カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

民事2015年07月13日 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある? 発刊によせて執筆者より 執筆者:冨永忠祐

 妻が浮気をして、不倫相手の男性の子を出産してしまうケースがあります。当然ながら、自然的血縁関係上は、当該男性が父です。
 しかし、法律上は、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定(嫡出推定)されますので(民法772条1項)、法律上の父は、夫です。
 この場合、夫は、裁判所に嫡出否認の訴えを提起して、自分が子の父ではないことの確認を求めることができます(民法774条・775条)。ただし、この嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければなりません(民法777条)。
 ところで、婚姻中であっても、例えば夫が長期間単身で海外出張をしていたなどの事情から、客観的に見て妻が夫の子を懐胎する可能性が全くないケースでは、「妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定される」という上記の嫡出推定の前堤が欠けることになります。そこで、判例・学説は、そのような場合には親子関係不存在確認の訴えによって、親子関係の不存在の確認を求めることを認めています。この訴えは、嫡出否認の訴えと異なり、1年間の出訴期間の制限がありません。
 では、妻が浮気をして、不倫相手の男性の子を出産してしまったという上記のケースではどうでしょうか。
 まず、嫡出否認の訴えには、上記のとおり、子の出生を知った時から1年間という出訴期間の制限があります。夫としては、生まれてきた子は我が子であると信じるのが普通ですから、自分の子ではないことに気づいた時点では既に1年が過ぎており、手遅れになっていることが多いでしょう。
 次に、親子関係不存在確認の訴えは、上記のケースでは提起することが難しいと思われます。なぜなら、特別な事情がない限り、客観的に見て夫の子を懐胎する可能性が全くなかったとは言えないからです。
 そうすると、上記のケースにおいて、夫が親子関係の不存在を主張することは、現実には相当に難しいと言わざるを得ません。すなわち、妻の不倫相手の男性の子と夫との間には、自然的血縁関係はありませんが、法律上は親子となるのです。
 そうすると、夫は、妻の不倫相手の男性の子に対しても扶養義務を負います(民法877条)。しかし、この結論は、夫にとって気の毒な面もあります。
 そこで、同種の事案で、妻が夫に対して養育費を請求することを認めなかった判例があります(最判平23・3・18判時2115・55)。この事案では、妻は、婚姻中に夫以外の男性と性的関係を持ち、その結果、二男を出産し、それから約2か月以内に二男と夫との間には自然的血縁関係がないことを知ったにもかかわらず、このことを夫に告げず、夫がその事実を知ったのは、実に、二男の出産から約7年も経過した後でした。そのため、夫は嫡出否認の訴えを提起することができず、しかも親子関係不存在確認の訴えも却下されてしまったので、もはや夫が二男との親子関係を否定する法的手段は残されていませんでした。夫は、それまで二男の養育監護のための費用を十分に分担してきており、他方で、妻は、離婚に伴い相当多額の財産分与を取得するので、離婚後、二男の養育費を妻が分担することが可能でした。こうした事情を総合的に考慮して、妻から夫に対する養育費の請求を権利の濫用として却下したのです。
 世の中には、生まれてきた子が妻の不倫相手の子であるという真実を知ったとしても、妻の犯した過ちを許して、我が子として育てる苦渋の選択をする夫もいるでしょう。しかし、そのことをどうしても受け容れられない夫も少なくないと思います。したがって、生まれてきた子が夫の子ではないことを知った妻は、速やかに夫に対して真実を告げて、夫が嫡出否認の訴えを提起できる機会を付与すべきです。上記の判例は、こうしたケースで妻が不誠実な対応をすると、夫に養育費を請求できない場合もあり得ることを警告したものと言えます。

(2015年7月執筆)

発刊によせて執筆者より 全69記事

  1. 相続問題に効く100の処方箋
  2. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  3. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  4. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  5. 専門職後見人の後見業務
  6. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  7. 登記手続の周知
  8. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  9. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  10. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  11. 自動車産業における100年に1度の大変革
  12. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  13. 消費税法に係る近年の改正について
  14. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  15. 労働者の健康を重視した企業経営
  16. 被害者の自殺と過失相殺
  17. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  18. 意外と使える限定承認
  19. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  20. 筆界と所有権界のミスマッチ
  21. 相続法改正と遺言
  22. 資格士業の幸せと矜持
  23. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  24. 人身損害と物的損害の狭間
  25. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  26. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  27. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  28. 子を巡る紛争の解決基準について
  29. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  30. 相続法の大改正で何が変わるのか
  31. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  32. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  33. 身体拘束をしないこと
  34. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  35. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  36. 借地に関する民法改正
  37. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  38. 農地相談についての雑感
  39. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  40. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  41. 相続法改正の追加試案について
  42. 民法(債権法)改正
  43. 相続人不存在と不在者の話
  44. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  45. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  46. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  47. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  48. 次期会社法改正に向けた議論状況
  49. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  50. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  51. 障害福祉法制の展望
  52. 評価単位について
  53. 止まない「バイトテロ」
  54. 新行政不服審査法の施行について
  55. JR東海認知症事件最高裁判決について
  56. 不動産業界を変容させる三本の矢
  57. 経営支配権をめぐる紛争について
  58. マンションにおける管理規約
  59. 相続法の改正
  60. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  61. 最近の地方議会の取組み
  62. 空き家 どうする?
  63. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  64. 最近の事業承継・傾向と対策
  65. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  66. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  67. 境界をめぐって
  68. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  69. 個別労働紛争解決のためのアドバイス
  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索