訴訟・登記2022年10月07日 登記手続の周知 発刊によせて執筆者より 執筆者:佐々木聡史
2021年4月頃に「相続登記の義務化」について、日本経済新聞の記事を見ました。同じ日に何人かの顧客から慌てた様子で「相続登記が義務化になったんだってね」、「急いで登記しないと罰金がくるね」、「どうしたらいい?」といった質問がありました。いずれも「2024年頃からだから慌てなくていいですよ」とお答えしましたが、大きな変化が起こったにもかかわらず、私の中では、それほどの緊張を感じることはありませんでした。以前から相続登記が義務化となること、それについては時間的猶予があることを知っていたからなのでしょうか、それとも変化が大きすぎて実感がないからでしょうか、登記をすることは任意ではあるものの必要であることからそれをすることを当たり前と思ってきたからでしょうか、いずれにせよ、登記に関する専門家である司法書士だからと言えます。
問合せをくれた顧客は、「相続」、「登記」、「司法書士」が何であるかをわかっているので、私を思い浮かべたわけで、私に相続登記を依頼するかどうかは別として、相続登記の義務化の法律が施行された暁には罰金(実際には過料)を支払うことはないでしょう。義務であることを知っても、それの義務は何なのか、いったいどのような問題があるのか、それを解決するにはどのような方法があり、誰に頼めばよいのかを知ることは大切なことと考えます。そして、国民にその情報を提供することは国家と専門家の責務です。
法務省の「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」と題したホームページにおいて、新制度の認知度についての調査結果が掲載されています。令和4年9月6日に公表され、本人、配偶者又は親が不動産を所有している20代以上の成人男女1,200人(20代から70代以上まで。各世代で200人ずつ。)を対象として、WEBアンケートにより調査を行った結果、相続登記の義務化を「よく知らない」、「全く知らない」と答えた人は、約66%とのことです(同ホームページの内容を一部引用)。この結果には危機感を覚えます。
日本では、所有者不明土地が国土の2割にも及び、相続登記が未了であることや共有であることが原因の一つであると言われています。相続が共有を生むことから共有と相続は密接に関連します。共有には単独である場合に加えた別のルールがあり、その権利と義務は共有者の数とその共有者各自の置かれた状況によって様々であることが問題を複雑にします。そして、登記記録はその複雑な権利義務関係を忠実に表し、問題が解決されていればその結果が、解決されていなければ次にどうすれば良いかを見極めることができる情報が記録されるべきであると私は考えます。
不動産における問題の解決の第一歩は、法務局において登記記録を見る(登記事項証明書を見る)ことからです。その問題の解決に資する情報をよりわかりやすく、簡潔に、さらに迅速に提供することが登記申請です。相続登記の義務化はまだまだ国民に周知されていないことは、先のアンケート結果のとおりであるので、我々専門家も周知のためにさらなる努力が必要と感じますが、この義務化により、「登記」の必要性やその有用性が国民に広く認知され、共有関係をはじめとする多くの問題を解決する糸口となることを祈ります。
(2022年9月執筆)
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執筆者
佐々木 聡史
司法書士・行政書士
略歴・経歴
主な役職:愛知県司法書士会副会長
日本司法書士会連合会 商業登記・企業法務対策部 部委員
〈最近の著書〉
・「不動産登記と法律実務-登記官のチェックポイント-」(共著 新日本法規出版)
・「令和元年改正会社法及び令和3年商業登記規則の理論と実務・書式」(共著 LABO)
・「令和3年改正民法・不動産登記法対応 ケース別 共有に関する不動産登記」(単著 新日本法規出版)
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