーを牽引するのは若き日の秦の太子・嬴駟。彼は『大秦帝国』の一方の主人公だった25代・嬴渠梁の子で、後に26代王になる人物だ。そして、嬴駟の正室となった楚の公主・羋姝が産んだ子が27代の嬴蕩であり、嬴駟と側室だった羋月の間に生まれた子が28代の嬴稷だ。嬴蕩の在位はわずか3年だったが、嬴稷は55年間の長きにわたって在位したから、羋月は摂政として41年間も実権を振るうことになる。始皇帝が登場する直前の、25代~31代の歴代秦王の系譜を表にすれば、次のとおりだ。



(1)本作の時代はBC4世紀。「戦国七雄」と呼ばれた秦、楚、斉、燕、趙、魏、韓が争う戦国時代の真っ只中だ。そんな時代状況下、楚の国に「覇星」が現れ、「もうすぐ生まれてくる子が国を制する」という予言が楚王の羋商のもとに届けられるところから物語は始まる。そんな予言に羋商は大喜びだが、身分の低い侍妾・向氏から生まれたのは女児だったからアレレ、アレレ。羋商の失意は如何ばかり。王后・威后の進言によって籠に入れられて川に流されたものの、奇跡的に生き延びた赤子は羋商から羋月と命名され、向氏のもとで育つことに。
(2)本作冒頭の、「天下を統べる兆しの星=覇星」が現れたのは楚の後宮に未来の覇者が生まれた証だとする説明は、イエスキリストの生誕物語と同じ。また、赤子が籠に入れられて川に流されるシーンは、後に預言者モーゼとなるユダヤ人の赤子が川に流される『十戒』(56年)の導入部を彷彿させるが、本作はあくまで中国時代劇ドラマだ。本作では、少女時代の羋月が威后から目の敵とされながらも、天真爛漫で聡明な娘に育っていく姿が描かれるのでそれに注目!
(3)本作導入部では、羋月が楚の高名な政治家・屈原の弟子、黄歇と恋仲になる姿も描かれるが、そのために羋月の異母姉たる羋茵が黄歇を巡る恋敵になってしまうから大変。以降、羋月は羋茵から徹底的にいじめられることに。
(4)他方、威后の娘・羋姝は異母妹の羋月と何かと気が合ったようで、事あるごとに羋月の手助けを。そのため、羋月は泣く泣く黄歇と別れ、嬴駟との婚姻のため秦に赴くことになった羋姝の侍女として共に秦に赴くことに。
(5)嬴駟の正室は羋姝だが、秦に入った後、嬴駟の気に入られた羋月は側室の一人に。ちなみに、日本の戦国時代と同じく、中国の戦国時代も各国の王は多くの側室を持ち、多くの子供を産ませることが大切(義務?)だった。そのため、羋月の時代には正室(王后)の他、側室には夫人、美人、良人、八子、七子、长使、少使というランクまであったそうだからすごい(うらやましい?)。なお、書籍係(?)として嬴駟の王務を助け重宝されていた羋月は、側室としての役割を果たしていく中で八子に登り、その後は正室たる羋姝のライバルになっていくから、本作では羋月の側室としての立身出世ドラマも大きな焦点だ。すると、羋姝と羋月が共に男児を産んだ場合、2人の女の対立構造や2人の息子の対抗意識は如何に?ちなみに、本作では、恋人の黄歇を想う気持ちを理解する嬴駟が、共に床に入ることを拒否する羋月を許すシーンが登場する。これは現実にはありえない風景(?)だろうが、清く正しく美しい嬴駟と羋月の恋模様を描く本作前半では、それもあり!?
(1)2025年10/4の自民党総裁選挙では、圧倒的優位を伝えられた“本命”の小泉進次郎候補を高市早苗候補が破ったからビックリ!彼女は、「総裁にはなったが、総理になれないかもしれない、かわいそうな女」と自虐ネタを飛ばしつつ、国会での総理指名に向けて大奮闘!その結果、26年間も自民党との連立関係にあった公明党から一方的に連立離脱宣言されたことにもめげず、日本維新の会の吉村洋文代表とのたった一夜の党首会談で電光石火の「自維連立合意」を成立させたからすごい。さらに、2025年11/7の台湾有事と存立危機事態を巡る国会答弁を契機とした中国の猛反発にもかかわらず、高市内閣は高支持率をキープし続けているから立派なものだ。彼女が敬愛し、師と仰いでいるサッチャー首相の域に近づけるかどうかはともかく、日本で誕生した初の女性総理としてしっかり働いてもらいたい。考えてみれば、日本には卑弥呼や北条政子がいた。イギリスにはエリザベス女王が、古代エジプトにはクレオパトラがいた。そして、中国には則天武后や西太后もいた。そんな中で特筆すべきは、クレオパトラより前の紀元前3世紀の秦に女性初の摂政・羋月がいたことだ。
(2)羋月は側室とはいえ、楚王・羋商と侍女・向氏の間に生まれた娘で、26代・嬴駟の正室となった羋姝の異母妹だ。羋姝のたっての願いを受け入れ、羋月は羋姝の侍女として秦国に赴いたが、嬴駟の側室となったため、嬴駟の愛を巡って次第に(異母)姉妹の対立が激化したのは仕方ない。また、嬴駟と羋姝との間に嬴蕩が生まれ、嬴駟と羋月との間に嬴稷が生まれたことによって嬴駟の後継ぎを巡る“思惑”が交錯するようになると、2人の対立が激化したのも仕方ない。そのため、嬴駟の死亡後は羋姝とその取り巻きたちの策謀によって嬴稷は遠く燕国の人質として送られたから、それに同行した羋月も大きな苦難を味わうことに。しかし、そんな艱難辛苦の中、嬴駟の後を継いだ27代・嬴蕩が王位わずか3年で死亡すると、羋月の息子・嬴稷が28代王に就任。そして、羋月は若き嬴稷の摂政に就任することに。
(3)ちなみに、謎の商人・呂不韋の勧め(策略)に乗って、趙の人質とされていた嬴子楚を養子にすることによって、同人を嬴稷の後継者争いの一人として登場させたのが『コウラン伝』の主要キャストの一人である華陽夫人。彼女は、子は産まなかったものの、羋氏の出身者として、嬴稷の後を継ぎ29代王となった嬴柱の正室に収まっていた女性だから、彼女にも注目!
