相続・遺言2023年06月16日 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題 発刊によせて執筆者より 執筆者:井出尚哉
昔の遺産分割制度では、戸主に相続があれば家長が全ての遺産を相続することが一般的であったため、財産の承継という意味では単純でした。しかし、家督相続制度が昭和22年の民法改正とともにその役割を終えてからは、複数の相続人間の協議で自由な遺産分割をすることができるようになりました。
また、遺言制度においては、家督相続制度が終了してから遺言書の作成数が徐々に増加していきました。平成31年の民法改正により自筆証書遺言の作成が容易になったことや、令和2年に法務局による自筆証書遺言保管制度が創設されたことで、近年は、被相続人の様々な意思を反映した遺言による財産移転が行われるようになり、承継方法の多様性や柔軟性が増してきているように思われます。
このように、被相続人の意思や相続人の協議による自由な財産移転が広まってきている一方で、相続人の権利意識の拡大に伴い、相続が「争族」に発展してしまうケースも増加しています。そのため、相続人間での争いが生じないように配慮をしたり、登記・名義変更・解約等の相続手続の際に予期せぬトラブルが生じないようにしておく必要があります。
また、遺言や遺産分割協議の内容の多様化に伴い、承継方法によっては、相続税のみならず、他の税目まで課税が波及する可能性があるため、思わぬ課税関係が生じないような遺言書・遺産分割協議書を作成することも重要となります。
相続税以外の税目で課税関係が生じるケースは以下のような場面が考えられます。
① 遺産分割協議の場合
不動産を単独で取得する代わりに他の相続人へ金銭を支払うことで分割したいという場合、支払う金銭が取得する不動産価額の範囲内であれば問題ありませんが、その範囲を超える場合には、金銭を収受する相続人に「贈与税」が課税されてしまいます。
② 遺言の場合
法人へ含み益のある不動産や有価証券等を遺贈する内容の遺言であった場合には、被相続人が相続開始時の時価で財産を譲渡したものとみなされ、準確定申告によって相続開始日から4ヵ月以内に譲渡所得税を納めなければなりません。
また、遺言書の内容によって、相続税の計算方法が異なる場合もあります。例えば、生前に世話になった相続人以外の個人に財産を取得させるとともに、債務や葬式費用を負担させる遺言を目にすることがあります。この場合、その個人が「包括受遺者」と判断されれば、債務控除が可能となりますが、「特定受遺者」と判断された場合には、実際に負担をしていても債務控除をすることができず、相続税額が増加してしまうことになります。
このように、税法では多様な財産移転に対応するために様々な規定が設けられていますが、その内容は財産移転の形態や受益する相続人・受遺者の別によって複雑であり、遺言書・遺産分割協議書による財産移転に伴って生じる解釈・課税関係を網羅的、かつ適切に判断することは容易ではありません。
そこで相続問題に携わる税理士・弁護士・司法書士等の専門家の皆様、銀行の実務担当者の皆様、相続問題に関心をもたれている一般の方々のために「遺言・遺産分割による財産移転と課税関係のチェックポイント」(令和5年5月発行 新日本法規出版)において、遺言書・遺産分割協議書の財産移転に伴う課税関係を多くの具体的な事例を掲げながら分かり易くとりまとめました。是非お手に取ってご参照いただけますと幸いです。
(2023年6月執筆)
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執筆者
井出 尚哉いで なおや
税理士(税理士法人 髙野総合会計事務所)
略歴・経歴
<著書>
『税理士のための法人⇄個人間の借地権課税 はじめの一歩』(共著 税務経理協会)
『時価・価額をめぐる 税務判断の手引』(共著 新日本法規出版)
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