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民事2017年07月13日 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について 発刊によせて執筆者より 執筆者:森公任 森元みのり

1 現在の実務では、財産分与について夫婦の寄与割合を原則として平等とする「2分の1ルール」が当然の前提のようになっています。しかしそう遠くない過去において、専業主婦に対する財産分与割合を3分の1や4分の1としていた時代もありました。これは専業主婦の貢献度を低く見積もるもので現在では通用しない考え方ですが、最近では、別の観点から、2分の1ルールの機械的な適用に慎重である動きも観察されるように思われます。

2 例えば、平成26年3月13日大阪高等裁判所判決(判タ1411号177頁)では、「ⅰ 夫婦の一方が,スポーツ選手などのように,特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが,加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり,通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など,高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保障するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合,ⅱ 高額な収入の基礎となる特殊な技能が,婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて,婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合」を例に挙げて、個人の尊厳の観点から、こうした事情を考慮して寄与割合を加算する必要性を指摘しています。この事例では夫が医療法人を経営する医師であったところ、個人の尊厳と両性の平等の両面を反映させた結論として夫:妻=6:4の寄与割合としています。
 その他、離婚事件の現場では、必ずしも特殊な技能とまではいえないような事情でも、寄与割合を修正する事案を見ることがあります。

3 また、財産分与の実務において、基準時に存在する財産は原則として夫婦共有財産であると推定され、ある財産が特有財産であることについては特有性を主張する者が立証しなければならないことも、常識のようになっています。その立証も、例えば預金であれば、単に婚姻時の残高証明書や相続を証明する遺産分割協議書等だけでは足りず、ある口座に存在した又は入金された特有財産が、基準時にもそのまま残っているというつながりまで証明することを求められることもあります。婚姻期間中、特有財産と共有財産を区別して管理するよう意識している人は稀でしょうから、この特有財産の立証のハードルは高いものです。
 しかし実は、特有財産の厳密な立証には成功できなくても、夫婦一方の特有財産がかなり多かったと推認されるケースなどでは、寄与割合の修正により対応していることもあります。

4 このように、財産分与の対象財産の抽出や評価といったプロセスの後、2分の1ルールをそのまま適用するだけでは妥当な結論を導き出せないときには、寄与割合を修正することがあり得るということです。
 近年、夫婦の形は急速に多様化しています。1990年代半ばからは共働き世帯が専業主婦世帯を上回るようになり、2016年には共働き世帯が1129万世帯、専業主婦世帯が664万世帯という統計が出されています(総務省等)。離婚により母子家庭となる経済的弱者の権利を守るという観点からは、夫婦共有財産の推定や2分の1ルールには大きな意義があります。一方、多様な夫婦において個別的事情を尊重するという視点は、特有財産の認定や寄与割合の修正について柔軟であるよう促すことになります。やはりバランスが肝心です。

(2017年7月執筆)

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