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民事2019年02月08日 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響 発刊によせて執筆者より 執筆者:楠慶

 平成29年に民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し、この法律の施行が2020年4月1日に予定されています。この改正は民法の債権法を対象とするもので、交通事故損害賠償業務にも影響が生じます。以下、改正により変化する点を簡単にご紹介します。

1 消滅時効期間
(1)短期消滅時効期間(主観的起算点)の特則(5年)の導入
 改正後の民法では、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間(短期消滅時効の期間/主観的起算点)について、原則として改正前民法と同様に被害者等が損害及び加害者を知った時から3年間(民法724条1号)としつつ、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の短期消滅時効の期間を5年間(民法724条の2)としました。
(2)長期消滅時効期間(客観的起算点)(20年)の導入
 改正後の民法では、従前判例法理で除斥期間と解されていた不法行為の時から20年間での権利消滅の規定について、消滅時効について定めたものであると明記されました(民法724条2号)。
(3)交通事故損害賠償業務への影響
 改正後の民法の文理解釈上の短期消滅時効の期間(主観的起算点)は、物損については3年間、人損については5年間、ということになります。
 また、今般の改正により、短期消滅時効の他に20年間の長期消滅時効の制度が設けられたこととなり、交通事故損害賠償業務において長期20年間の権利消滅が問題となる場面でも、中断、停止、信義則、権利濫用といった消滅時効に関して用いられてきた制度や理論による柔軟な解決が可能となりました。

2 時効の中断・停止(更新・完成猶予)
(1)概念の再構成(更新・完成猶予)
 改正後の民法は、従前の時効の中断事由と停止事由について、時効の「更新」と「完成猶予」という概念に整理し直しました。詳細については紙面の関係で割愛します。
(2)協議による時効の完成猶予制度の導入
改正後の民法では、新たな時効の「完成猶予」事由として、協議による時効完成猶予の制度が創設されました(民法151条)。
協議による時効の完成猶予の制度は、権利について協議を行う旨の合意を書面で行った場合に、
①合意時から1年を経過した時
②合意で協議実施期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは当該期間を経過した時
③当事者の一方が他方に協議続行を拒絶する旨通知した時は通知時点から6ヶ月を経過した時
のいずれか早い時まで、時効が完成しないこととなるものです。
(3)交通事故損害賠償業務への影響
 上記(2)の改正により、交通事故損害賠償業務において、交渉中や時効中断効が認められないADR手続中に時効が完成することを回避するために、時効の完成猶予に関する合意を書面で行うことが考えられます。

3 法定利率/遅延損害金
(1)変動制の導入
 改正後の民法では、法定利率について、改正後の民法の施行当初は3%とし、それ以降は3年毎に市中金利の動向を斟酌して変動するものとしました(民法404条)。なお、変動制といっても、ある債権の利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率によるものとされ、その後の法定利率の変動により変化することはありません。
 遅延損害金の利率も法定利率による(民法419条)ことから、不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金利率についても、改正後の民法の施行当初は3%とし、それ以降は3年毎に市中金利の動向を斟酌して変動するものとしました。なお、変動制といっても、ある債権の利率は、その債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によるものとされ、その後の法定利率の変動により変化することはありません。
(2)交通事故損害賠償業務への影響
改正後の民法の施行後は、法定利率は当初3%となり、その後、3年毎に見直しが行われることから、交通事故損害賠償業務において十分な注意が必要です。

4 中間利息控除
(1)中間利息控除の明文化
 改正後の民法では、中間利息控除を行う場合に関する明文の規定が設けられました。民法417条の2の第1項は、将来取得すべき利益の損害賠償額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額、すなわち中間利息を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点の法定利率により行う旨を規定しています。
(2)交通事故損害賠償業務への影響
 改正後の民法の施行後は、逸失利益を算定するために中間利息を控除する場合の法定利率は、施行当初は3%、その後は3年毎に変動することになり、逸失利益の算定額が相当程度変動することになります。
 なお、中間利息控除を行う場合に用いる法定利率の基準時は、損害賠償請求権が生じた時点である交通事故時、となります。

5 不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止
(1)相殺禁止の限定
 改正前の民法509条は、不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺を一律禁止していましたが、改正後の民法509条は、①悪意による不法行為に基づく損害賠償債務と②人の生命又は身体の侵害による損害賠償債務を受働債権とする相殺のみを禁止することとしました。
(2)交通事故損害賠償業務への影響
 改正後の民法509条の文理解釈によれば、悪意によらない交通事故の物損については、不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権とする相殺は禁止されないことになります。

(2019年2月執筆)

参考文献
・「民法改正と損害賠償実務(民法改正検討プロジェクトチーム報告)」赤い本(2017)下巻 103頁~
・大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編「実務解説 民法改正 新たな債権法下での指針と対応」(民事法研究会)48頁~、50頁~、59頁~、70頁~、73頁~、74頁~、218頁

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執筆者

楠 慶くすのき けい

弁護士

略歴・経歴

1992 私立市川高校卒業
1998 早稲田大学法学部卒業
1999 司法試験合格(第54期)
2001 第二東京弁護士会に登録
   ひかり総合法律事務所に入所
2019 東京桜橋法律事務所に入所

<所属団体/公職>
第二東京弁護士会
第二東京弁護士会法律相談センター運営委員会副委員長
第二東京弁護士会仲裁センター仲裁人
東京地方裁判所破産管財人
東京地方裁判所(借地非訟における)鑑定委員候補者
東京家庭裁判所成年後見人・成年後見監督人候補者
第二東京弁護士会住宅紛争審査会紛争処理委員
第二東京弁護士会倒産法研究会

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