一般2026年08月20日 スポーツ選手個人の肖像等利用ビジネスとスポーツ団体による管理 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:安念リサ

1.はじめに
現在、スポーツは、競技、身体運動、余暇活動という概念を飛び越え、産業として振興すべき対象として位置づけられるようになっている。スタジアムやアリーナ整備・活用、スポーツDX、eスポーツの推進、エンタメコンテンツ化等多様な分野でビジネス化されている。
日本でも、スポーツ庁がスポーツ市場規模を2025年までに15兆円に拡大することを目標に掲げ、取組が進められてきた1。2023年まではコロナ禍の影響により市場規模の成長は抑制されたと考えられているものの、2030年までの目標達成を目指し、コロナ禍以降は再び成長傾向にあると考えられている。また、スポーツ庁は、スポーツ団体を核とした他産業との連携によるイノベーションを推進しており、スポーツ界と企業双方にとって価値をもたらすパートナーシップの構築が提言されている。
このように、スポーツがビジネス化されていく中で、選手個人も競技活動そのものだけでなく、多様な形でスポーツ関連ビジネスに関わる機会が増加していくことが予想される。例えば、2025年3月8日、公益財団法人日本水泳連盟(「水泳連盟」)は、選手個人の肖像等利用を認める旨規程を改定し2、選手が自らの肖像等を利用したビジネス活動を行うことが容易となった3。本稿では、水泳連盟やその他のスポーツ団体による選手個人の肖像等利用に関する管理状況を概説する。
2.各スポーツ団体による選手個人の肖像等利用に関する管理状況
(1)水泳
上記のとおり、規程の改定により、日本代表選手として活動中の肖像等(日本代表選手であることを理由に水泳連盟から支給された物品を身に着けた肖像等も含む。)及び日本代表選手3名以上で構成される集団の肖像等以外は、第三者に使用させることが可能となった。
また、水泳連盟は、競技者のマーケティング活動ガイドライン4を公表しており、肖像等利用に際してのルールやロゴマーク等の掲出ルールを定めている。肖像等利用ビジネスにおける留意点もFAQとしてまとめられている。選手個人の肖像等利用について事前承認や事後報告は不要とされていることから、選手の意思で広く利用することが可能である。
(2)プロ野球
一般社団法人日本野球機構(NPB)は、日本プロフェッショナル野球協約を定めており、当該規約45条において、球団と選手の間で締結される契約条項は、統一様式契約書によることとしている。そして、統一様式契約書において、「選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ、テレビジョンのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。」旨定められている。したがって、球団の承諾がない限り、選手個人の肖像等利用はできない。
(3)プロサッカー
公益財団法人日本サッカー協会(JFA)は、プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則5において、クラブと選手の間で締結される契約は、日本サッカー協会選手契約書という統一の書式で締結することと定めている。契約書は、男子のプロ選手、女子のプロ選手、フットサルのプロ選手で書式が分かれているものの6、いずれにおいても「(1)テレビ・ラジオ番組、イベントへの出演(2)選手の肖像等の使用およびその許諾(インターネットを含む)(3)新聞・雑誌取材への応諾(4)第三者の広告宣伝等への関与」について、事前にクラブの書面による承諾を得なければならないとされている。したがって、クラブの承諾がない限り、選手個人の肖像等利用はできない。
(4)プロバスケットボール
公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)は、基本規程797条において、プロバスケットボール選手との契約は、統一契約書式またはそれに準じる契約書式により締結されなければならない旨定めている。なお、公益財団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)は、選手契約および登録に関する規程87条において、JBAが定める統一契約書による契約を締結する旨定めていることから、Bリーグ所属選手は、統一契約書を用いて各クラブとの間で契約を締結している。JBAの定めるBリーグ所属選手用選手統一契約書9において、「①テレビ・ラジオ番組およびインターネット等を通じて送信される番組等、イベントへの出演②選手の肖像等の使用およびその許諾(インターネットを含む)③新聞・雑誌取材への応諾④第三者の広告宣伝等への関与」について、事前にクラブの書面による承諾を得なければならないとされている。したがって、クラブの承諾がない限り、選手個人の肖像等利用はできない。
(5)プロバレーボール
公益社団法人SVリーグ(SVL)は、規約90条10において、①テレビ・ラジオ番組およびインターネット等を通じて送信される番組等への出演②イベントへの出演③新聞・雑誌取材への応諾(Webメディアを含む)④第三者の広告宣伝等への関与については、事前に所属クラブの書面による承諾を得なければならない旨定めている。選手個人の肖像等利用までクラブの承諾が必要であると定められているわけではないものの、肖像等利用ビジネスにはクラブの承諾が必要である。
(6)プロゴルフ、プロテニス
プロゴルフやプロテニスは、協会が選手個人の肖像の商業的利用権を排他的に管理する権限を持たず11、選手個人が自由に肖像等利用ビジネスを行うことができる。
(7)柔道
