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一般2020年12月14日 特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年) 出典:帝国データバンク

後継者不在率、2011年以降で最低を更新全国で65.1%、3年連続で低下
~増える「内部昇格」型の事業承継、同族承継と0.1pt差に迫る~

はじめに
 地域の経済や雇用を支える中小企業。しかし、近年は後継者が見つからないことで、事業が黒字でも廃業を選択する企業は多い。日本政策金融公庫の調査では、60歳以上の経営者のうち50%超が将来的な廃業を予定。このうち「後継者難」を理由とする廃業が全体の約3割に迫る。
 後継者が不在であるなか、新型コロナウイルスによる業績悪化などが追い打ちとなり事業継続を断念する事例も想定され、その回避策として事業承継支援が今まで以上に注目されている。中小企業庁が2017年7月に事業承継支援を集中的に実施する「事業承継5ヶ年計画」の策定を皮切りに、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする目的で開始した「事業承継補助金」の運用など、円滑な事業承継に向けた積極的な支援が進んでいる。
 帝国データバンクは、2020年10月時点の企業概要データベース「COSMOS2」(約147万社収録)及び信用調査報告書ファイル(約180万社収録)をもとに、2018年10月-20年10月の3年を対象として、事業承継の実態について分析可能な約26万6000社(全国・全業種)の後継者の決定状況と事業承継動向について調査を行った
 同様の調査は2018年11月以来7回目。
1.2020年の「後継者不在」状況
年代別~事業承継適齢期の60代、2年連続で不在率5割を下回る~
 約26万6000社(全国・全業種)の後継者不在状況は、全体の約65.1%に当たる約17万社で後継者不在だった。
 社長年代別では、前年(2019年)と比べて「30代未満」「80代以上」以外で後継者不在率が低下。特に、「40代」以降の後継者不在率は調査開始以来で最低となっており、「50代」では初めて7割を下回ったほか、「60代」では2年連続で不在率が5割を下回るなど低下傾向がより強まった。
地域・都道府県別~後継者不在率は「西高東低」上位10県中4県は中国地方~
 地域別の後継者不在状況をみると、9地域中4地域で前年を下回った。「北海道」は調査開始以来一貫して全地域中最も高いものの、3年連続で前年を下回った。「関東」「近畿」では過去最低となった。
 一方、「四国」「九州」は5年連続、「中国」は2年連続で上昇。「中部」は3年ぶり、「北陸」は2年ぶりに増加した。特に、中国以西の西日本地域で後継者不在率が上昇している。
 都道府県別では、「沖縄県」が全国平均(65.1%)を大幅に上回る81.2%で全国トップ。しかし、2016年(86.2%)をピークに4年連続で低下した。このほか、「鳥取県」は昨年から1.9ポイント(pt)上昇して全国2番目の高水準。「山口県」、「島根県」など、上位10県中4県が中国地方で占められた。「和歌山県」では昨年から1.8pt上昇したものの、2年連続で全国最低となった。
 この結果、昨年から後継者不在率が低下した都道府県は18、昨年比上昇は27となった。なかでも「三重県」は全国で最も低下幅が大きく、昨年から8.6pt低下。首都圏1都3県もすべてで昨年から低下した。一方、「四国」は4県すべてで、「中国」は広島県を除く4県で上昇した。
 他の地方でも、主要都市を擁する都道府県では後継者不在率が低下した半面、その周辺地域では反対に上昇する傾向にある
業種別~7業種中5業種で前年を下回る~
 業種別で最も不在率が高いのは「建設業」で70.5%。その他を除く全7業種で唯一7割台となっているが、最も高い2018年からは2年連続で低下するなど、不在率には低下傾向がみられる。最も低いのは「製造業」で、全7業種中唯一の5割台となっている。ただ、「木材製品」(59.0%)や「家具」(61.4%)など製造15業種中8業種で前年を上回っており、分野によって後継者不在動向にバラつきがみられる。
 前年からの比較では7業種中5業種で前年を下回った。このうち、「サービス」は2011年の調査開始以降初めて不在率7割を下回ったほか、「卸売」「不動産」などとともに過去最低となった。
