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企業法務2016年07月21日 止まない「バイトテロ」 発刊によせて執筆者より 執筆者:町田悠生子

 「バイトテロ」という言葉を耳にするようになったのは、今から3年前(2013年(平成25年))頃であったと記憶している。コンビニエンスストアやファーストフード店等の、主としてアルバイト従業員が、アイスケースの中に寝そべったり、ピザの生地を顔に貼り付けたり、冷蔵庫の中に入ったりするなどの悪ふざけをしている様子を撮影した写真をFacebookやTwitterに投稿し、それが炎上する騒ぎが立て続けに起きた。そのようなモラルを欠く若者の行動に、当時、大人たちは、驚き、動揺し、理解に苦しみ、そして、少なからず日本の将来を憂いていたように思う。
 それから3年。
 「バイトテロ」や、それに類する事件の報道は、今も引き続き、しばしば耳にする。そして、人々は、もはや驚かず、「またか」くらいにしか受けとめなくなった。
 しかし、「またか」と思ってしまうほど「バイトテロ」が珍しさを失ったということは、「バイトテロ」が企業にとって「通常の」リスクとなったということを意味する。3年前であれば、「バイトテロ」が起こっても、世間の中には、「たまたまそのような従業員がいただけ。会社は悪くない」であるとか、「会社は被害者だ」などと、「加害」従業員と企業とを切り離して捉える向きもあったかもしれない。しかし、SNSが急激に普及し、「バイトテロ」が止まない今、「バイトテロ」を含め従業員による不適切投稿がひとたび世に広まると、世間は、「企業は従業員教育をきちんと行っていたのか」、「防止策は採っていたのか」等、事前対策の充実度と炎上後の適切な事後対応に厳しい目を向けるようになる。そして、それらが不十分と評価されれば、企業は、不適切投稿によって毀損された信用を、自らさらに毀損してしまうことになりかねない(会社に重大な損害が生じれば、最終的には、取締役ら役員の責任(善管注意義務)につながりうる問題でもある。)。
 リスク回避のためには、適切な従業員管理が必要となるが、「バイトテロ」対策の難しさの一つは、それが「バイト」等のいわゆる非正規従業員によってなされることが多い、という点にある。非正規従業員、とりわけアルバイトの労務管理は、本社による管理が及びにくく、各店舗に任せきりになるなど、どうしても手薄になりがちである。また、アルバイトの人数が多かったり、全国に散らばっていたり、一人一人の勤務時間が短かったりすると、事前対応としての従業員教育を十分に行き渡らせることも、そう簡単ではない。また、先日、都内の有名ホテルで働くスタッフが、自身のTwitterに女性アイドルが来館した旨の投稿をし、ホテルが謝罪を余儀なくされた事件があったが、そのスタッフは、ホテルの従業員ではなく、ホテルの業務委託先の従業員であった。このように、労務管理が手薄になりがちなところや、さらには、直接の労務管理を及ぼし得ないようなところに、SNSリスクの温床がある。
 そして、不適切な投稿が通常、私生活上の行為としてなされるという点にも、労務管理上の難しさがある。「バイトテロ」ではないが、つい先日、裁判官が自宅等での自身の半裸画像をTwitterに投稿し、それが不適切なものとして非難されるべきか、それとも、職業とは離れた私生活の場での自己表現として受けとめられるべきかが議論となった。3年前に頻発した「バイトテロ」の典型形態では、投稿画像が「バイト中」に撮影されたため、就業時間中における職務専念義務・服務規律違反行為の存在は明確であったが、昨今の不適切投稿は、就業時間外の、私生活の場でなされることの方が増え、そうなると、従業員の私生活上の行為を、企業がどこまで、どのように規律できるのか、といった問題も生じることになるのである。
 SNSは、今後、ますます有用性を増し、スマートフォンの普及・機能の高度化と相俟って、利用者は一層増えていくであろう。企業にとっては、リスクが増えるばかりではあるが、SNSをめぐっていかなるリスクがあるのかを適切に分析・把握し、それを踏まえた上で、従業員に対して折りに触れて適切な使用を求め、繰り返し指導していくといった日頃の地道な積み重ねこそ、結局のところ、企業を守る最も有用な策であるように思う。

(2016年7月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

町田 悠生子まちだ ゆきこ

弁護士

略歴・経歴

2006年慶應義塾大学法学部卒業、2008年同大学大学院法務研究科修了、2009年弁護士登録(第二東京弁護士会、62期)。2012年五三(いつみ)・町田法律事務所開設、2020年より第一芙蓉法律事務所所属。経営法曹会議会員、日本労働法学会会員、第二東京弁護士会労働問題検討委員会副委員長。
主な著作に、『労働法制の改革と展望』(分担執筆、日本評論社、2020年)、『労働法務のチェックポイント』(共著、弘文堂、2020年)、『裁判例や通達から読み解くマタニティ・ハラスメント』(編著、労働開発研究会、2018年)など。

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