公益財団法人全日本柔道連盟(全柔連)は、競技者規程6条12において、「(3)自らが自分の氏名、写真または競技実績を広告に使うことを許可すること。(4)広告宣伝媒体に出演すること。(5)商業目的の放送、映画、演劇その他の行事に出演すること。ただし、その出演が柔道に関係のないものであるときはこの限りではない。(6)競技者は、講演会、講習会、放送、新聞・雑誌の座談会その他各種の行事に有償で出演すること。」は、事前に全柔連の承認が必要である旨定めている。したがって、広告以外での肖像等利用は自由であり、また、柔道に関係のない行事等への出演は自由に実施可能であるものの、肖像等利用ビジネスについては、基本的に全柔連の承認が必要である。
(8)まとめ
野球、サッカー、バスケットボール、バレーボールは、肖像等利用に関するルールの定め方や内容に多少の差異はあるものの、肖像等利用ビジネスについて、球団やクラブの承諾が必要である。また、柔道は上記のスポーツと比較すると、承認の必要な範囲が狭いものの、基本的には全柔連の承認が必要である。水泳の肖像等利用に関する規定変更は、ゴルフやテニスでの協会等の関与に近づけるものであると考えられ、非常に画期的であると考えられる。
選手個人による肖像等を利用したビジネス活動に関する方針の違いは、個人競技か団体競技かという違いによるという捉え方もできるかもしれない。しかし、欧米では、サッカー等の団体競技についても肖像権やパブリシティ権は個人に帰属し、自由に利用できるとされているケースが多く、日本でも選手会等を中心に、現状を変えようとする動きが出ている13。
| スポーツ名 | 肖像等利用ビジネスとスポーツ団体等との関係性 |
|---|---|
| 水泳 | 選手個人が自由に肖像等を利用可。マーケティングルールが策定されており、ルール違反の場合には、措置・制裁の対象となる。事前申請、事後報告は不要。 |
| 野球 | 球団の承諾を得ることが必要。 |
| サッカー | クラブによる事前の書面承諾を得ることが必要。 |
| バスケットボール | クラブによる事前の書面承諾を得ることが必要。 |
| バレーボール | クラブによる事前の書面承諾を得ることが必要(肖像等の利用に対して一律で承諾を求めるものではない。)。 |
| ゴルフ/テニス | 選手個人が自由に肖像等を利用可能。事前申請、事後報告は不要。 |
| 柔道 | 個人の広告以外の目的の肖像等利用は可能。肖像等を利用したビジネス活動には、基本的に全柔連の事前承認が必要(柔道に関係のない商業目的の行事等への参加は除く。)。 |
3. スポーツ選手個人の肖像等利用ビジネスのメリットとデメリット
スポーツ選手個人が肖像等利用ビジネスを実施できることの最大のメリットは、選手の収入を増加できるという点である。特に、個人競技等では、遠征費等の高額な費用を自己負担しなければならない選手も多く、このような費用に肖像等利用ビジネスで得られた収入を充てることができれば、選手らのスポーツ活動の活発化につながる。そして、選手らの活躍は競技自体の認知度の向上に寄与し得る。また、広告等を通じて選手の認知が国民に広まること自体が、結果的に競技の普及にもつながると考えられる。
しかしながら、個人で自由にスポンサー契約等を締結可能であるとした場合には、契約トラブルに巻き込まれる可能性が否定できない。スポンサー契約等を締結しようとする相手が反社会的勢力であるという可能性や、ステルス・マーケティングやその他の違法行為に加担してしまう可能性がある。
アメリカでは、2021年7月に全米大学体育協会(NCAA)が学生の競技者に対して、氏名・イメージ・肖像(NIL)を利用した収益活動を認めるに至り14、学生選手たちが収入を得られるように変化したものの、契約に関する知識・経験の不足に起因する契約トラブルが実際に発生している。例えば、現在アメリカン・フットボールのシカゴ・ベアーズに所属するガーヴォン・デクスター選手は、学生時代に約43万ドルの支払いを受けるというスポンサー契約を締結していた。当該契約には、プロ入りした場合、25年間収入の税引き前の15%(アメフトのプロ選手の平均給与はシーズンあたり約320万ドル)を払い続けるといった条項が定められていた。このような契約は、略奪的なローン契約であるとして、デクスター選手側より契約の有効性に関する裁判が提起されているが、2025年7月時点では、係争中のままである 1516。
肖像等利用ビジネスの実施に対して、所属団体等の承諾が必要である場合には、契約相手のスクリーニングは一定程度可能ではあるものの、問題性の高くない件であったとしても所属団体等の判断により承諾が得られないという可能性や、判断に期間を要し、結果としてビジネスを実施できずに終わるという可能性がある。
4.今後の課題
各チームや連盟がスポーツ選手らをサポートする側面があるとはいえ、芸能活動等とは異なり、各チームや連盟が各スポーツ選手の顧客誘引力を高めることを目的として、資本を投下しているわけではないことや、海外では選手個人が一部権利のみを各チームや連盟にライセンスする(=基本的には個人が自由に利用可能。)という整理ができていることからすると、日本のスポーツ業界においても、基本的に選手個人が自由に肖像等利用ビジネスを実施できるように認めていくことが望ましいように思われる 17。しかしながら、上述のようなトラブルが発生する可能性も十分にある。有名選手であり、契約額が大きい場合には、弁護士等に契約内容のチェック等の関与を積極的に求める可能性が高い一方で、契約額が小さい場合には、選手が自ら判断を行うというケースも多くなるのではないかと考えられる。個人の収益活動であり、個人の契約ではあるものの、当該活動を通じてスポーツ競技の普及にもつながる可能性があることからすると、各団体で承諾を不要とする際には、水泳連盟が策定するような一定のルールを併せて策定し、選手たちの契約締結時の指標とすることが望ましいのではないかと考える。