 他方、「小売」は前年から0.4pt上昇した。対前年で上昇したのは2017年以来3年ぶりとなる。「飲食店」(71.6%)「自動車類小売」(71.7%)などで、後継者不在率の高止まりが続いている。
2.2020年の事業承継動向
就任経緯~内部昇格が増加、同族承継と僅か0.1pt差に迫る~
 2018年以降の事業承継が判明した全国約3万3000社について、先代経営者との関係性(就任経緯別)をみると、2020年の事業承継は「同族承継」により引き継いだ割合が34.2%に達し、全項目中最も高かった。しかし、2018年からは約10pt下落しており、「同族承継」による事業承継割合は急減傾向にある。
 一方、血縁関係によらない役員などを登用した「内部昇格」は34.1%となり、同族承継の僅か0.1pt差に迫った。社外の第三者が就任した「外部招聘」は8.3%で、同じく割合に高まりがみられる。
 国内企業の事業承継は、同族間での事業引き継ぎから幹部社員など社内外の第三者人材へシフトがみられる。
後継候補属性~後継者候補、「子供」割合が最高「非同族」は変化なし~
 後継候補が判明する全国約9万3000社の後継者属性をみると、「子供」が最も高い40.4%で、前年から0.3pt増加した。2番目に高い「非同族」(33.2%)は前年から変化がなかった。
 承継を受けた社長の先代経営者との関係別(就任経緯別)に後継者属性をみると、「子供」を後継者候補とする企業が多いのは「創業者」(59.0%)と「同族承継」(49.9%)。ただ、創業者では子供を後継者とする割合は減少傾向にあるが、同族承継では逆に増加傾向で推移するなど、両者の間には動向に差がみられる。
 他方、社内外の第三者である「非同族」を後継候補に位置づけているのは「内部昇格」と「外部招聘」、買収などを含む「その他」に多い。「創業者」「同族承継」などファミリー企業でも「非同族」への事業承継=脱ファミリー化を考える割合が増加している。
 年代別に見ると、60代以降の社長では後継候補として「子供」を選定するケースが多い一方、50代以下の社長では「親族」や「非同族」を後継候補としている企業が多く、従来の傾向に変化はみられなかった。
3.今後の見通し~「後継者不在」企業への支援、今後は選別傾向となる可能性も~
 今回の調査では、2020年の後継者不在率(全国・全業種)は65.1%だった。3年連続で低下しているものの3社に2社が後継者不在となる高水準には変わりなく、また事業承継の検討期に入る50代で後継者不在が7割に迫る点も課題だ。しかし、同年代の不在率は初めて不在率7割を、ボリュームゾーンとなる60代では2年連続で同5割をそれぞれ割り込み、総じて改善傾向にある。
 帝国データバンクが今年8月に実施した調査iでは、調査対象1万2000社のうち約7割で事業承継を経営上の問題と認識、約4割で事業承継の計画があることが分かっている。政府や自治体、金融機関などが一体となって取り組んだ、後継者問題に対する地道な支援が中小企業にも浸透している様子がうかがえ、全国的な後継者不在問題の解消にも大きく役割を果たしたとみられる。
 事業承継は後継者候補の選定から育成、就任に至るまで中長期間を要し、なおかつリ・スタートが難しい。そのため事前の計画性や慎重性が最も重要となるが、時間や経営体力に余力がない中小企業ほど事業承継が難しい点には変わりない。そのため、企業自ら後継人材を育成する自助努力をサポートする、国や自治体によるプル・プッシュ型の公的支援などの働きかけが継続されれば、企業の後継者不在率は今後も改善傾向に向かう可能性が高いとみる。
 他方で、帝国データバンクが集計している「後継者難倒産」は増勢傾向で推移。2020年1-10月で375件発生し前年同期を上回っており、引き続き高水準で推移している。代表の病気・死去をきっかけに事業を断念する従来型のケースに加え、近年は事前に後継候補選定などの計画を進めていたにも関わらず、営業力や財務内容、事業将来性の弱さなどから思惑通りの支援が受けられず、事業承継が間に合わなかった「息切れ型」の後継者難倒産も目立っている。
 菅義偉政権は中小企業の再編を促す構えをみせるほか、中小企業の経営に伴走・支援する側の地域金融機関も再編が進むなど、中小企業の支援サイドにも環境変化の兆しがある。今後は、ビジネスモデルや事業の将来性が見込める企業へ支援のリソースを集中させるなど、事業承継支援の在り方=「質」の変化にも着目して動向をみる必要がある

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