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企業法務2018年12月13日 合同会社の設立時にご検討いただきたい点 発刊によせて執筆者より 執筆者:尾方宏行

 最近、新聞記事等で合同会社の利用件数が伸びているというものを見かけることが多くなりました。一例として、株式会社東京商工リサーチの記事「2017年「合同会社」の新設法人調査~新設企業の5社に1社が選択、構成比は過去最高に~」(公開日付:2018年8月20日)があります。同記事によれば、2017年1月―12月に全国で新設された法人は、131,981社(前年比3.1%増)で、2010年以来、8年連続で前年を上回り、なかでも「合同会社」は27,039社(同14.4%増)と急増ぶりが目立ったとのことです。合同会社は、株式会社と比較して、①設立・維持コストが安価となること、②現物出資規制が存在しないこと、③自由な内部設計が可能であること、④大会社規制が存在しないこと、⑤会社更生法が適用されないことなど様々なメリットがあると言われており、そのようなメリットを享受すべく、新設法人を設立する際に合同会社を選択する方が増加していると考えられます。合同会社は、まだ制度的に新しい会社形態であることから、現時点では社会的な認知度として株式会社に劣る部分もあるかもしれませんが、今後合同会社の利用が一層進むことで、合同会社の社会的認知度の低さも問題にならなくなる時代が来るのかもしれません。
 では、合同会社は実際にどのような場面で利用されているのでしょうか。同記事によれば、業種別でみると、社数トップは不動産業で6,024社(構成比22.2%)であり、年々増加しているとのことです(2015年:3,738社、2016年:4,465社)。また、金融、保険業も、2016年の前年比20.1%減(959社)から、2017年は同32.4%増(1,270社)と大幅に増えており、FX(外国為替証拠金取引)や急騰した仮想通貨で利益を得た個人が節税目的で「合同会社」を設立したことも増加の一因とみられるとしています。なお筆者の推測ではありますが、業種別社数トップが不動産業とされているのは、資産管理会社とする目的で合同会社を設立する場合、事業目的に「不動産の保有、売買、賃貸」等と記載する場合が多いため、業種別社数として不動産業がトップとなっているのではないかと思われます。一方で、同記事では、農・林・漁・鉱業以外の9産業が増加しているとされており、資産管理会社とする目的以外でも合同会社の利用が進んでいるようです。
 合同会社を利用することで起業のハードルが下がり、経済が益々発展していくことは何よりではありますが、合同会社は、株式会社と比較した場合、①法律で細かく利害調整の規律を設けていないこと、②制度としてまだ新しいことには注意する必要があります。社員が1名のみである場合や、近親者のごく少数の者に限られている場合など、社員間の信頼関係が崩れようのないほど強固であれば、社員間の利害調整についてこと細かな取り決めをしておく必要はないのかもしれません。一方で複数の社員があくまでビジネスベースで合同会社を運営していくのであれば、それなりの利害調整方法について予め当事者間で検討し、合意しておくことが望ましいと考えています。合同会社の設立手続きは、株式会社と比較して、費用面でもメリットがありますが、手続き面でも簡易に行うことが可能となっています。しかし、広く公開されている合同会社の定款モデルのなかには、必要最低限の定款規定だけを設けたに過ぎないものもあり、そのような簡易な定款では、ほとんど社員間の利害調整について何も決めていないといえるものもありますので、注意が必要です。合同会社を設立する時点から、社員間で、社員が退社する場合や解散する場合も想定したうえで、利害調整についてどのような方針とするのか十分に検討を行うことによって、合同会社を持続的に利用することができるようになり、合同会社の発展から、ひいては経済の発展へと繋がっていくと考えております。

(2018年12月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

尾方 宏行おがた ひろゆき

司法書士(簡裁訴訟代理等関係業務認定)司法書士法人ライプ事務所 代表社員

略歴・経歴

2000年12月 司法書士試験に合格
2001年 5月 東京証券代行株式会社に入社
2002年12月 同社退社
2003年 2月 福岡県司法書士会に登録 ライプ司法書士事務所を開設
2016年12月 司法書士法人ライプ事務所設立 代表社員就任
2017年 1月 東京司法書士会に登録
         司法書士法人ライプ事務所東京事務所を開設

<主な役職等>
 ・日本司法書士会連合会 商業登記・企業法務対策部委員
<主な著書>
 ・『論点解説 商業登記法コンメンタール』(共著、一般社団法人金融財政事情研究会、2017年)
 ・『平成26年改正 会社法 商業登記 理論・実務と書式』(共著、弁護士会館ブックセンター 2015年)
 ・『会社法定款事例集』(共著、日本加除出版、2015年)
 ・『モデル定款・規程集』(共著、新日本法規、2011年)
 ・『商業登記全書(第4巻)新株予約権、計算』(共著、中央経済社、2008年)
 ・『組織再編税制と株主資本の実務』(共著、清文社 、2007年)
 ・『Q&A株主資本の実務』(共著、新日本法規出版、2006年)

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