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企業法務2026年09月29日 カスハラ防止のための措置の義務化について 執筆者:大西隆司

1 カスハラへの対応

 令和8年10月から施行される令和7年改正労働施策総合推進法(以下「法」といいます。)は、職場において行われる顧客等(顧客、取引の相手方、施設の利用者その他当該事業者の行う事業に関係する者)の言動であって、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される限度を超えたものにより、当該労働者の就業環境が害されるものをカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)とし、事業主に対し、カスハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けています(法33①)。

 同規定は、大企業・中小企業を問わずすべての事業者に義務付けられ、猶予期間は設けられていません。従来は、現場での対応に任せていた事業者も、カスハラ防止のため、措置義務に沿った対応が必要となります。

2 具体的な措置の内容

 法33条第4項に基づく指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として以下の項目を示しています。なお、指針は、消費者の正当な権利や、障害者差別解消法が定める不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務にも留意するよう求めていますので、措置をとる際には、これらの権利行使等をカスハラと判断しない枠組みを設けておく必要があるでしょう。

ア 方針の明確化と周知・啓発

 ①カスハラに毅然とした態度で対応し労働者を守る方針を明確化し、周知・啓発すること、及び②カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を周知することが求められています。

 対処の内容では、管理監督者へ報告し指示を仰ぐ、可能な限り労働者を1人で対応させない、やり取りの録音・録画、一定の場合の退店の求めや電話を切る、犯罪に該当し得る言動は、警察へ通報する等の具体的な対処が例示されています。

イ 相談体制の整備

 ①相談窓口をあらかじめ定めて、労働者に周知すること、②担当者が適切に対応できる状態を整えること(関連部署との連携の仕組み・マニュアルの整備、研修の実施等)が示されています。

ウ 事後の迅速かつ適切な対応

 指針は、カスハラに係る相談の申出があった場合の措置として、①事実関係を迅速かつ正確に確認すること、②被害者への配慮のための措置(行為者の引き離し、メンタルヘルス不調への相談対応等)を行うこと、③再発防止に向けた措置を講ずることが定められています。

エ 抑止のための措置

 また、特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備することか求められています。

 事前に、特に悪質な場合の判断基準を明示し、それに対する出入り禁止措置、警告書の対応、取引停止、警察への通報等といった措置を文書で定めておく必要があります。

オ 併せて講ずべき措置

 ア~エと併せて①相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること、②相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発することも必要となります。

 相談等を理由とする不利益な取扱いは、法33条第2項が禁じているところですが、①②の点について、就業規則その他の服務規律を定めた文書へ規定したうえで、労働者への周知・啓発が必要となります。

3 違反の場合の対応

 以上の措置義務を果たしていない場合、厚生労働大臣(都道府県労働局長へ委任)による助言・指導・勧告の対象となり(法42①)、勧告を受けた事業主がこれに従わなかった場合は、その旨が公表されることとなります(法42②)。

 また、措置の実施状況について報告徴収を求める規定もあり(法45①)、これに対し、事業主が報告をしない場合や虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料となることもあります(法51)。

 なお、以上の措置義務について、私法上の効力は規定されていませんが、カスハラに対する事業主の安全配慮義務違反の判断において、十分な防止措置をとっていたかどうかがその一つの事情として考慮される可能性が高くなると考えられるところです。

 カスハラに対し、指針に沿った措置を定め、対応しておく必要があります。

(2026年9月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

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