1 スポーツ庁・経済産業省「スポーツ未来開拓会議~今後のスポーツの成長産業化を見据えた、当面の取組等についてのとりまとめ~」(2025年4月)(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sports_future/pdf/20250430_2.pdf)
2 水泳連盟「競技者資格規程」(2026年3月7日最終改定)(https://aquatics.or.jp/assets/files/pdf/pages/about/rule/r_ks01_260307.pdf)
3 2024年には、クラウドファンディングによる資金調達を行った選手が水泳連盟から処分を受けるという事案があったが、当該事案も規則改定のきっかけの1つになったと考えられる(産経新聞(2024年3月8日)(https://www.sankei.com/article/20240308-F3W6IPTDPVNWDEUA3LLRNXCXS4/, 最終閲覧2026年7月16日)
4 水泳連盟「競技者のマーケティング活動ガイドライン」(2026年4月1日最終改定)(https://aquatics.or.jp/assets/files/pdf/pages/about/rule/r_marketing_20260401.pdf)
5 JFA「プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則」(2026年3月12日最終改定)(https://www.jfa.jp/documents/pdf/basic/br20_20260312.pdf)
6 例えば、男子のプロ選手の契約書は以下である。(https://www.jfa.jp/documents/pdf/basic/06/players_men.pdf)
7 JBA「基本規程」(2026年6月10日最終改定)(https://www.japanbasketball.jp/wp-content/uploads/kihonkitei_20260610.pdf)
8 Bリーグ「選手契約および登録に関する規程」(2026年1月13日最終改定)(https://www.bleague.jp/files/user/about/pdf/r-25.pdf)
9 JBA「選手統一契約書」(https://www.japanbasketball.jp/wp-content/uploads/Bleague-players_contract_20260414.pdf)
10 SVL「規約」(2026年7月1日最終改定)(https://www.svleague.or.jp/pdf/about/rule/2026/constitution_20260701.pdf)
11 伊東晃「選手のパブリシティ権・肖像権の現在地とスポーツビジネスの展開」ジュリスト1619号27頁(2026)
12 全柔連「競技者規程」(2014年4月1日最終改定)(https://www.judo.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/09/5-2kyogisha-kitei_H26-04-01.pdf)
13 日刊スポーツ(2025年11月17日)(https://www.nikkansports.com/soccer/news/202511170000575.html, 最終閲覧2026年7月15日)
14 従来、事前の承諾があれば肖像等利用ビジネスが可能であったわけではなく、一律で収益性を認めていなかったという点には留意されたい。なお、日本では、一般社団法人大学スポーツ協会等が設立されているものの、特段の指針は定められていない。ただし、部活動単位でスポンサー契約が締結されるケースは散見されており、財源不足によりスポンサーを発見する流れが進んでいる。(スポーツ報知(2025年10月9日)https://hochi.news/articles/20251009-OHT1T51139.html?page=1&utm_abtest=A, 最終閲覧2026年7月15日)
15 THE NATIONAL LAW REVIEW「NIL and Sports Representation: The New Wild West」(2025年7月24日)(https://natlawreview.com/article/nil-and-sports-representation-new-wild-west, 2026年7月15日最終閲覧)
16 ESPN 「Florida legislator says Bears DT Gervon Dexter's NIL deal violated law」(2023年9月5日)(https://www.espn.com/college-football/story/_/id/38335229/florida-legislator-says-bears-dt-gervon-dexter-nil-deal-violated-law, 2026年7月15日最終閲覧)
17 肖像権それ自体は人格権を根拠とする権利であるため、パブリシティ権についても、選手自身が自由に活用できるという主張には相応の説得力がある。
(2026年7月執筆)
(本コラムは執筆者個人の意見であり、所属団体等を代表するものではありません。)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者

安念 リサあんねん りさ
弁護士(青山綜合法律事務所)
略歴・経歴
早稲田大学法学部卒業、一橋大学法科大学院終了。2022年12月弁護士登録。アンダーソン・毛利・友常法律事務所で弁護士としてキャリアをスタート。
その後、青山綜合法律事務所へ入所。エンターテイメント分野の企業法務等を中心に幅広く取り扱う。
第一東京弁護士会総合法律研究所 スポーツ法研究部会 会員
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