(1)私は高一の授業で中国史を1年間学び、そこで中国史は漢民族と異民族との攻防と王朝交代の歴史であることを知った。もっとも、夏⇒殷⇒周と続いた古代国家の時代が終わった後、BC770~221年の春秋戦国時代では秦・楚・斉・燕・韓・趙・魏の七国が争ったが、楚や魏等の有力国に比べると、最も西に位置し、異民族に近い存在だと見下されていた秦が中国を統一し、その始皇帝が、異民族の侵入を防ぐために万里の長城を築いたのだから、何とも皮肉なものだ。ちなみに、万里の長城が、秦⇒漢⇒隋⇒唐⇒宋⇒明⇒清と続いた歴史の中でも貴重な存在だったことを、私は2025年末から読み進め2026年2月末に読了した北方謙三の『水滸伝』全19巻(集英社文庫)で再確認することができた。
(2)羋月は嬴駟の正室として嫁入りする羋姝の侍女として付き添ったが、楚から秦までの道のりは遠く、途中で異民族の義渠に襲われたからさあ大変。姉思いの羋月は機転を効かして自分が羋姝だと名乗ったため、羋姝は無事に秦にたどり着いたものの、人質になってしまった羋月は大変だ。しかして、この異民族の義渠とはどんな人物?さらに、本作では人質時代の羋月が“狼の子”を引き取り、親身に世話する姿が描かれるが、その狼男が後に秦の大将軍「白起」に成長するので、それにも注目!
(3)羋月は楚王と侍妾・向氏との間に生まれた娘だが、羋月には2人の弟がいた。その一人は向夫人が楚王の羋商との間に産んだ2人目の子、戎だ。これにより向夫人は妃に格上げになり、神殿と錦衣が与えられたが、それを知った王后は向氏を王宮の外へ追放すると共に、向氏は魏甲という男に犯されるという酷い仕打ちを受けることに。さらに、この戎は羋月と共に、羋商の死後、威后によって殉葬名簿に加えられ殺されそうになるから大変だ。他方、少女時代を王宮で過ごした羋月に対し、向氏は博打と酒に溺れる魏甲と不幸な生活を送っていたが、それでもこの2人の間に魏冉が生まれたから男女関係は面白い。羋月の異父弟になるこの魏冉は、後に白起と並ぶ秦の大将軍として大活躍するので、それにも注目!
(4)本作導入部にみる義渠は身の危険も厭わず、何かと羋月のために尽力する“いい男”だが、困るのは羋月に対する独占欲が極端に強いこと。そのため、本作の後半、羋月が28代・嬴稷の摂政として実権を握るようになった中でも、義渠は羋月に対して「お前は俺の女だ」と言わんばかりの姿勢を示すから、アレレ、アレレ!そんな姿に息子の嬴稷がおかんむりなのは当然だが、何と羋月はそんな義渠との間に新たな子供を産んだというからすごい。さらに、一説によると、羋月は老いては魏丑夫という若い男を情夫にして寵愛したというから、ひょっとして、羋月はとんでもない浮気女・・・?
(1)29代・嬴柱の在位はわずか3日だが、特筆すべきは彼には子供が二十数名(28名?)もいたことだ。そのため、「どうでもいい子」(?)=「捨て駒」として趙に人質として出されていた、側室の夏夫人との間に生まれた嬴異人は、羋月のひ孫になる。『コウラン伝』(コラム4)で見たように、この嬴異人は呂不韋から「奇貨居くべし」と高く評価されて、趙から秦への脱出に成功。そして、嬴柱との間に実子のいなかった正室の華陽夫人は、「嬴異人を養子としてもらい受けるように」との呂不韋の提案に乗ったことによって、嬴異人が後継ぎに指名され、嬴子傒との後継者争いに勝利することになるから、その抗争ドラマはすごい。この華陽夫人は羋月と同じ羋氏の女性で、嬴異人の長子たる嬴政(始皇帝)のおばあさん。そして、羋月は始皇帝の高祖母(おばあさんのおばあさん)だ。
(2)幼い28代・嬴稷の摂政に就任した羋月は、後に「三貴」と呼ばれる、弟の魏冉、羋戎、白起(という3人の身内)で嬴稷の周りを固めて、秦国における羋一族の勢力を確立させた。そのため、28代・嬴稷の治世は55年、羋月の摂政・宣太后としての権力掌握は41年にも及んだ。しかし、宣太后死亡後は、『コウラン伝』や『大秦帝国』全4作に見られるように羋氏の勢力は次第に衰えていく。したがって、本作では羋氏の絶頂期を築いた宣太后(=羋月)の若き日の激動の日々を中心に、その威力をタップリと楽しみたい。
(弁護士・映画評論家)
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