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企業法務2021年12月20日 持続可能な雇用・SDGsな労使関係 発刊によせて執筆者より 執筆者:原田満

 近年、メディアなどを通じてメンタル不調に関する話題をよく耳にします。メンタル不調が生じると、仕事においては勤労意欲・モチベーションの低下であったり、場合によっては欠勤や休職にいたることもあります。

 従業員がメンタル不調によって欠勤や休職となってしまった場合、会社としては、その従業員の代替要員として、新たに人員を補充しなければならない事態も生じます。そのような事態となった場合、新規採用のコスト(費用や労力)はもちろん、採用後にも社内ルールやスキルの習得といった新人研修等が必要となり、新規に採用した従業員が一人前に活躍してくれるようになるまで、会社にとって大きな負担となります。また、欠勤や休職している従業員のために人員を補充した場合、特に中小企業においては、従業員が復職することで余剰人員となってしまい、それも大きな負担となります。

 その反面、従業員のメンタル不調を未然に防ぎ、その上で、高いモチベーションをもって、長く会社で活躍してくれることは、社内における業務の経験もあいまって、より良い成果につながります。従業員の雇用やマネジメントの場面で、人材のことを「人財」と表現する例が見られますが、これは「宝」や「値うちのあるもの」といった意味合いの「財」を使って当て字にしたものです。従業員がその能力を存分に発揮できる良好な職場環境の構築は、当該従業員にとって有益であることはもちろん、諸外国に比べ、人材の流動化が乏しい我が国の法制においては、従業員が、文字どおり「宝」となり、会社にとっても有益なことであるといえます。

 この良好な職場環境の構築という点で考えますと、会社には就業規則という自主規範があります。就業規則には、絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項だけではなく、任意の事項を記載することができます。当然ながら強行法規等に抵触する規定は認められないものの、就業規則には会社の企業理念を示すことなども含め、任意的な事項を幅広く規定することができます。そこで、就業規則を活用することで良好な職場環境を構築し、従業員が高いモチベーションを持って仕事に取り組めるよう工夫することが考えられます(ただし、就業規則には「最低基準効」がありますから、大盤振る舞いをしてしまうと、かえって会社の首を絞めてしまうことにもなりかねませんので、その点はバランスも必要です)。

 そして、就業規則の規定としてメンタル不調になってからの規定はもちろんですが、メンタル不調になってからの対応よりも、むしろメンタル不調の予防こそが望ましいものであり、かかる予防のための規定も重要であるといえます。

 この度、新日本法規出版さんから、「就業規則からみるメンタル不調の予防と対応-規定整備のポイント-」(編著者:原田満・岡崎教行、執筆者:佐藤嘉寅・西尾雄一郎・脇田淳)という書籍を出版させていただくことになりました。本書においては、就業規則の規定例としてメンタル不調になってからの対処、メンタル不調を予防するための規定例についてスタンダードな規定例だけでなく、チャレンジ的な意味合いの規定例も掲載しています。

 終身雇用という制度自体は過去のものかもしれませんが、良好な職場環境の中、より長く従業員に勤務してもらい、その経験をもとに能力を存分に発揮してもらう。そして、その経験が次の世代の従業員に受け継がれる。このような連鎖が、まさに持続可能な雇用・SDGsな労使関係につながっていくのではないでしょうか。

(2021年12月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス

執筆者

原田 満はらだ みつる

弁護士(萬國橋法律事務所)

略歴・経歴

平成10年3月 新潟大学法学部卒業
平成14年3月 法政大学大学院修了(法学修士)
平成16年11月 司法試験合格

現在、弁護士としての業務の傍ら、
司法試験受験予備校(伊藤塾)で司法試験の講師を務める。

講演会として、以下各種団体等での実績あり
・宅建協会での業者向けの講演会
・神奈川県行政書士会での講演会
・神奈川県弁護士会不動産法研究会での講演会
・大学での講義

【著書・論文】
「保証委託取引における被担保債権の範囲」(きんざい 月刊登記情報第48巻7号)
「不動産をめぐる金銭請求の実務」(新日本法規,共著)
「借地の諸問題」(横浜弁護士会専門実務研究,共著)
「事業用ビルの賃貸借における法的対処と契約書式集」(綜合ユニコム,共著)
「不動産賃貸借と破産・民事再生・会社更生」(横浜弁護士会専門実務研究,共著)
「事例式民事添付書類」(新日本法規出版,共著)
「実務論点会社法」(民事法研究会,共著)
「マンション・団地の法律実務」(ぎょうせい,共著)

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