企業法務2017年05月29日 次期会社法改正に向けた議論状況 会社法研究会が報告書を公表 発刊によせて執筆者より 執筆者:矢田悠
平成26年改正会社法は、平成27年5月に施行されましたが、早くも次期改正に向けた議論が進みつつあります。
平成29年3月2日、公益社団法人商事法務研究会に設置された会社法研究会は、平成28年1月から平成29年3月までの間に合計14回にわたり開催された研究会における主な検討の結果を取りまとめた会社法研究会報告書(https://www.shojihomu.or.jp/kenkyuu/corporatelaw)を公表しました。同研究会は神田秀樹学習院大学教授を座長として、研究者、企業、機関投資家、証券取引所、弁護士、関係省庁等からの委員により構成された研究会であり、過去の改正時の例に倣えば、この報告書の内容は、法制審議会内の会社法制(企業統治等関係)部会(平成29年2月9日、法務大臣の諮問を受けて設置。)による今後の会社法改正に向けた議論に大きな影響を与えることが予想されます。
報告書の主要な検討事項の概要は以下のとおりです。度重なる会社法改正への対応は、各社の法務担当者にとって負担となる面もありますが、他方で、改正により会社法実務がより合理化する面もあり、いずれにせよ今後の議論の動向を注視していく必要があります。
① 株主総会資料の電子提供(報告書第1)
現在、株主総会招集時に株主に対して提供される情報は、原則として書面により提供しなければならないとされており、電子提供は例外的に認められているに過ぎません(会社法第299条第3項、会社法施行規則第94条第1項等)。
しかし、印刷及び郵送費用の削減、情報の提供時期の前倒しによる株主と会社とのコミュニケーション促進等の観点からは、インターネットを活用した株主総会情報の電子提供を更に促進させることが合理的です。報告書ではこうした電子提供をより一層可能とする方向での新制度の創設が提案されています。
なお、上場会社など一定の範囲の会社に利用を強制するか、及び、利用する場合に定款の定めを必要とするかについては、株主に書面請求権を保障するか否か、保障するとしてどういった内容とすべきか等の論点と密接に関連することから、こうした関連する規律と併せて、引き続き検討することが相当とされています。
② 株主提案権の濫用的な行使の制限(報告書第2)
近年の株主総会において、著しく些末な内容や、個人的目的又は会社を困惑させる目的での株主提案権の濫用的な行使があったことを踏まえ、株主が同一の株主総会に提案することができる議案の数を制限することが提案されています。
なお、提案内容に一定の制限を課すことについても、規定を設ける方向で見直すこととし、どのような規律とすることが適切であるかについては、引き続き検討することが相当とされています。
③ 取締役会の決議事項(報告書第3)
現在、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社と異なり、監査役設置会社では、重要な業務執行は取締役会の決議事項とされており、業務執行者に委任することはできないものとされています(会社法第362条第4項と同法第399条の13第4~6項及び同法第416条第3、4項を対照。)。
そこで、研究会では、監査役設置会社においても、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社と同様に、取締役会の主たる職務を業務執行者に対する監督とし、業務執行は重要なものも含めて業務執行者による迅速な意思決定に委ねる運用(いわゆるモニタリングモデル)を採用することが可能となるよう、取締役の過半数が社外取締役であることなどの一定の要件の下に、重要な業務執行の決定を個別の取締役に委任することができるようにすべきかどうかについて検討がされました。もっとも、この点についてはコンセンサスを得ることができず、引き続き検討することが相当とされました。
④ 取締役の報酬(報告書第4)
現在の取締役の報酬の額の決定方法や開示に関する規制(会社法第361条、会社法施行規則第121条第4号等)については、緩やかな規制であるとの指摘や、取締役の報酬を適切に職務を執行するインセンティブを付与するための手段として捉えた場合には、固定報酬の割合が高く業績との連動が少ない我が国の実態は問題であるとの意見等があります。
研究会では、こうした問題意識を背景として、お手盛りの弊害防止や各取締役の報酬が動機付けの手段として相当なものとなっていることを担保する観点から、株主が報酬の内容の決定により強く関与できるよう株主総会決議や開示に関する規律を見直すことが検討され、引き続き検討することが相当とされました。
⑤ 役員の責任についての会社補償及びD&O保険契約の締結に関する手続(報告書第5)
優秀な人材を確保するとともに、役員に適切なインセンティブを付与し、役員が過度にリスクを回避しないようにするための方策として、役員に対する責任追及等に関して役員が要した費用等を会社が当該役員に対して負担すること(会社補償)が考えられます。もっとも、現行法上、この点に関する規定はないため、新たに会社補償に関して規定を設けることや、仮に会社補償に関する規定を設けることとする場合にはどのような規律とすることが適切であるかについて、引き続き検討することが相当とされました。
また、同様に、役員に適切なインセンティブを付与する手段の一つとしてはD&O保険契約が存在しますが、役員を過度に保護する内容のD&O保険契約が締結される場合には、高額な保険料の支払いによって会社財産が減少するのみならず、役員にいわゆるモラルハザードが生ずるおそれもあることから、D&O保険契約の内容の決定は、取締役会の決議によらなければならないとすることについて、引き続き検討することが相当とされました。
⑥ 新たな社債管理制度及び社債権者集会に関する規律(報告書第6)
社債管理者を設置することを要しない社債(会社法第702条、会社法施行規則第169条)についても第三者による最低限の社債管理を望む声が上がっているとの指摘等を踏まえ、会社が社債権者のために第三者に対して当該第三者との間の契約により一定の権限を付与し、社債管理者による管理よりも限定された管理を委託することができる制度を設けることが相当とされました。
社債権者集会については、社債権者集会の特別決議により、社債の元本及び利息の免除をすることができる旨の規定を設けることや、社債権者全員が同意した場合には、社債権者集会の決議を省略することができる旨の規定を設けることが相当とされました。また、社債権者全員の同意がある場合には、裁判所の認可を要しないで社債権者集会の決議の効力が発生することとすることについて、引き続き検討することが相当とされました。
⑦ 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解に関する規定(報告書第7)
現在、会社が責任追及等の訴えに係る訴訟における和解に当事者として参加する場合に関する規定はなく、この場合に会社を代表する者及び必要な手続について確立した解釈も存在していません。そこで、この点に関する規定を設けるかについても検討され、引き続き検討することが相当とされました。
⑧ 社外取締役の設置義務付け(報告書第8)
社外取締役の設置義務付けは、平成26年会社法改正時の議論において大きな争点の一つとなり、結局、設置の義務付けに代えて、上場会社等が社外取締役を置いていない場合の「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務に関する規定(会社法第327条の2)等が設けられました。
また、その後に公表されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場会社は独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとされ(原則4-8)、実際に東京証券取引所に上場する上場会社のほとんど(平成28年度においては95.8%、市場第一部については98.8%)で社外取締役が選任されています。
このような状況を前提に、会社法上も設置の義務付け等の規定を設けるべきか検討されましたが、社外取締役を置かなくてよいと説明しているごく少数の会社についてまで一律に設置を強制することは適切でないなどの意見もあり、引き続き検討することが相当とされました。
(2017年5月執筆)
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